ひまり
そっか、そんなことが…
少年
それ以降、お姉ちゃんは友達を連れて家に来るようになって
少年
その度に僕は、殴られて、蹴られて
少年
中でも蘭さんって人は、特に乱暴で
少年
凶器を使って傷つけてきたり、とか
少年
僕が殴られてる動画をネットにあげたり、学校のみんなに変な噂を流されたり
少年
精神攻撃的なことも、たくさんされました
ひまり
うわあ
ひまり
そんなことしたら拡散されて炎上しそうなもんだけどね
少年
…そんなに広まらなかったんだと思います
少年
SNSのフォロワー、10人くらいしかいないみたいでしたし
ひまり
ぶはっ!なにそれ
ひまり
学校とか友達の前では偉ぶってるけど全然人脈ないんだ、笑えるね
ひまり
っていうか、あれ?
ひまり
今日の刺し傷、あれも蘭がやったの?
少年
…そう、ですね
少年
包丁持ってこいって言われて持ってったら
少年
自分の腕に思いっきり刺せって言われて
ひまり
え、なにそれ怖
少年
…最初に刺した時、怖くて手に力が入らなくて
少年
そしたら蘭さんが「手抜いてるのバレバレだよ」って
少年
何回も何回も殴られて、泣きながらもう1回刺しました
少年
それが、さっきの怪我です
ひまり
なんていうか、やること卑怯だね
ひまり
自分では手下さないんだ?
少年
…はい
少年
「お前がやったんだからお前が悪い」って、言ってました
ひまり
あー、蘭っぽいな〜
少年
…すみません、僕の話ばっかりしちゃいました
少年
ひまりさんも、お姉ちゃんたちにひどいことされてるんですよね
少年
ひまりさんのお話も聞きます
ひまり
ひまり
別にいいよ
ひまり
私のほうは大したことないし笑
少年
え、でも…
ひまり
っていうかごめんね
ひまり
私ちょっと殴られただけなのに、きみに無理させちゃって
私はそう言いながら
泣きそうな心とは裏腹に笑っていた。
こんなふうに心配してもらえたのは初めてで、どう対応していいのか分からなかったし
少年に心配をかけたくなかったし
なにより、「いじめに打ち勝てない弱いやつだ」って思われたくなかったから。
少年
そんなことないです
少年
ひまりさんも僕のこと、守ってくれたし
ひまり
そんなのは当然だよ
ひまり
私は年上なんだから
少年
ひまり
ほんと、全然大丈夫だから
ひまり
いじめって言ったって軽いもんだし
ひまり
独りでいるの、慣れてるし
少年
だって
ひまり
それに私は学校にいない時はなにもされないから
ひまり
きみのほうがずっとつらいと思うよ
ひまり
生活にあいつらが入り込んできてるんだから
ひまり
君に比べたら私は…
少年
…やめてください
少年はいきなり私の手首をつかんだ。
ひまり
っえ?
ひまり
な、なに、力強いね
少年
ひまりさんが笑って誤魔化すから
ひまり
誤魔化してないって
ひまり
離して
少年
僕のことが信じられないからですか
少年
僕が頼りないからですか
ひまり
そんなんじゃないって
ひまり
話すようなこと特にないから…
少年
ひまりさん、自殺しようとしてましたよね
ひまり
ひまり
は?
少年
最初からおかしいと思ってました
少年
私服でベランダに来て、1回引っ込んでから制服で出てくるし
少年
急に飛び降り自殺の話するし
少年
用事がなんなのかも教えてくれないし
ひまり
…はは
ひまり
すごいねきみは、探偵みたいだ
少年
死にたくなるほど追い詰められてたってことですよね
ひまり
…そうかもね
ひまり
でもきみには関係ないよ
私の言葉を無視して、少年は私の手を握った。
ひまり
ちょっと、話聞いてる?
少年
今まで誰も味方になってくれなくてつらかったですよね
少年
分かります
少年
僕もそうだったから
少年
でも、僕たちは同じです
少年
…助けるとかは、ちょっと無理ですけど
少年
ひまりさんの味方になら、なれます
少年
信じてください
ひまり
…はは、そっか
お母さん
ひまり、忙しくてあんまり一緒にいてあげられないけど
お母さん
お母さんはいつもひまりの味方だってこと
お母さん
忘れないでね
蘭
え…大前さん、誰かに靴隠されちゃったの?
蘭
ひどいね…誰がそんなこと…
蘭
私は大前さんの味方だからね
蘭
今度犯人見つけたら、私が成敗してやるから!
ひまり
…
少年
…ひまりさん?
信じては裏切られる、その繰り返しの人生だった。
今回だって、どうせ裏切られるのかもしれないけど。
ひまり
…まあ、たまには
ひまり
そういうのもいいかもね
…でも、そうだとしても
最後にもう一度だけ、人を信じてみたいと思った。
ひまり
うん、わかった
ひまり
とりあえず今日はうちで寝たら?
少年
え、いいんですか?
ひまり
うん
ひまり
親帰ってこないから安心して
ひまり
私ベッドで寝るから、きみは床で寝てね
少年
すみません、ありがとうございます
少年
…って、え?
ひまり
あはは!ごめん、冗談冗談
ひまり
母親のベッドあるから、きみはそっちで寝て
少年
びっくりさせないでください
ひまり
ふふ、ごめんって
ピンポーン
ひまり
あ
少年
あっ
ひまり
…まあどうせ蘭たちだね、無視しとこ
ひまり
パジャマとかはないから、そのままで寝てもらうことになるけど
少年
それは、いいですけど…
少年
…あの、もしあの人たちがこの家に入ってきたら、僕が、守るので…
ひまり
…え、なにそれ
ひまり
それは味方って言わないんじゃない?
少年
え、なんでですか
ひまり
味方なら死ぬ時は一緒でしょ
ひまり
違う?
少年
…なんか、偏った味方観ですね
ひまり
え?!
少年
でも、嫌いじゃないです
少年
そうしましょう
ひまり
ありがと
ひまり
じゃあ私、お風呂沸かしてくるね
少年
はい
少年
待ってます







