白い巨塔で天使は唄う

ずいぶん 長い間眠っていた気がする

街並みは最初に来た頃とは変わっていた

天使が起きて最初に思ったことは

それから天使は歩き続けた

何日も

何週間も

何ヶ月も

空腹と疲労はあったが

どれだけやせ細っても死ぬことはなかった

不死の天使は歩いた

少女に会いたい一心で

やがて天使は

倒れ込んだ

だが決して死ぬことはなかった

体は動かないが

五感はあった

見えるし聞こえるし匂いもかげる

でも足は動かない

あの娘に話したいことがある

伝えたいことがある

倒れている天使に1人の女性が近づいてきた

その女性は優しく天使に寄り添った

この声 この匂い

優しい声 優しい匂い

どこかで……

天使が目を覚ますと

そこは真っ白な空間だった

横のベッドから声がした

そこには白い服を着た20歳頃の女性が座っていた

その途端

女性の瞳から涙が零れた

そして

天使の胸に飛び込んだ

忘れていた

人間は天使と違い

歳をとり いつかは死ぬ生き物だ

いや…ダメだった……

治癒の力は封印されてたんだ……

胸が苦しい

張り裂けそうだ

人間は弱くて 脆い生き物だ

だからワシは人間が嫌いだ

……どうして

どうして……死んでしまうんだ

絵美は検査があると言ってそのまま病室を出ていった

ドタッ

天使は唄った

それはとても綺麗な音色で

とても悲しい音色でもあった

天使の唄は病室の中でしか聞こえないほどの小さな唄だった

でもその唄は

まるで天に届くような優しい唄だった

天使は唄い終わると

そっと絵美の冷たい手を握った

そして一言

そして天使は病室を出た

天使はポケットからピンクの貝殻を取り出した

静かにそっと胸にあてる

胸が熱い

天使は膝から崩れ落ちた

この時 天使は生まれて初めて

不老不死を憎んだ

初めて知った

死ねないと言う苦しさを

この時 天使は気づいた

後ろから声がした

透き通るような声

丘の上で1人の天使が座っていた

ラファエルはピンクの貝殻を大事そうにポケットにしまう

ラファエルは丘を駆けて行った

そして鼻歌を唄った

ラファエルの優しい唄は

天界の彼方まで響き渡った