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夢鬱🪐
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夏休みの午後は、時間の流れが少しだけ遅い
窓の外では蝉が鳴いていて、扇風機は同じ場所を行ったり来たりしている
机の上に置いた麦茶は、いつの間にか氷が溶けていた
特別な予定はない
宿題を進める気にもなれなくて、かといって昼寝をするほど眠いわけでもない
そんな、どこにでもある夏の一日
スマホが震えたのは、そんなときだった
もふくんからのメッセージだった
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俺は思わず笑った
もふくんらしい
思いついたら、すぐに行動したくなるところ
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スマホを置いて、俺は部屋を見回した
棚の奥に、昔のアルバムがしまってあったはずだ
引っ張り出してみると、少し埃をかぶった青い表紙が出てきた
ページを開く
そこには、今よりずっと小さな俺と、もふくんがいた
泥だらけの靴
変な顔をして笑う二人
近所の公園で、なぜか同じポーズをしている写真
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写真の中の俺たちは、何も知らない顔をして笑っていた
この先、どこへ行くのかも
何が変わってしまうのかも
きっと、少しも考えていなかった
俺は一枚の写真を指でなぞってから、アルバムを閉じた
そのまま持っていこうと思った
今の俺たちと、昔の俺たち
並べて見たら、何かがわかるかもしれない
そんな気がした
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もふくんの家に着くと、玄関先から元気な声が飛んできた
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部屋に入るなり、もふくんが小さなカメラを見せてくれた
黒くて、少し角の丸いカメラ
今どきのものと比べると、ずいぶん古そうだった
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もふくんは得意げに笑った
けれど、いざ電源を入れてみると、画面は真っ暗なまま
二人でボタンを押したり、説明書を探したり、ああでもないこうでもないと試してみた
結局、充電をして少し待つと、ようやく小さな画面が明るくなった
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もふくんはカメラを構え、部屋の中を見回した
窓辺の観葉植物
テーブルの上の麦茶
開きっぱなしのアルバム
そして
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カシャッ
乾いた小さな音がした
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二人で笑った
こんなやり取りも、いつも通りだった
俺が文句を言って、もふくんが笑って、結局俺もつられて笑ってしまう
特別なことなんて、何もない
でも
カメラの中に、今の俺が残った
もふくんが撮った、何でもない俺の姿
そのことが、思っていた以上に嬉しかった
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鞄からアルバムを取り出すと、もふくんは目を輝かせた
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慌ててアルバムを閉じようとするもふくんを見て、俺は声を上げて笑った
もふくんも、頬を膨らませながら笑っていた
こんな時間が、ずっと続けばいい
そう思った
けれど、すぐに、その考えを頭の隅へ押しやった
今だけは
今だけは、余計なことを考えずにいたかった
夕方になる少し前、俺たちはカメラを持って外へ出た
何か特別な場所へ行くわけじゃない
いつもの商店街
小さな川にかかる橋
角を曲がったところにある、自動販売機
子どもの頃から何度も見てきた景色を、二人で撮って回ることにした
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もふくんが立ち止まったのは、商店街の入り口だった
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もふくんが笑いながら、カメラを構える
商店街の古い看板
午後の光を浴びた自動販売機
店先に並んだ植木鉢
どれも、見慣れた景色だった
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もふくんはそう言って、近くの人に頼んで写真を撮ってもらおうとした
けれど、ちょうどいい人が見つからず、二人であれこれ悩んだ末に、店先の台にカメラを置いてタイマーを使うことになった
