名前の無い殺人鬼

街に溢れるのは

簡単な仮装をした人、

特殊メイクを施した

完璧な仮装をした人、

仕事に疲れて

騒ぐ人々に苛立つ人、

騒ぐ彼らを誘導する若い警察官。

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トリックオアトリート！！

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フェイスペイントを施した子供たちは

口々にそう言って

商店街を練り歩き、

お店の人からお菓子を貰う。

あげる人も

貰う人も

良い笑顔だった。

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狼男と吸血鬼が振り返れば、

そこには死神の仮装をし

右手に

草刈り鎌を持った青年が一人

にこやかな笑みを浮かべて立っていた。

そう言って押し飛ばそうとした右手が

死神に触れるよりも速く

草刈り鎌が吸血鬼の首を切り裂いた。

吹き出す鮮血。

次いで痛みが脳味噌に届く。

首元を押さえる吸血鬼に

容赦なく鎌は振り下ろされた。

鎌の刃先は見事

吸血鬼の左肩を抉る。

血を吐きながら、

痛みに悶える吸血鬼。

それでも負けじと

顔を上げたその右目に

鎌が突き刺さった。

膝から崩れ落ちる吸血鬼。

死神は逃がすまいと

さらに刃を押し込んでいく。

根本まで刺さると、

吸血鬼は白目をむいて

ゆっくりと仰向けに倒れた。

楽しそうな声で言う死神。

押し飛ばされた魔女は、

死神の足元に倒れ込む。

その拍子に

口に押し込まれていた物が取れた。

魔女が救いを求めるよう伸ばし、

死神の真っ黒なローブを掴んだ手は

吸血鬼の返り血で真っ赤に染まる。

床を這いずりながら

逃げようとする魔女に、

死神は

鎌を振るう。

パックリと綺麗に切り裂かれた背中から

血が止めどもなく溢れ出る。

しかし、

顔を上げると

そこに狼男の姿は無かった。

死神は重いため息をこぼす。

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走って

走って

とにかく一秒でも遠くへと

息を切らせて走った。

ぶつかった相手が転んでも

怒鳴ってきても

全て無視して。

何度も角を曲がり、

背後から迫りくるような

そんな気配を振り払おうとした。

冷静に考えれば、

電車やタクシーに乗って

遠くへ逃げることも出来たはずなのに…。

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暗い路地に逃げ込んで

狼男は足を止めた。

そう言うのは

草刈り鎌を持った死神。

死神はにこやかな声で言うが

その足元には

血塗れの肉塊が

二つ、

転がっている。

ソレが何であるか、

脳味噌が理解を拒む。

残念そうに呟き、

鎌に付いた血を払う。

ジリジリと後ずさる狼男。

死神は

ゆっくりとした歩みで

近づいてくる。

”少々どころの返り血じゃねぇよ！”

そうツッコもうとした狼男に

鎌が振り下ろされ、

肩口がバッサリと切り裂かれた。

傷口を押さえるも意味も成さず、

ボタボタと血が溢れ出て止まらない。

言いながら、

力無く膝を付く。

ヒュッと

鎌が空気を裂き、

次いで痛みが襲う。

ポトリ、と

軽い音を立てて落ちる

左耳。

狼男は抵抗するも、

意味をなさず、

叫び声も、

助けを求める声も

断末魔も

全てが

ハロウィンを楽しむ人々の

ざわめきに溶けて消えた───。

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🎃END🎃