題材の決まらない自由研究も
手を黒くさせた漢字ノートも
分厚くみえた宿題のテキストも
なんとか終わった小学4年生の
夏休みの終わりかけ
〝最後にどこかへ行きたいね〟
そんな両親の話から
秩父の山にある牧場へ 行くことになった
車に乗って数時間
夏の陽射しを遮る木々と
平地より高い標高のおかげで
外に出てもとても涼しかった
それから
馬のエサやりやバター作り体験
滑らかで美味しい ソフトクリーム
普段はあまり見れない たくさんの動物
そんなキラキラした体験に囲まれて
私はその日を とても満喫していた
満喫していただけに
終わりがとても寂しい
動物達ともっと一緒にいたくて
帰る頃になっても いじけてたっけ
そのせいで牧場を出たのは
確か日が沈むすこし前
山道の運転に あまり慣れていなかったお父さんは
ゆっくりと山を下っていった
のろのろと変わる風景
来る時に眺めていた風景の 逆再生だから
あまり面白くない
私は暇を持て余して
宿題の絵日記を始めた
色々な体験をしたけれど
やっぱり
馬にニンジンを あげた時のことを書こう
しばらくすると 楽しい絵が描き終わって
絵よりは少しつまらない 文章を考えていた
まだ山道は続いている
外は息を呑むほど真っ暗で
車窓から外を眺めても 私の顔しか映らなかった
車の速度が更に遅くなる
どうやら横道に反れたらしい
両親が前の座席で カーナビを見ながら話し合っていた
思わず溜め息が出て
なにか見えないかなと また窓から外を眺めた
すると暗闇の中に女の人が見える
目を凝視してみると
〝ある違和感〟を感じた
女がいたのは
外じゃない
後部座席だった
『振り返ればすぐそこにいる』
そう思うと怖くて 首を動かせなかった
声を出そうとしたけれど
元から声が無かったかというように なにも発せられない
恐怖で絵日記のことなんか忘れていた
気味の悪い女の姿を反射させる窓には
彼女の口元がよく見えた
口角が
ゆっくりと上がっていく
...笑ってる?
突然、 両親の怒鳴り声が聞こえた
「ブレーキは!?」
「踏んでるんだって!!」
車のスピードが不自然に速くなる
胸を締め付けられるような ギュッとした不安で
涙が零れそうになった
気づくと女が消えている
両親は何を思ったのか
お父さんはバックミラーを見て
お母さんは後ろを振り返って
私を見つめながら 何度も名前を呼んだ
カスミ
カスミ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
気が付くと 机に突っ伏して寝ていたようで
親友のカスミが しかめっ面をして横に立っていた
カスミ
カスミ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
カスミ
ハルナ
カスミ
ハルナ
カスミ
カスミ
カスミ
カスミ
ハルナ
頬に触れると
指先が涙で濡れた
ハルナ
ハルナ
この頃、あの夢を 頻繁に見るようになった
カスミ
カスミ
ハルナ
ハルナ
カスミ
ハルナ
ハルナ
カスミ
ハルナ
ハルナ
カスミ
カスミ
ハルナ
ハルナ
鞄を抱えて 走って教室を出る
放課後でも 試験期間中のこともあって
廊下も教室も 生徒があまりいなかった
ハルナ
っていつも言っている気がする
真夏の陽射しも あまり届かない階段を
タッタッタッ…と リズム良く駆けて降りていく
すると小さな何かと すれ違った気がした
ハルナ
振り返っても
誰も居ない
ハルナ
思わず身体がビクンとなる
正面をまた振り向くと
野球帽を被った
小学生くらいの男の子が 静かに佇んでいる
ハルナ
ハルナ
ハルナ
それにしたって
何でこんな子が 高校にいるのだろう
ハルナ
ハルナ
いくらなんでも 状況が分からなすぎる
はぐれないように 手を繋いで連れていく
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
と目的を伝えて、 部屋の隅の担任のもとへ向かう
ハルナ
タナカ先生
ハルナ
タナカ先生
タナカ先生
ハルナ
タナカ先生
ハルナ
ハルナ
タナカ先生
ハルナ
ユウト君の肩を掴んで 思いっきり揺らしてみる
ユウト
タナカ先生
タナカ先生
タナカ先生
タナカ先生
タナカ先生
ハルナ
タナカ先生
タナカ先生
右隣のユウト君を見てみる
私にはちゃんと見えてる
タナカ先生は嘘をいうような 人じゃないし
本当に見えてない…?
ってことは
ハルナ
タナカ先生
先生の説教がヒートアップしてきた
逃げるが勝ち
ハルナ
ハルナ
タナカ先生
颯爽と職員室を後にする
ハルナ
ユウト
ハルナ
ユウト
ユウト
冷静だなぁ…
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
私が頭の中で ごちゃごちゃ考えていると
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ユウト君から 隅が焦げてボロボロの
4つ折りの紙を手渡された
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ぽろぽろと 焦げた部分が落ちるから
慎重に開いてみる
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ハルナ
ユウト
中には
住所が確かに書かれていた
でもそれよりも 大きく真ん中に描かれた
絵に目が惹かれる
私の知る 懐かしい絵に
ハルナ
ハルナ
あの日に燃えたはずの
日記帳の1ページ
馬と
私と
両親
両親の頭の部分は 焦げて見えなくなっていた
ハルナ
忘れていた思い出
忘れたかったトラウマ
心臓が
ズキズキと酷く痛んだ
«to be continued»
コメント
3件
FF外から失礼します とても好みのストーリーだったので、 マイリスト失礼します
FF失礼します。マイリストに追加します。