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俺はまず、自分を透明人間だと思わない事から始めた
親からの冷たい暴力に対し、彼の優しさを盾にした
自分で食事をつくり、図書館で必死に勉強し、
自分のための居場所を作り始めた
どんなに辛くても、胸の奥にはあの砂時計が輝いていて
その光が「君は価値のある存在だ」と囁き続けてくれたから 頑張れたんだ
数年後、俺は自力で奨学金を勝ち取り、家を出る準備を整えた
荷物をまとめた最後の夜
空っぽの部屋でつぶやいたか
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俺はもう、助けを待つだけの子供じゃないんだ
俺はあの辛い日々より
もっと激しい嵐の中にいた
親の過干渉と支配は、自立しようとすればするほど強まっていった
だけど、俺の手首にはヒロ裙が結んでくれたブレスレットがある
その感覚が見えない戒めのようになっていた
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泥沼のような口論や罪悪感の押し付けを
冷徹なまでの意思で切り捨てた
こんなのは愛じゃない、俺は道具じゃない
勉強の合間に昼夜問わず働き、自立のための資金を貯め、 ついに親の手が届かない場所へと居を移した
独り立ちした最初の夜、慣れないアパートの静寂の中
癖のように左手首を撫でた
自由を勝ち取った明かしだった
いつしかあの不思議な夢は見る事は無くなっていた
それはお互い、自立とともに役割が終わろうとしていたからだろう
だけど
ある冬の夕暮れ
買い物袋を抱え家路を急いでいた
歩道橋の上で
仕事帰りの男性とすれ違った
その瞬間
hr
胸の奥で、カチリ、と音がしたような気がした
すれ違った男性の左手首のあたりが、一瞬だけ
ありもしない青い勿忘草の花の幻影に包まれたようにみえたんだ
思わず足を止めて、振り返ってみると
見えたのは男性の後ろ姿。
夢の中のあの人と同じ、どこか寂しげで、それでいて凛とした男らしい背中
hr
小さく首を振って
夢の中の住人がこんな乾いた現実にいるはずがない
そう言い聞かせて、再び歩き始めた
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かすかな違和感に足を止めていた
鼻先をかすめた香りが、この冬の街には似合わない
夢の庭園に咲く紅茶の香りに似ていたから
何となく振り返り、雑踏の中に消えていく、 何だか見たことあるような背中を見つめた
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その呼び声は、冷たい風にさらわれて誰にも届く事もなく消えていった
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tt
2人は
2度と振り返る事はありませんでした
2人は、お互いが実在することに気づかず
夢で出会った、自分の作り上げた、同じように悩んでいる存在
そう思い込んで
それぞれが選んだ現実へとしっかり前を向いて戻っていきました
夢の中の熱烈な愛も
誓い合った言葉も
もう2人が交わる事はありません
2人の恋は、現実で結ばれる事はありませんでした。
けれど、それでよかったのです。
2人の人生はあの夢によって救われたのです
夕日に溶けていく2人の背中はもう2度と重なることはありません。
それでも二人の胸の奥では、あの日の灯火が永遠に消える事なく灯り続けているのでした 。
おわり