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放送
放送
金属的な声が、牢に設置されたスピーカーから響く
朝と呼ぶには早すぎる時間
まだ外は灰色の闇に包まれていた
朔弥は静かに目を開ける
隣には小さな丸い背中――奏多が、小さく寝息を立てている
柊 朔弥
そう思いながら、彼の髪を撫でる
そっと立ち上がり、冷たい水で顔を洗い、粗末な着替えに袖を通す
この施設では、**“自分のことは自分でやる”**のが基本だった
洗濯も、食器の洗浄も、雑巾掛けも、床の掃除も
休憩という言葉は存在せず、労働の合間にそれを“こなす”だけだった
洗濯場には、同じように痩せ細った人々が列を作っていた
生乾きの衣類の匂いと、汚水の混ざった冷水
誰もが黙って、淡々と作業をこなす
その沈黙の中、時折
――死体の話が聞こえてくる
人間
人間
人間
無感情に交わされる“死”の報告
日常の一部に成り果てた、命の終わり
朔弥は、耳を塞ぎたかった
でも、それすら許されない空気が、ここにはあった
食事の時間
配られるのは、冷たく、固く、栄養価もない灰色のスープと、握り拳ほどの黒パン
その少ない食事を半分に分け、奏多に渡す
柊 朔弥
奏多
奏多
柊 朔弥
そう言って、無理やり笑った
奏多
柊 朔弥
柊 朔弥
――生きるための、残酷なバランスだった