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鬼王篁

不思議ですよね、まったくの初対面なのに

鬼王篁

アンタを見ると、ひどく緊張する

鬼王篁

なんて言うか、まるで

鬼王篁

授業参観を母親に見られてるような、そんな気分です

篁の手にはなにも握られてはいない

にもかかわらず、その手の甲には明らかに力を込められ

はっきりと筋と血管が浮き上がっている

その上、その腕が勢いよく前へ向かって振り切られると

なにか長いものが風を切る音がした

山野英真

……っ!?

鬼王篁

あの人達とは違う感触ですけど

鬼王篁

アンタ、こっち側の人ですよね

鬼王篁

――今もこんなにザワザワする

鬼王篁

アンタに従うべきだって、警告されてる気がする

鬼王篁

だけど初対面でこんなの、納得できるわけないでしょ

鬼王篁

だから……っ!!

山野英真

ぉわ……!?

見えないなにかで殴りかかられる動作に、とっさにその場から飛びのく

地面に支柱を突き立てたように篁の体がつんのめるのと同時に

英真が立っていた場所が、明らかに揺れた

山野英真

ちょ、え、なにそれ!?

山野英真

マジック!? マジックだよね!?

山野英真

新手のマジックでしょ、それ!

鬼王篁

これがマジックに見えるんなら!

鬼王篁

アンタの目はかなりポンコツですよ!!

山野英真

じゃあなに!マジックじゃないならこれなに!?

風の音だけを頼りに、なんとか見えない攻撃を避け続ける

しかし

山野英真

っだぁ!

足もとに転がっていた空き紙パックにつまづき、背面から転倒する

そこに正面から、赤く煌めく眼光が突進をかけた

両手でなにかをバットのように振りかぶる体勢

もし本当に一撃されれば相当の痛みが襲うことを予感し

たまらず、英真は両目を強く瞑ったまま声を張り上げた

山野英真

やめろよ、マジで!!

鬼王篁

――っっ!?

英真の声に呼応するように、篁の体が一切の動きを止めた

鬼王篁

なん……っ

鬼王篁

なんだ、これ……っ!

力を入れて再度振り切ろうとするも、腕は元より、足すら動かない

やがて、いつまでも訪れない痛みに恐々と目を開いた英真が

驚愕の表情で動揺した様子を見せた

山野英真

え、なに、どうしたの!?

鬼王篁

どうしたのって

鬼王篁

これ、アンタが……!

直後、肉体の自由が戻る

ただし、振り切るつもりだった腕からは即座に力が抜け

だらりと下がって立ち尽くす格好に落ち着いた

その変化に、篁の全身に一気に冷や汗が噴き出す

鬼王篁

……思ったより、ヤバいのか

山野英真

へ?

聞き取れなかった呟きを聞き返すも、返答はない

警戒心の解けない、値踏みするような視線で下がった篁は

置きっぱなしにしていた通学カバンを片手に、軽く頭を下げた

鬼王篁

今日はこれで帰ります

山野英真

は!?

山野英真

ねぇ、ちょっと!!

見返ることなく去って行く後ろ姿に、呼び止める手が引っ込められる

山野英真

……なんだこれって、こっちのセリフだよ……

山野英真

中二病ってやつかなぁ、あれ

山野英真

それにしては迫真の演技だったけど

山野英真

マジックとパントマイムの合わせ技?

山野英真

……そう、だよね

山野英真

でなきゃあんなこと、起こるわけない

スマートフォンで検索しながら、提げたお守りを握りしめる

いつ頃から持っているのか、それすらはっきりしないが

幼少期、よく遊んでいた寺の境内で誰かに渡された気がする

???

必ず、いつも持ち歩くんだよ

両親でも、幼馴染みでも、友人でもなかったはずだ

ならば一体

そう言い含めたのは、誰だったのか

山野英真

……持っとく義理なんてないはずなんだけど

山野英真

これに触ると、なんか安心するんだよなぁ

不安なことがあると握りしめてしまう癖ができたことを恥じ入りつつ

不意に、篁のことを思い出した

山野英真

――あの子、変な子だけど

山野英真

これ持ってるときみたいな安心感があるんだよな

山野英真

中二病は正直めんどくさいけど

山野英真

仲良くなれたらいいのに

電車の到着ベルに、目を細めながら立ち上がる

線路の彼方から走ってくる電車が、銀青に煌めいていた

夕陽を反射するそれに、思わず目が眩んだ瞬間

隣の列の最前から、人が前に傾くのを見た

山野英真

不自然なまでに、突如として前に突き出した胸元

傾いでいく本人すら、何事か理解した様子がない

驚愕に目を見開き、見返りざま、助けを求めて手を浮かせた

しかし手を伸ばす間も、声を上げる隙もなく

その直後、けたたましいブレーキ音と悲鳴がホームに響き渡っていた

翌日

校長

えー、幸いですね、命に別状はなく

校長

片腕の骨折のみという状況で胸を撫で下ろしました

校長

ですが電車のホームは非常に危険な場所です

校長

みなさん決して、ホームではふざけないよう……

転落したのは、陸上部のエースだったらしい

英真から見えなかっただけであの場にほかの生徒もいたのか

登校したときにはすでにこの話題で持ちきりだった

事件性もなく、自殺未遂でもないとの報告に

体育館中から冗談半分に残念がる声や、安堵の声が次々に漏れた

校長

ただ残念ながら、数日後の大会は欠場となります

校長

マスメディアの取材も予定されていましたが

校長

本人の気持ちも考え、見合わせることになりました

校長

しばらく、彼はオンライン授業で――

女子

えぇー

女子

学校にも来ないの?

