わたしはお兄さんの膝で丸くなりながら、彼のタイピングに耳を傾けていた。
お兄さん
2週間か
お兄さん
研究に力入れようと思って、ちょうど2週間くらい予定入れてなかったの
彼は軽やかに文字を打っていく。 おそらく課題のレポートだ。
お兄さん
講義もほぼない期間だから、ずっと一緒だよ
わたし
(ほんと!)
わたし
(この状態で取り残されるのは心細いから、よかった)
わたし
(なによりお兄さんとずっと一緒にいられるなんて...)
わたし
(嬉しい!)
わたしは彼の鼻先を舐めた。
お兄さん
あはは、くすぐったい
お兄さん
そういえば、君のお名前まだ決まってなかったね
わたし
(...そうだった。)
わたし
(我輩は犬、
名前はまだ無い...)
名前はまだ無い...)
わたし
(あなたが決めて)
お兄さん
ふふ...わかった。
お兄さん
君の名前は「ペロ」にしよう
わたし
(ペロ...!)
わたし
(いいね、ありがとう)
わたしは思い切り尻尾を振る。
お兄さん
気に入った?
...よかった!
...よかった!
お兄さん
...名付けを躊躇っていたのはね、君、本来の名前があるだろうから
わたし
(...?)
お兄さん
君、きっとご主人とはぐれちゃったんだよね
お兄さん
そのご主人がつけてくれた名前で呼ばれたいだろうなって思って
わたし
(...そっか。わたしはどこかの家の迷子って思われてるんだった)
わたし
(犬としてのもとの名前なんてないけど)
わたし
(わたしはあなたがくれた名前で呼ばれたいよ)
わたしは自分の鼻先を 彼の鼻先につんとつけた。
じっと目を見つめる。
お兄さん
...ペロでいいの?
わたし
(いいよ!)
お兄さん
そうか!嬉しいよ
お兄さん
いずれ君のご主人を見つけるから。安心して
わたし
(いずれもとのご主人を...か)
わたし
(ほんとはずっとここにいたいけど...)
わたし
(...それは無理なのかな)
わたしはしゅんと肩を下げる。
お兄さん
...どうした??
お兄さん
いやだった?
わたし
(...)
お兄さん
大丈夫。この2週間、俺がずっとついてるから
わたし
(2週間だけ...か...)
わたし
(うん)
わたし
(まずはこの2週間を楽しもう)
わたし
ワン!
いまお兄さんと過ごせる時間を大切にしよう。
そう決心した矢先-
ガシャン!!
お兄さん
わっ!!
わたし
...?!
お兄さん
大丈夫っ?!
被毛越しにじわりと仄熱さが滲む。彼は飲み物をこぼしてしまったようだ。
お兄さん
ああっ、ほんとごめん...いま冷やすね
わたし
(わたしのことは大丈夫だよ)
白い毛皮がココアの粒を弾いている。
わたし
(大事なデータが入ってるパソコンにかからなくてよかった)
...ココア犬になったわたしは お風呂場へと連行された。






