時が経って
街も移ろいで
君を忘れそうになっても
この暑い季節が戻って来ると
やっぱり君との日々を思い出す
私の中では
少し
散りきれなかったみたい
あの急な坂道も
潰れてしまった駄菓子屋も
少し朽ちた私たちの母校も
あの日の姿のまま 異物の様に
まだ胸に残ってるんだ
息をすっと吸い込んで
目をギュッと閉じてみれば
あの夏に
今にも
帰れるような気がしてしまう
家の影の向こう側へ
夕陽が沈んでいこうとする
左手には
あまり持ち慣れない カーネーションの白い花束
形を崩さぬように
ゆっくりと
ガードレールの支柱に立て掛けた
君の〝消えた〟この場所が
ひどく懐かしく感じるのは
きっと気のせいじゃない
私の最大のトラウマ
どれほど時間が流れても
ずっとこの道は避け続けていた
君の姿が
君の笑顔が
目の前をチラつくから
それでもここに来たのは
そろそろ
前に進むため
『寂しい』
『悔しい』
そんな言葉が出かかったけれど
なんとか胸に収める
言ってはいけない気がしたから
こんな状態で、こんな気持ちで、
本当に
進めるのだろうか
目を閉じていても
花束に向かって合わせてるこの手が
微かに震えてるのが分かった
目を開けると、花束から
白い花びらが 数枚落ちているのが見えた
背後に
〝君のようなもの〟を感じながら
家路に戻るため、重い足を進めてく
突然
私の後ろで突風が起こった
体のバランスが崩れて
右足が一歩、前に出る
そして後ろに
誰かがいる
見てもいないのに
何故か分かった
もしかして、だなんて
そんなことあるわけないのに
でも
首を後ろに向けたかった
けれど
それ以上体が動かない
『向くな』と言わんばかりに
どこかで聞いた声
どこかで見た台詞
涙が
堪えられなかった
声を殺しても
微かに嗚咽が出てしまう
色々と
言いたいことがあるんだ
まじまじと
君の顔を眺めたいんだ
でも
足は勝手に前へと進み出る
あの夏に 君と河川敷で食べた
ソーダ味のアイスの スッとした香りが
不思議と 鼻の先に漂っているのがわかる
君から離れるように
前に、前に、
もうすぐあの夕陽が落ちる
街灯がぽちぽち付き始めて
よれたスーツのサラリーマンが 疲れた足取りで玄関のドアを開ける
帰宅を促す市内放送が聞こえてきて
カーネーションの白い花びらが
散るように夕空に舞っていく
ふと、
このソーダの香りが消える頃
村本くんのことも忘れるような
そんな気がした
コメント
22件
もちもちみーちゃん さん わー!!!! ありがとうございます( ;∀;) よろしくお願いします!!🙌🏻
とても楽しませてもらったので、フォローさせてもらいました!💞😊
ここさん コメントありがとうございます(*´∀`) いや、めちゃくちゃ嬉しいです…( ;∀;) これからもお話作り頑張ります!