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園美(そのみ)ちゃんが勤める弁当店『ときゑ(ときえ)』に今日もやって来た、長髪の男性。黒髪だ。
いつものお客さん
いつものことだ。彼は弁当を選ぶのに30分かかる。
園美
玉子焼きを切りながら、長髪男性がメニューを決めるのを待っている園美。
お昼時だ。そのうち、次々とお客様がやって来て、打ち切りになるメニューが増えていく。
園美
待ちかねて厨房へいったん下がった園美。園美が怪訝そうな表情で棚の影からじっとカウンターを見つめていると……あ!
園美
園美のダーリン、植木職人の玲利がやって来た。
玲利
園美
玲利
園美
訳あって、玲利は玉子が食べられなかった、それは園美も。しかしここで説明すると長くなるので端折らせて戴く。
いつものお客さん
長髪の男性の心の葛藤は、傍から見るぶんには計り知れない。 だって30分もどの弁当にするか決められないだなんて、相当の葛藤ではないか。
いつものお客さん
すると、カウンターに身を乗り出し、園美を呼びつける玲利。
玲利
小声だが必死で呼んでいる。
園美
タオルで手を拭きながら園美がカウンターへやって来た。
玲利
おいでおいでするような手つきで、園美の耳元を自分のほうへいざなった玲利。 チラッ。 玲利がお隣を見て、
玲利
園美は真顔で
園美
と普通の声の大きさで言った。そして向き直し、
園美
明るく言う。
いつものお客さん
『人間の?』『……のじゃ?』
いつものお客さん
園美
隣で聴いていた玲利が言い出した。
玲利
いつものお客さん
それを聞いて、たまらず園美は振り返り
園美
と言い
園美
と長髪男性に問うた。
いつものお客さん
玲利
と玲利。
いつものお客さん
店長の狛江(こまえ)さんが包丁を持ったまんま鬼の形相でカウンターへやって来た。 こ、こわい!
狛江さん
こ、こわすぎ、狛江さん。包丁、光ってるし。
いつものお客さん
狛江さん
こ、狛江さん!
いつものお客さん
神様より偉い長髪男性はなぜか腕を組み、瞳を閉じうつむきがち、という小粋なポーズで答えた。
スペシャルミックス弁当なら『エビフライ』も『ハンバーグ』も入っている。
園美
と園美。
いつものお客さん
玲利
と玲利。
いつものお客さん
長髪神様より偉い人のせいで、厨房に戻った狛江さん一人が切り盛りしていた。 その狛江さんが
狛江さん
頭を掻きながら、すまなさそうにサラリーマン風の男性がレジ袋を手に一礼した。
園美
と思いつつ園美は言った。
園美
いつものお客さん
悲しそうな長髪神より偉い人。 葛藤してるまにチャンスを棒に振ることだってあるのだ。
玲利
と玲利。
園美
玲利
お熱い二人だ。
いつものお客さん
声の様子が変だなと、園美が神より偉い人を見ると、泣いていた。
狛江さん
眼光は鋭いが、心のあったかい狛江さんの粋な計らいさ。
いつものお客さん
大泣きの長髪神様より偉い人。780円の弁当代を園美に渡し、レジ袋を受け取ると逃げるように走り去っていった。
なんの涙だったのだろう。
園美は狛江さんのことを前にもまして好きになった。