第三話 「花弁の下に、銃を伏せた。」
深夜、東京本部。
報告を聞きながら、東京はまぶたを閉じた。
東京
……動いたな。
神奈川
宮城の情報屋、“黒鷹(こくよう)”が襲撃されました。
神奈川
命は助かりましたが、重傷です。
東京
犯人は?
神奈川
不明。ただ――“凍るような銃傷”だったと。
東京の指がぴくりと動いた。
東京
……氷咬(ひょうこう)か。北の雪が、ついに溶けたか。
北海道
俺じゃない。
そう呟いた男――北海道は、雪の上に座り、溶けかけた銃弾を握っていた。
北海道
あの情報屋……俺が消すには、まだ“時期じゃなかった”。
北海道
なぜ今、誰が“俺の名”で動いた?
沈黙の中、彼の部下が言った。
部下
東京が、“花を燃やす”つもりかもしれません。
北海道は目を細めた。
北海道
“花”……誰だ。福岡か、愛知か。それとも……。
静岡
僕じゃないよ?
静岡が笑った。
静岡
でも、面白いね。“北の銃弾”で“東の味方”が狙われた。
静岡
東京がどう動くか、見ものだね。
愛知は無言でデータパネルを見つめる。
愛知
福岡、宮城、北海道……。東京の包囲網が完成しつつある。
愛知
だが、なぜか大阪と広島は、動かない。
静岡
飽きたんじゃない? この“火遊び”に。
愛知
……いや。
愛知の目が細くなる。
愛知
一番“火を点ける”のが好きな二人だ。静かな今が、一番怖い。
大阪
あーあー、なんかみんなピリついてるみたいやなぁ。
大阪は気だるげにテレビを見る。
大阪
北と東がやり合った? あいつらまた冷戦ごっこやっとるんか。
部下
……首領、動かなくてよろしいですか?
大阪
“静かに揺れとる”とこに石投げたら、一気に割れるやろ?
大阪
わいはまだ、“正しいタイミング”待っとんねん。
そして、小さく呟いた。
大阪
……けど、その“タイミング”は、もうすぐ来る気がするわ。
重傷の情報屋が運び込まれた夜、宮城はただ静かに椅子に座っていた。
宮城
俺が狙われたのではなく、“言葉”が狙われた。
青森が怒りをあらわにする。
青森
北の仕業だ! 俺たちが何も言わないからって――
宮城
違う。
宮城が首を振った。
宮城
“俺たちが口を開く前に、誰かが塞ごうとした”。
宮城
つまり、俺たちの言葉が、鍵を握っているということだ。
彼はゆっくり立ち上がる。
宮城
……もう沈黙ではいられない。
広島
誰が“先に引き金を引いた”か、そんなのどうでもいいじゃないか。
――広島が、紙に血のような赤墨で花を描いていた。
広島
重要なのは、“誰が撃たれたと信じさせたか”だよ。
彼はニヤリと笑い、香川に言った。
広島
このまま全員に“疑心”を植えよう。
広島
東京が自分の周囲を信じられなくなれば――自壊する。
香川
では……手は?
広島
もう打ったよ。あの夜、“狙撃”に失敗した誰かに、ヒントを送った。
広島
その人物は……次の引き金を、迷わず引くだろうさ。
福岡は一枚の紙を見ていた。
それは、東京から送られてきた“極秘通告”。
《東京は「裏切り者を炙り出す」計画を実行に移す》
福岡
……この国、“血”の上にしか咲かん花があるんだな。
彼はその紙を燃やし、ぼやいた。
福岡
俺も、咲かせないといけない時が来たってわけか。
部下が問う。
部下
始めるんですか? “作戦”を
福岡
……いや、まだ“点火”には早い。
福岡
でも、ガソリンばらまくくらいなら、やっていい頃かな。
東京は一人、部屋で過去の写真を見ていた。
七人が笑っていた。まだ、“この国が一つだった頃”。
東京
裏切ったのは、誰だ……。
呟いたその時、一本の電話。
部下
お言葉通り、次の“火”が……点きました。
次回
咲く前に摘まれる花もある__。
第四話 「一つ、消された火」
だれかが本当に死ぬ_。







