密かな恋心

ピロン…

私のお母さんは全てにおいて

"完璧"を求める人だった

勉強も運動もピアノも

前はそんな人じゃなかった

ピアニストだったお父さんと離婚してから

お父さんみたいになってほしくないと私に厳しくなった

口癖のようにそう言った

物心ついた頃から私にとってピアノは人生になくてはならないもの

でも私は厳しく優しいお母さんが好きだった

文化祭当日

指先が冷たくなるほど緊張した

舞台上では美術室にいたゆみが演技を披露していた

1年4組のシンデ・レラでした

次は1年4組の合唱

大地讃頌です

きっと大丈夫だろうと思ってた

夏なのに震えてしまうほど寒い感覚は初めてだった

その時初めて私一人のせいでクラスのみんなの努力を台無しにしたんだと気づいた

途中で指が震えて動かなくなった

なんとかみんながアカペラで繋げてくれたけど

優勝候補から一気に下がって最下位

紛れもない。私のミスだ

それなのに誰も私を責めたりしなかった

お母さんは何も言わなかった

失敗したのに誰も私を責めない

クラスの子なんか心配してくれた

でも私はそれが辛くて辛くて仕方がなかった

その日から私はピアノを弾かなくなった

椅子に座り鍵盤に指を置くと

懐かしい感覚になった

誰もいない音楽室で凛は大嫌いなピアノで好きだった曲を弾いた

ジャー(水流す音)

カチッ(鍵閉める音)

ちゅっ