嬢華
あっ 、あの……
fw
ん 、どしたん?
嬢華
イヤ…帰して欲しいんです 、ケド……
天使でも悪魔でも何でもいい 、私をここから逃げさせてくれ。 ゴタゴタになりながらも必死に繰り出したそれは 、私の横で「だぁ~め。」なんて語尾にハートを付けて笑みを浮かべる男には風の前の塵であった。
イヤ 、風の前の塵というか、そもそも塵にすらなれていたか微妙なところである。
所在も知れぬ 、顔も全く見覚えのない男達と同じ車に乗ってからカレコレ30分が経過した。 …否 、これはあくまで私の体感時間であって実際はそんなに経っていないのかもしれないが、今はそんなことはどうでもいい。この地獄空間を抜け出せる方法が知りたい。
fw
…ありゃ 、固まっちゃった。兎みたいやねぇ。
lrn
まァ固まんのも無理ないわな 、誘拐されてんだし
knmc
むしろ騒ぎ立てないのが不思議なくらいですけどね。
助手席に座っていた赤髪の男が 、その次に運転している柴髪の男が順にチラとこちらを覗き私を見つめる。
…この状況では兎と言っても、所謂まな板の上の兎というものではないだろうか。
あと運転中に余所見をするんじゃないよ!と言いたくなるのだが 、他2人が平然としている様子から察するに日常茶飯事なのかもしれないと思うと顔が引き攣る。 。…イヤ 、てかそもそもなんで私は誘拐されてるんだ。
そこが大事だろうに 、怒涛の連続で脳が狂ってしまったらしい。
そんなことを思っていれば再び 、「ね 、嬢華ちゃん」なんて言葉と共に視界が紫色に染まった。
fw
嬢華ちゃんは 、どうしても帰りたい?
嬢華
……… え?
fw
かーえーる 、お家に。…帰りたいん?
嬢華
帰りたいです…!!
私の言葉に続けて「そっかぁ」なんてまた素っ気ない返事。
誘拐を実行した当の本人に聞かれるという謎展開に首を傾げれば 、……瞬間、耳元でカチャリと金属が触れ合う音が聞こえた。
fw
帰りたいって言うんなら俺 、殺しちゃうかも。嬢華ちゃんのこと
こつん、と悪びれもなく躊躇の色すら見せず、といった様子で男は私の額に銃口を突きつけてくる。他2人はというと、あちゃぁーと言いたげに見守るばかりで何も言わないし 、してくれない。
…ああ 、もうどうして、
fw
──んふ 、なーんて。冗談ね
その銃口は 、愉しそうにケラケラと笑っていたけれど。