田舎町
夏川実
着いたぞー!
夏川幸
元気よく、そう言った実くんの横で、私はあたりを見渡す。
夏川幸
見渡す限り、気、山、森、田んぼ。
夏川幸
「凄い……こんなにも何も無いところ、初めて……」
夏川実
「まぁ、都会は息苦しいもんなー」
夏川幸
京都のお屋敷に住んでいた私は、自分の足で地をふむことすら新鮮で、少し、ワクワクしていた。
夏川実
「幸、挨拶回り、明日行こうね」
夏川幸
「挨拶回り?」
夏川実
「そう。ご近所さんにこれから、よろしくお願いしますっていう挨拶をしに行こう」
夏川実
「それに、幸の学校の編入届けも出さないとね」
夏川幸
何でもしてくれる、実くん。優しくて、お兄ちゃんみたいな人。
夏川幸
「実くん、幸、学校には行かなくてもいいよ」
夏川幸
4月から、小学四年生になる私は前にいた学校でもほとんど登校していなかった。
夏川幸
今更、学校に必要性を感じない。行ったって、どうせ、一人でいるだけ。
夏川幸
そんなことを考えていた私の頬は、実くんにつままれて。
夏川実
「そんなこと言わずに、行ってみ?どうしても辛かったら、行かんでもいいから」
夏川幸
「でも…」
夏川実
「人が怖いのはわかる。でも、幸、お前はまだ10歳だぞ?その調子だと、これから先、どうすんだ」
夏川幸
「…」
夏川実
「義務教育だし、少なくとも、小学校と中学校には行きなさい」
夏川幸
お父さんみたいな発言をした実くん。
夏川実
「頑張らなくていいから、生きることから逃げないで」
夏川幸
なんでも完璧じゃなければならなかった日々。
夏川幸
実くんは"完璧”を捨てろと言った。
夏川実
『そんなに完璧にしても、人間、ボロが出る!』
夏川幸
…そう言って、私を連れ出したんだ。
夏川幸
「ごめんなさい…」
夏川幸
私がそう謝ると、実くんは優しく笑って。
夏川実
「幸はおかしくないから。おかしいのは、あの家だからね」
夏川幸
実くんはお父さんのことを、
夏川実
『可哀想な人だとは思ってるよ』
夏川幸
と、言った。
夏川幸
因みに、お父さんは実くんのことが大嫌いで、私は存在すら知らなかった相手。
夏川幸
それでも、家族以上に信じられると思った。
夏川幸
だから、ついてきたんだ。
夏川実
「幸」
夏川幸
「なあに?」
夏川実
「幸は幸の幸せを見つけてみよう」
夏川幸
「?」
夏川実
「誰かに支配される人生じゃなくて、自分の足で自分の道を選んで。そうじゃないと、後悔する」
夏川幸
「…」
夏川実
「友達を作ろう。幸」
夏川幸
「とも、だち…?」
夏川実
「友達がいれば、人生は輝くよ」
夏川幸
真っ暗な世界
夏川幸
楽しくない、早く終わればいいのにと思う世界
夏川幸
友達がいれば変わる?
夏川幸
それは、本当??
夏川幸
「分からないよ、実くん…」
夏川幸
私がそう呟くと、実くんは頭を撫でてくれた。
夏川実
「ゆっくり、ここで学びな」
夏川幸
優しい愛。
夏川幸
「…うん」
夏川幸
包まれる。温もりを教えてくれたのは、実くんだった。
夏川実
「笑って。幸。俺、幸の笑顔好きだよ」
夏川幸
嘘つき
夏川幸
私が笑うと、実くんは泣きそうな顔をする。
夏川幸
誰かを重ねたように、とても泣きそうな顔をする。
夏川幸
「わかった」
夏川幸
それでも、彼は本音は言わない。だから、私も言わないでおく。
夏川幸
私がそう微笑むと、実くんは目を細めて。
夏川実
「本当、似てきたねぇ…」
夏川幸
と、私の目元に触れる。
夏川実
「守るからね、幸」
夏川幸
実くんがいてくれれば、私は大丈夫。
夏川幸
よく分からないけど、本当に自然に、私はそう思った。