女子

練習見られないじゃん

女子

軽い練習くらいはするんでしょ?

女子

部活だけ来たりとか……

校長

女子棟側、静かに!

校長

危険な目に遭ったからこその対応です

校長

応援の機会があることを楽しみにしておきましょう

温厚にたしなめる言葉を聞いても、女子からの不満は小さく漏れ続ける

山野英真

……モテる人も、先生も大変だ

解散の号令とともに生徒たちがぞろぞろと教室へ戻る

私立黎明高校は共学校ではあるものの、男女の生活圏はほぼ区切られている

クラス分けも男女別にされ、通常科目はそこで行っている

共同なのは部活動や意見交換を伴うものや実験、学校行事くらいだ

中央棟の3階から上には職員室やパソコンルーム

保健室や音楽室などが配置され

2階以下には各クラブの部室が並んでいる

さらに中央棟に隣接する形で、物理室や生物室のある理科棟があり

全生徒の行き来や交流があるため、男子校、女子校とはやはり違う

山野英真

適度に気楽で、適度に異性に対する緊張感を持てる

山野英真

ここの構造を知ったときにはビックリしたけど

山野英真

こういうのもアリなんだなぁ……

??

よぉ

山野英真

ヒッ!?

山野英真

き、昨日の人!?

??

……なんで悲鳴なんだよ

??

なんもしてねぇだろ

山野英真

すみません!オレの喉、笛みたいになってて!

山野英真

息吸うと高い音が出るんです!!

山野英真

あなたを怖がったとかじゃまったく、全然!!

??

……それはそれで、喉の医者とか行くべきじゃねえかなぁ

困ったように眉尻を下げ、言葉を探す

??

とりあえず放課後、ちょっと顔貸してくれるか?

山野英真

はぇ!?

山野英真

えっと、今日は、その!

??

他に用事あるんなら、途中まででも一緒に行って話すけど

山野英真

勘違いでしたぁ!

山野英真

用事なんてありませんでした!

山野英真

こんな顔でいいなら喜んでお貸しします!

??

……そうか?そんなら助かるけど

??

場所はコイツが案内するから、一緒に来いよ

山野英真

こいつって……

山野英真

鬼王篁

……どうも

気まずそうに会釈する篁の顔に、やはり安堵する

黒髪の不良とは階段で別れ、一緒に教室へと向かった

山野英真

上の階って、上級生の教室だよね

山野英真

あの人、先輩なんだ

鬼王篁

そうです。同じ、部活で

山野英真

仲良いんだ?

鬼王篁

いいって言うか、普通ですね

山野英真

そっかぁー

山野英真

……オレ、なにされるの?

鬼王篁

大事な話ですよ

山野英真

ボカされるといっそう怖いよ!

鬼王篁

なにもなければ、なにもされません

山野英真

なにもなければってなにさ!?

予想のつかない事態に戦慄しつつ

説明に困っているらしい篁の顔に思わず顔が緩む

鬼王篁

……なんです?

山野英真

や、君ってなに考えてるか分かんないけど

山野英真

一緒にいると安心する

鬼王篁

……俺は、昨日と同じように緊張してます

鬼王篁

怖い先生が横にいるみたいで

山野英真

そんな相手に殴りかかろうとしないでよ

鬼王篁

それは、アンタの得体が知れないから

山野英真

ただの一般人なのに

特に言葉もなく席に戻った篁になんとなく寂しいものを感じながら

英真は始まった授業を、どこか他人事のように聞き流していた

山野英真

(どっか、体育してる)

山野英真

(……あの人、本当に事故かな)

陸上競技というキーワードのせいか、事故のことが脳裏に浮かぶ

山野英真

(確か、2年のヨシザキショウゴ)

確かそんな名前だったと、ぼんやり思考を巡らせる

山野英真

(オレは後ろ姿しか見てないけど)

山野英真

(カッコよくて、女子にモテて、親切)

山野英真

(頭も悪くはないし、努力家)

山野英真

(恨みを買ってる様子もなさそう、なのに)

山野英真

(――オレには、誰かに押されたように見えた)

山野英真

(たぶん被害者本人も、そう証言してるはず)

山野英真

(だけどオレも含めて、犯人を見た人はいない)

山野英真

(じゃあ、なんで)

生物教師

……野、山野ー!

山野英真

へぁ!?

生物教師

この現象、なんて言うか分かるか?

山野英真

あ……っ!すいません、ぼんやりしてました!

慌てて謝罪し、質問を聞き返して回答する

そんな英真を、篁はやはりどこか警戒した様子で注視し続けていた

放課後閻魔堂【完結】

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コメント

16

ユーザー
ユーザー

事故が起こったのは、何の仕業なのか、予想がつかずわくわくしています😳 英真くんドジっ子キャラっぽいのに、なにか常人ではない力を持っていて、最強感が出ちゃっているところがギャップがあり好きです!   活動休止、把握しました tellerで井之上さんに出会えて、本当に良かったです☺️ 別の場所でも井之上さんのお話を読みに行かせていただきますね

ユーザー

いや面白いですが???(声を大にして否定したい) うわぁ楽しみ…!!✨ 井之上さんのおっかけの為だけにエブリスタ入れますわ(信者)

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