日本国民
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日本国民
揺れる船の中で今か今かと進む方向へ目を凝らす。
島に帰ればまたあの笑顔で出迎えてくれると根拠もなく思っていた。
根拠のない夢のようなものをいつでも与えてくれたから。
再会が楽しみで楽しみで、会ったら何を言おうかと考えながら鼻歌を歌う。
船の揺れも、余りに眩しい太陽も、全てが心地好い。
船が到着すると、僕は人を掻き分けたい気持ちを抑えながらゆっくり船を下りた。
でも何故だろう。
皆帰ることができて嬉しいはずなのに歓喜の声が聞こえない。
身体の芯がいきなり凍るような嫌な感覚がした。
悪い予感が外れることを祈りながら、僕は人を避けて走りだした。
きっと疲れてどこかで休んでいるんだと、木陰や物陰を探して走り回る。
現実を見せ付けるように、周りには兵隊の死体が横たわっている。
悪臭が立ち込め、腹から熱いものが押し寄せて来る。
それでもまだそうとは決まっていないと涙をこらえて走り回る。
きっと違うと、何度も膝から崩れ落ちそうな自分に言い聞かせる。
あなたは殺されるべきではないのだ。
だから、すぐには現実味が湧かなかった。
足が急に重くなり、疲れがどっと来る。
パラオ
あなたは横になり、血に濡れた隊服を着て蠅にたかられている。
紛れも無い事実を否定しても悲しいだけで意味はない。
あんなに見るのを楽しみにしていたのに涙で全く顔が見れない。
パラオ
嘘だと言って抱きしめてほしくて、あなたの胸に顔をうずめる。
ただ冷たいだけで、あなたは嫌がりもせず、慰めも撫でもしてくれない。
心臓が脈打つ音も、呼吸音も何もしない。
一つ一つに現実味を感じさせられる。
あんなに心地好かった太陽が、当て付けのように感じる。
奴等はいつも僕らの幸せを奪っていく。
苦しくなって一度離れて涙を拭う。
開いた傷口に反して、安眠しているだけではないかと思わせる表情が余計辛い。
あなたにとってはずっと痛いよりこっちの方がよかったのかもしれない。
パラオ
喪失感と苦衷でいっぱいで涙がとまらない。
こんな時に何と言い、何をするのが正しいのかわからない。
ただあなたの温かさをもう一度感じたい。
傷に手を添えると、感触で腐敗が進んでいるのがよくわかる。
ぐじゅぐじゅと音を立てながら手が沈んでいく。
パラオ
分かっているけれど、温かい場所を探して手をさらに奥まで進めていく。
地面の方へ貯まった血液は、まだ少し温かさがあった。
いけないとは思っていても少し安心してしまう。
そのままあなたを抱きしめる。
せめて今はこの温かさに浸っていたい。
今後どうなるのか、まともに考えていたらきっと僕は耐えられない。
パラオ
発展なんかしなくていい。
貧困でも何でもいいから。
僕は生きているあなたに傍に居てほしいだけなのに。
こんなに願って、それすら叶わない。
なにもかももう遅すぎる。
生温い血液に浸かったあなたの中をなぞる。
こんなことをしているのに、あなたの表情は変わらず穏やかだった。
パラオ
あなたの走馬灯に僕は映れただろうか。
終
コメント
3件
すごく美しくて残酷なストーリーですね……私グロ読むと興奮するリョナラーなんですけど、これは自然と受け入れられました。素晴らしいものをありがとうございます😌
グロいはずなのにとても綺麗なお話なの好き過ぎる、、、