ウェヌス先生
恒例の魔法訓練授業、属性巡りの3回目。
今回は地《テラ》の基礎訓練に参加するために、学校のはずれの農園に来た。
何ヘクタールもある畑や田んぼの他、家畜の牛や豚などの飼育もしている。
ここでアミキティア魔法学校の学食やレストランで使われる食材の大部分を育てているらしい。
以前、シシロウからアミキティア魔法学校は人工島だと聞いたことがあるけど、この島全体の広さはどれくらいあるんだろう。
地《テラ》のぼくの知り合いというと、ユトリとメイカだ。
今までの基礎訓練のように知り合いが近くにいたほうが心強いと思ったので、農園に集まっている地《テラ》の人達の中から、ユトリとメイカがいないか探してみる。
メイカ
人の中をウロウロしていると、メイカから声をかけられた。
ユウゴ
メイカ
ユウゴ
メイカ
メイカにズバッと言い放たれた。
言われてみれば、ちょっと情けない気もするけど。
ユウゴ
メイカ
なんか、そっけないな。
メイカとユトリは少し仲が悪い(メイカが一方的に敵視しているんだけど)から、一緒に行動していないみたいだ。
メイカ
メイカもウェヌス先生のことをエロス先生って呼んでいるし。
もしかして、結構広く知られてるあだ名なのか?
ウェヌス先生
ウェヌス先生
メイカ
はいとも、いいえとも、わからないメイカの返事。
ウェヌス先生の方はいつものことでなれているのか、それ以上の話はしなかった。
基礎訓練が始まる時間が近づくにつれて、地《テラ》の人達がチラホラと集まり始めてきた。
5~6人の男子の集団がいて、その中にユトリがいた。
一緒のグループというよりも、ユトリのあとを5~6人の男子がついていっている感じだ。
ユウゴ
ユトリ
お互いに目があったんだけど、ユトリを取り囲む男子の視線が気になって話しかけられなかった。
ユトリも気まずそうに軽く頭を下げただけで、そのままぼく達の前を通過していった。
ユウゴ
メイカ
メイカ
メイカ
地《テラ》サーの姫って何?
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精が飛んで来て、今日の基礎訓練で行う競技が発表された。
【芋掘り競争】 ・芋のツルをひとつ選んで芋を掘り出す。 ・より大きい芋を掘り出した10人に1ポイント。
ここは芋畑だったのか。
水《アクア》や風《アエル》に比べて、シンプルだ。
と言うか、魔法と芋に何の関係があるんだろう。
メイカ
メイカ
と、メイカが教えてくれた。
ユウゴ
メイカ
校外学習かな。
ピカピカ泥団子を作って地《テラ》の魔法がうまくなるようには思えない。
いや、そうでもないか。
アルクのおばあさんの属性は地《テラ》みたいだったけど、人を乗せて飛べる土カプセルを作っていた。
他の人達は、早くも動き出している。
ツルをひとつひとつ見て、土の中の芋の大きさを予想している人。 いきなり土を掘り始める人。 スコップなどの道具をたくさん持って来ている人。 色んな人がいる。
ユトリの方に目を向けると、囲っていた男子達が手分けして土をほっている。
ユトリも作業を始めようとするが、周りの男子が
???
???
???
