私はコーヒーの匂いが好きだ
カランカラン
秀
いらっしゃい
秀
ああ、おかえり
花織
ただいま
綾人
ただいま
カウンター席に座る
秀
いつもの?
花織
お願いします
綾人
僕も
秀
かしこまりました
コーヒー豆をひく音
お湯が沸く音
コーヒーができる音
徐々に店内に広がる苦い匂い
私はこの香りが大好きだ
綾人
花、お前またテスト満点だったって?
花織
情報流れるの速いね
綾人
そりゃ首席の話ですから。みんな噂してたよ
秀
勉強会をした甲斐があったね
「どうぞ」と出されたアイスコーヒー
「ありがとうございます」と受け取る
花織
しかしみんなどうやって私の点数知ったんだか
綾人
自慢したんじゃないの?
花織
せんわ!
つい方言が出る
秀さんがクスクス笑う
秀
テスト用紙見られたんじゃない?
綾人
あーあり得そう。もしくは机に置いてたのを横から見られたか
花織
えー?それは流石に気付くと思うけどな
綾人
お前結構鈍感だろ
花織
し、失礼な
秀
うん、少し天然なところはあるかなぁ
綾人
ほら見ろ
花織
秀さんまで…
またクスクス笑う
秀
でもそれほど周りから注目されてるってすごいと思う
綾人
秀さん、フォローになってません 笑笑
カランカラン
恭
ただいま
秀
凌、おかえり
花織
おかえり
綾人
おかえりー
恭
何度も言うがここは俺と兄さんの家だ。なんでお前らが「おかえり」なんだ
綾人
まあまあ、そうカッカしなさんな
花織
そうそう、シワ増えるよ
恭
満点をとった首席の言葉とは思えないな
綾人
お、やっぱりお前も知ってんのか
恭
同じ医学部だしな
秀
凌、コーヒーでいいか?
恭
うん
綾人
そうだ、花が鈍感だって話してたんだけど、お前はどう思う?
恭
全く同感だな
花織
ちょっとくらいは考えてよ
コーヒー豆をひく秀さんが再びクスクス笑う
肩が小刻みに揺れる
目尻に小さなシワが何本か浮かぶ
恭
よく言えば「天然」だろ?いいじゃん
綾人
さすが兄弟、言葉のチョイスが同じ
恭
え
秀さんの顔が少し赤くなる
花織
フォローになりませんー
恭
それはそれは大変申し訳ございませんでしたー
秀
ケンカしない
コーヒーを凌に出す
また店内がコーヒーの匂いで満たされる
私はこの匂いが大好きだ
この匂いに包まれたこの日常が
何気ない会話が
クスクスと隠し切れていない笑い声が
匂いで連想される人が
…
私はあくまで匂いが好きだ