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ヴァシュレイ
ヴァシュレイ
ヒステリックな口調で殿下は喚き散らした。
ルシア
私の言葉が途中で止まる。
殿下が私に向けて銃口を向けていた。
ヴァシュレイ
ヴァシュレイ
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ルシア
親同士が決めた婚約のもと、一年間生活を共にしてきた。
この人の性格は大体知っている。
彼にとって世界は常に自分を中心に回っていて、彼は、彼以上の賞賛を受ける者が隣に立つのが許せないらしい。
女が前に出るな――今のご時世でそうそう聞かない台詞も、何度も耳にした。
ラグナーク公爵は照準から庇うように、私の前に立つ。
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
完全に同意ですが、その口調やめてほしい。
何で顔の筋肉ひきつると黒幕スマイルになるんだ、貴方は。
やめてその顔、煽ってるから。
ちょっと煽ってるから!
あなたが笑みを深くするほど、殿下は恐怖に追い詰められてるから!
殿下が引き金に力を込めた瞬間、ラグナーク公爵が目を見開いた。
ラグナーク
ラグナーク公爵の目元に、真っ赤な光が灯る。
ラグナーク
その刹那。
第一王子ヴァシュレイ・ヴァルディスの脳裏をよぎったのは――
存在しない記憶
過去編:あの日の夕焼け
王立魔法学院は、表向きは名門だった。
だが裏では、派閥争いで生徒の衝突が絶えない。
攻撃魔法を使えるガラの悪い生徒同士の小競り合いは日常茶飯事だった。
王子が縄張り争いに足を踏み入れたのは、気まぐれでも反抗でもない。
ただ――退屈だったからだ。
多分実在しない不良
三白眼の男が吠える。
薄暗い裏庭で囲まれたとき、王子は笑っていた。
そのとき、背後から一人の男が歩み出る。
銀の髪、鋭い目。
まだ少年だったラグナークだ。
ラグナーク
それが最初の言葉だった。
あとで聞くと、王子に味方する気はなかったらしい。
単に多勢に無勢だったから、彼は王子に加勢したに過ぎない。
その日から二人は組んだ。
抗争は激しかった。
西棟を根城にする《黒鷲団》、港町出身の荒くれが集まる《灰狼隊》。
王子とラグナークは二大勢力の抗争に、たった二人で割り込んだ。
王子は頭が切れた。
地形を読み、人数差をひっくり返す策を立てた。
ラグナークには勇気があった。
誰よりも早く、戦場に飛び込み、活路を開いた。
放課後はいつも喧嘩にあけくれた。
夜は屋上で包帯を巻き合う。
ヴァシュレイ
ラグナーク
ラグナーク
ヴァシュレイ
いつも殴り合いながら笑っていた。
背中を預ける感覚は、言葉より先に理解していた。
振り向かなくても、ラグナークがいるとわかる。
ヴァシュレイ
気づけば今日も、数十人の敵が地に伏していた。
夕焼けの校庭に、血だらけで、二人は倒れ込む。
王子が訊いた。
ヴァシュレイ
ラグナーク
ラグナーク
ヴァシュレイ
ヴァシュレイ
ラグナーク
沈黙。
やがて二人は笑い合った。
――どうして忘れていたんだろう。
いや、忘れてなどいない。
拳の痛みも、夕焼けの色も、背中の温度も。
すべて身体が、覚えている。
ルシア
目の前には不思議な光景が転がっていた。
殿下は焦点の合わない目で、涙をボロボロとこぼしていた。
ヴァシュレイ
銃を持つ手が震えている。
ヴァシュレイ
王子殿下の手元から、銃が落ちる。
その場にへたり込んだ殿下は、嗚咽をもらしながらうつむいた。
ヴァシュレイ
王子殿下が衛兵を呼び立てる。
彼はすすんで手枷を受け入れ、控室へと連行されていった。
その背中を見送りながら、私はラグナーク公爵に訊いた。
ルシア
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク
ルシア
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
ルシア
悪巧みする人ではないんだと思う。
ただ周囲の人たちは明らかに公爵に退いていた。
気持ちは分かる。
悪意がないのを知る私も、少し引いてる。
ラグナーク
ラグナーク
ルシア
ルシア
ルシア
それでも、この人。
自分も怖いのに、私を庇って、銃の前に立てる人ではあるんだよな。
公爵がまた不気味な笑みを浮かべた。
ラグナーク
ラグナーク
公爵様が私の手を引く。
ルシア
ラグナーク
ラグナーク
ルシア
控室から王子の怒号が聞こえた。
瞳術の効果が切れたらしい。
今すぐこの場を離れた方がよさそうだ。
時間がない。
だけど
ルシア
ありがとう、助かりました、誤解されてばかりで大変ですね。
彼にかけるべき言葉はたくさんあった。
でも、それらを差し置いて、伝えたい言葉があった。
これを言わずして、私は、今日を終わることができない。
私は大きく息を吸った。
両手に力をこめ、ぎゅっと脇をしめる。
腹の底から声を出して言った。
ルシア
※この後。無事に帰りました。