ねぇ今の人見た?
なんだよ
めっちゃ美人だった
声かけてみようかな
無理無理。諦めろって
お前みたいな奴が声かけたら
あの連続殺人犯だと勘違いされるぞ?
お前ひでぇな、マジで…
仕事帰りの電車内で
きれいな人に出会った。
好きなタイプの女性だった。
私
(この出会いは絶対に逃さない)
私は彼女が降りた駅で降り
彼女の後を尾行している。
数分後
私
(それにしても…)
私
(「あの連続殺人犯」が)
私
(今、世間で騒がれているのに)
私
(ずいぶん不用心な人だな…)
彼女は人気のない道に入った。
私は足を速める。
私
(声をかけるなら今だ…!)
私
あのー、すみません
…なんですか?
私
このへん初めて通るので
私
ちょっとお聞きしたいんですけど…
いいですよ
私
(優しい人だ…)
私
ありがとうございます
そして──
隠していたナイフで
彼女の胸を刺す。
──っ…!
彼女は悲鳴も上げずに倒れた。
私
(この出会いは──)
私
(絶対に逃したくなかった)
私
(これはきっと…)
私
(運命だから!)
…うぐっ、うぅ…がはっ
きれいな顔を歪め
彼女は血を吐く。
ぁ…はぁ、はぁ、はっ
彼女の体は
水から出た金魚みたいに
ビクビクと震えている。
どうやら声も出せないようだ。
私
(よかった。成功だ)
私
(前に殺した女性は)
私
(泣き叫んで大変だった)
私
(それに、黙らせようと焦って)
私
(せっかくのきれいな体に傷を増やしちゃったから)
今回はその反省を生かして
心臓をひと突きで狙った。
はぁ…かはっ、あ…
私はしゃがみ込み
彼女の顔を覗く。
私
(あぁ…)
私
(苦しむ姿もかわいい…)
じわじわと彼女の血が
アスファルトに広がる。
私
(幸せだなぁ…)
刺した女性が死ぬまでの一瞬は
私にとって至福の時間だ。
だがそんな時間はすぐに過ぎ
やがて彼女は息絶えた。
私
(はぁ…終わっちゃった)
私は彼女の顔を整える。
血と涙をふき取り
目蓋を閉じる。
私
(あぁ、かわいい…)
私
(まるで、人形みたい)
乱れた彼女の髪をなでてきれいにしてあげる。
これで──
彼女は永遠に美しいままだ。
私
(さて、帰ろうかな)
私
(あ…そうだった)
私
(あの人に、電話してあげないと)
私
今日も1人、殺したよ
私
早く来ないと見つかっちゃうかも
私
場所は──
ニュース
本日未明、○○区の路上にて
ニュース
女性の刺殺体が発見された
ニュース
女性の遺体は全裸の状態で
ニュース
都内で発生している若い女性の連続殺人事件と
ニュース
同一犯によるものの可能性が高い
ニュース
通称『連続美女殺人事件』と呼ばれているこの一連の犯行は
ニュース
今回で5件目となり
ニュース
警察では犯人の捜査と
ニュース
被害女性の身元の特定を急いでいる
女子社員A
また犠牲者出たんだって
女子社員A
美女殺人鬼
女子社員B
あー、ニュースで見た
女子社員C
怖いよねー
女子社員C
夜道1人で歩けないし
女子社員B
あんたは絶対狙われないって!
女子社員C
なにそれどういう意味?
私
はい。そこの人
女子社員A
あ、先輩
私
口よりも手を動かして
女子社員B
はーい
昼は普通の会社員
夜は殺人鬼。
それが私の日常になった。
部長
おーい、みんな注目ー!
部長
新入社員を紹介する
部長
今日からこの部に配属になった
部長
花岡さんだ
花岡
よ、よろしくお願いしみゃす!
花岡
あっ…
部長
はっはっは
部長
まぁ緊張しなくていいから
花岡
すみません…
部長
えー、花岡さんの世話役は
部長
…月本くんでいいかな
部長
優秀な社員だ
部長
もし困ったら、彼になんでも聞いてくれ
部長
みんなもよろしく頼む
部長
以上。各自作業に戻って
私
(あの子…)
私
(──めっちゃかわいい…!)
かわいい!!
かわいすぎる!!!
私は彼女から目が離せなくなった。
私
(あんなにかわいい人が)
私
(まだ生きているなんて)
私
(あぁ…)
私
(早く…)
私
(殺してあげないと)