澪ミオ
……真波くん、呼び出しって、なに?

真波
あ、来てくれたんだ。よかった

澪ミオ
そりゃ来るよ。急に“話がある”なんて言われたら気になるし

真波
うん、あのさ——ちょっと聞きたいことがあって

真波はいつものようにゆるい笑みを浮かべながらも、どこか真面目な表情だった。
澪ミオ
聞きたいこと?

真波
澪ちゃん、やっぱり……また走る気ないの?

澪ミオ
……!

真波
あの全国大会、俺、観客席から見てたんだ

澪ミオ
……え?

真波
風みたいだった。誰よりも速くて、楽しそうで。でも途中で止まったとき……なんで止まっちゃったんだろうってずっと思ってた

澪の喉がぎゅっと詰まる。
そのとき、後ろの茂みがガサッと音を立てた。
鳴子
よっしゃー! ええとこ来たやん!

澪ミオ
……鳴子くん!? なんでいるの!?

鳴子
心配やったんや。夜に真波と二人とか、何か起きたらどうすんねん!

真波
え、何か起こるって?

鳴子
惚気展開とか!

澪ミオ
おこらないから!!

澪が顔を真っ赤にして手を振る。真波は首をかしげながら、少し笑う。
真波
でも、鳴子くんも知ってたんだよね? 澪ちゃんのこと

鳴子
そら当たり前や。幼馴染やし、全国のときもずっと応援しとった

真波
へぇ……その頃から澪ちゃん、すごかったんだ

鳴子
せやけど今は、ただのちょっとドジなマネージャーや

澪ミオ
ちょっと!?

鳴子
いや、かなりや

真波
ふふ、でもその“ちょっとドジ”な澪ちゃんが俺は好きだけどな

澪ミオ
……へっ?

鳴子
うわ出た! 天然爆弾や! 真波、お前爆発力えぐいで!?

真波
え? なんか変なこと言った?

澪ミオ
あ、ああああ、言ったよ!?

澪が顔を覆う。鳴子が「青春は爆発や!」と叫んで転げ回る。
鳴子
もう風どころか台風やわ!

真波
でもいいじゃん、澪ちゃん笑ってるし

鳴子
おっ、決めセリフ出たな!

風が三人の間を抜けていく。
澪は頬を赤らめながら、笑った。
澪ミオ
……もう、ほんと二人とも最悪

真波
え、風のこと?

鳴子
いや、お前の無自覚ラブボムのことや!

三人の笑い声が、坂道に響いた。
その風は、少しだけ甘く、少しだけ速かった。