などと口々に言い、ユトリを止める。
あれが地《テラ》サーの姫と言うやつか。
メイカ
メイカは魔法具《マギアツール》のスケボーを両手で持ってスコップ代わりにして、土を掘っていた。
ユウゴ
メイカ
メイカ
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生が補足してくれる。
メイカは保健室の常連だとショウリから聞いたことがあるけど、アミ戦だけが原因じゃ無かったのか。
ユトリ達の方からワアアと大きな歓声が上がった。
バスケットボールくらいある大きな芋を掘り出している。
ユウゴ
スピード勝負ではないけど、遅れを取りすぎた。
メイカが掘り進めて土がやわらかくなったとなりに手をつっこんだ。
メイカ
ユウゴ
ユウゴ
メイカ
ユウゴ
メイカ
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生にも同情された。
メイカが先に耕してくれていたおかげで、土はやわらかくサクサク掘れる。
10センチくらい掘り進めたところで、指先にチクリと痛みが走った。
左腕のうぶ毛がゾワッと逆立って、黒い煙が出てきた。
なんで? と思うひまもなく、黒い煙があふれ出て、左腕全体が黒くなっていく。
ウェヌス先生
ウェヌス先生が飛び出して、メイカを抱き寄せる。
左腕の自由が効かず、黒い煙が爆発して四方八方に黒いエネルギーが弾け飛んだ。
芋畑の土が巻き上げられ、視界が完全に真っ暗になった。
時間にすれば1分ほどだろうけど、とても長い時間、土煙の中に閉じ込められたような感覚だった。
土煙が消えると、ぼくを中心に大きなクレーターが出来ていた。
メイカは抱き寄せたウェヌス先生が魔法でバリアを張っていたおかげで、無傷。
だけど、それ以外の人達は大惨事に見舞われていた。
闇《ケイオス》の魔力に巻き上げられた土や砕けた芋を浴びて、全身が泥だらけでビチャビチャだ。
幸いにして、ケガをさせてしまった人はいないみたいだ。
だけど、芋畑もメチャクチャにしてしまった。
ガイド妖精
ガイド妖精
クレーターとなった芋畑の上を、ガイド妖精が基礎訓練中止のアナウンスをしながら飛んでいる。
仮に芋畑が無事だったとしても、みんな泥まみれになっちゃってるから、特に女の子はすぐにでも着替えたいだろう。
ユトリ
ユトリが一緒にいた男子達に声をかける。
取り巻きの男子が壁になってくれたおかげか、ユトリは他の人達よりは汚れが少ない。
その代わり男子達は、頭から爪先まで泥まみれで顔も見えないくらいだ。
ユトリ
その姿を見て、ユトリが耐えきれずに吹き出した。
ユトリ
ユトリ
ユトリ
泥んこがツボにはまったのか、大笑いを始めるユトリ。
反対に周りにいた男子達はドン引きしていた。
万一を考えて、地《テラ》の人達は全員、寄宿舎に戻ってシャワーと着替えを終えた後、ウェヌス先生の診察を受けた。
闇《ケイオス》の魔力を浴びた悪影響があるかも知れなかったからだ。
幸いなことに、誰かに異常が出るということはなかった。
メイカ
メイカが言っているのはユトリのことだ。
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
いつもの大笑いのあとのネガティブモードに入っていた。
ユウゴ
メイカ
メイカがつまらなそうにこたえる。
基礎訓練が中止になったからショウリに会いに行こうとしたのに、診察のために保健室に集められたのが原因だ。
風《アエル》の基礎訓練でアルクと結構仲良くやっていたことは絶対に黙っておこう。
ウェヌス先生
他の人達の診察が終わり、最後にぼくがウェヌス先生に呼ばれた。
保健室のパーティションで仕切られた診察スペースで、ウェヌス先生と向き合うイスに座る。
ウェヌス先生
ユウゴ
左手の指先に、さっき芋畑の土の中で、かたい物が刺さってついた傷がある。
すでに出血は止まっているけど、土の中での傷なので大事をとって、洗浄消毒してもらった。
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生
ユウゴ
ぼくが過去に闇《ケイオス》の魔力が発動した時のことを振りかえってみる。
入学試験で人工魔物《イミテーション》の魔物犬と戦った時、入場行進で海にいた魔物鮫に襲われた時、あとは健康診断でウェヌス先生に魔力痕を触られた時だ。
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ウェヌス先生の推測では、ぼくの体内に他者からの魔力が入り込むと、それに闇《ケイオス》の魔力が過剰反応して外に出てくるらしい。
花粉症の人が、花粉が体内に入るとクシャミや鼻水が止まらないのに近いという。
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ユウゴ
わからないことだらけの闇《ケイオス》の魔法だけど、発動条件らしきものがわかっただけでも、一歩前進だ。
そう思っておこう。
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