向井
どうやら机に突っ伏したまま寝てしまったらしい。身体中が信じられないくらい痛い。
デジタル時計は「A,M3:00」との表記。 机には涎(よだれ)でヨレヨレになった開かれたまま大学ノート。
哀れな姿になった大学ノートの隅に、「担当殺す」と走り書き。
担当…?
……… ……あぁそう言えば担当から電話かかって来たんだった…。
ホラー漫画家をやってる俺もガクブルした、それはそれは恐ろしい電話だった……
担当
担当
向井
担当
向井
担当
担当
担当
向井
担当
担当
担当
担当
担当
向井
向井
向井
向井
頭をかきむしっていると、その拍子に机から1枚の紙が落ちた。
拾い上げて見ると、妻の文字が紙面を舞っている____
お仕事を頑張ってるお父さんに、娘が絵を描いてくれました。 贔屓目無しに不気味な絵です。さすが貴方の娘ですね。
執筆の参考にしてみてはいかがですか(笑) 足が臭くてイビキもうるさいモンスターだそうです(笑)
お仕事頑張ってください
向井
俺は感動に咽(むせ)び泣きながら紙を裏返そうと____いや、まだ何か書かれてる。
なになに………
P.S.
足が臭くてイビキもうるさいお父さんの絵を描いたそうです(爆笑) めっちゃ似てる(爆笑) 寝起きこんな顔よね(爆笑)(爆笑)
それはそれは不気味な絵でした。
怖かった。 今度からもうちょっと身なりに気をつけようと思った。
___そして大ウケした妻は、 この一連のホラーをツブヤイターに投稿した。(娘のイラスト付きで)
なんと「いいね」13万。
「これで貴方も有名人よ!」と妻のテンションは高いが、怖いぐらい嬉しくない。
更には担当からも、「ツブヤイターのアレ、殺人鬼って事にして作中に出そう!」とか言われた。
「作者も怖い思いして描くのは ちょっと違うと思うんですよ」 、と抵抗を試みたが
「こっちも生活があるんだよ」 、と急に怖い声で返された。
____その夜、夢を見た。
夢の中で、足が臭くてイビキもうるさいモンスター(俺?)はブルマーはいて反復横飛びしていた。
なんつー悪夢だ。 逃げる俺に、モンスター(俺?)が何か優しい声で語りかけてくる。
「逃げるなよ俺。俺はお前だぞ」
「ち、違うわああぁ! そんなホラー漫画に出て来そうなビジュアルじゃねぇよ!
俺は昔はモテてたんだ!
女子にラインすれば必ず《ごめん寝てた》と返事が来たし、
バレンタインの次の日に、誰にでも優しいあの子からチョ○ボール1粒貰った!
俺はモテてたんだ!」
「現実を見るんだ俺
お前はようやくバズり始めた。この機を逃していいのか?」
「こんな形でバズっても嬉しくな」
「父親思いの娘と、 チョ○ボールくれた優しいあの子を幸せにしたいんだろ?」
「…………
……お、俺は
俺、は
向井
自分の声で目が覚めた。
どうやら机に突っ伏したまま寝てしまったらしい。身体中が信じられないくらい痛い。
デジタル時計は「A,M3:00」の表記。
机には涎でヨレヨレになった開かれたままの大学ノート。
大学ノートの隅に、「担当殺す」と走り書き。
担当…?
……そう言えば担当から電話がかかって来たんだった。
新作のプロットを、昨日はベタ褒めしてくれたのに、 「夢オチとロリ」と言う理由で却下されたのだ。
そして明日までに別の案を考えて来いとも言われた。 考えてるうちに眠ってしまったようだ。
向井
……でも明日から、もうちょっと身なりに気をつけよう。
向井
ノビをしながら席を立った拍子に、
1枚の紙が机から落ちた。
拾い上げて見ると、妻の文字が紙面を舞っている。
「お仕事頑張ってるお父さんに、娘が絵を描いてくれました。
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