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タイマーの合図に慌てて並ぶ
カシャッ
撮れた写真を確認すると、二人とも少しだけ変な顔をしていた
もふくんは笑いすぎて目を細めているし、俺は慌てていたせいで肩が上がっている
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俺が言うと、もふくんは首を横に振った
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もふくんは、画面を見ながら嬉しそうに笑った
俺も、もう一度その写真を見た
本当に、何でもない写真だった
格好よくもないし、きれいに撮れているわけでもない
ただ、二人が並んで笑っている
それだけの写真
なのに、どうしてだろう
俺はその写真を、きっと忘れないと思った
帰り道、もふくんはカメラを大事そうに抱えていた
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俺が言うと、もふくんは嬉しそうに頷いた
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もふくんは、次に撮りたいものを次々と口にした
あそこも行きたい
ここも撮りたい
今度は、もっと遠くまで歩いてみたい
その声を聞きながら、俺は隣を歩いた
この町には、まだ知らない場所がある
見慣れた景色の中にも、知らない道が続いている
俺はもうすぐ、この町を離れる
だけど、もふくんと一緒なら、今まで何度も歩いた道だって、 知らなかった景色みたいに見えるのかもしれない
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何年か経ってから
その言葉が、静かに胸へ落ちた
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もふくんは笑っていた
何年か先のことを、疑いもなく話している
俺も、そんなふうに笑えたらよかった
何年か先
俺たちは、どこにいるんだろう
今みたいに、気軽に会えるのかな
同じ町を歩いて、同じ景色を見て、今日のことを笑いながら思い出せるのかな
聞きたいことは、いくつもあった
でも、俺はひとつも口にしなかった
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もふくんは、俺の顔をじっと見てから、少しだけ笑った
それ以上、何も聞かなかった
俺は、その優しさに甘えてしまった
家に帰ると、夕飯の匂いが廊下まで漂ってきた
自分の部屋に戻り、鞄を置く
机の上には、朝に開いたアルバムがそのままになっていた
ページをめくると、小さな頃の俺たちが笑っている
今日、もふくんと撮った写真も、いつかこんなふうになるのだろうか
古いアルバムの中に並ぶ、たくさんの思い出
その中に、今日の俺たちも加わる
何年か経ったら、俺たちはこの写真を見て、笑えるだろうか
今日みたいに
隣にいることを当たり前だと思いながら
俺はスマホを手に取った
もふくんから、写真が届いていた
一枚目は、商店街の看板
二枚目は、川に映った夕日
三枚目は、変な顔をして笑う俺たち
最後の写真には、俺がカメラを見ていない姿が写っていた
きっと、もふくんがふざけて撮ったのだろう
俺は画面を拡大した
そこにいる俺は、少しだけ寂しそうな顔をしていた
自分では、笑っていたつもりだったのに
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小さく呟いて、スマホを胸元へ引き寄せる
何も変わらないように見える毎日
もふくんと笑って、歩いて、写真を撮って
そんな日々が、これからも続くような気がしてしまう
けれど、俺は知っている
この夏が終わったら、今までと同じではいられない
そのことを、もふくんにはまだ言えていない
スマホの画面には、二人で撮った写真が残っていた
俺はそれを消さないように、そっと保存した
窓の外では、蝉が鳴いていた
明日もきっと、同じように暑いだろう
同じ道を歩けば、同じ景色が見えるだろう
だけど、今日とまったく同じ一日は、もう二度と来ない
そんな当たり前のことに、俺はようやく気づき始めていた
――変わらない風景なんて、 本当はどこにもないのかもしれない
変わっていくことを知らないふりして、俺たちは今日も笑っている
この夏が、いつか遠い思い出になる日まで
せめて今だけは
君と見た景色を、ひとつも忘れないように 第四話 終
コメント
1件
読み終わりました。とても好きな話でした。 もふくんが「じゃっぴ」を撮ったあの瞬間のたわいなさと、最後に届いた写真で自分が寂しそうな顔をしていた気づき――あの温度差が、じんわり胸に残りました。「変わらない風景なんて本当はどこにもない」という締めくくりも、優しくて、ちょっと切なくて。変わっていくことを知っていても、今だけは一緒に笑っている。その距離感の描き方が、とても丁寧で繊細だなと思いました。