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地割れのような轟音が耳をつんぐさむ
またボタボタと上から黒色が落ちてくる
可哀想に思わないでもないが…
頭の上に死んだコウモリが乗っかるのはごめんだ
懐中電灯で慎重に払いのけ、第二波に備えて岩陰に身を潜める
この奥にGhostがいる
それも、規格外の巨大Ghostが-
ぎゃああぁぁぁぁぁ……
先陣を切っていた奴がしくじった
吹き飛ばされ、運悪く俺の目の前の地面に叩きつけられる
幸いGhostの轟音のおかげで潰れたような音はかき消された
………
大丈夫、きっとあれはGhostの声だ
音は何とか自分を誤魔化したものの、体にべっとりと付いたものはどうしようもなかった
そんな間にも一人、また一人と血の海が増えていく
やつに今までの駆除法は効かない
今までのGhostとは比べものにならないほどの力を持ち、
唯一の弱点である、"光"さえも自らが輝くほどで効果がない
すべてを破壊する 光り輝くGhost
咆哮は鳴りやまない
やつの名前は"THE LIGHT"
報告によれば『複数のGhostが絡まりあい、一個体のGhostを形成している』らしい
再び咆哮のような爆音が洞窟内に響く
今近づけば、間違いなく三途の川までひとっ飛びだ
スマホに送られた 次の項目を開く
『念の性格 : 比較的穏やか』
何が"穏やか"だ
凶暴そのものじゃないか!?
『刺激…例えば 近づかなければ、攻撃してくることはない』
今の俺たちの行動と矛盾しているのが否めないが、すでに退路はない
文字通りの意味で……
洞窟の入り口には会社が雇った機関隊が待ち伏せている
THE LIGHTを外に出さないためと銘打っていたが…
実際は、俺たち社員が逃げ出さないように銃を構えているのだろう
あの社長ならやりそうなことだ
…………!!
咆哮以外の音が耳に届く
それが、音楽だということに気づくのに数秒かかった
血の海をできるだけ視界に入れないようにしながら周りを見渡す
………あった
すぐそこの地面のくぼみに挟まったスマホが着信音とともに光っている
あの野郎……
先程 飛ばされてきた同僚の血の海に目をやりかけるが、すんでのところで思い止まる
なんでマナーモードにしてないんだ……っ
ぴたりと轟音が響きやむ
やばい……
静寂のなかで目の前のスマホだけが空気も読めず、得意気に着信音を鳴らしている
よりによって第九…
年末のコンサートでよく流れるベートーヴェン作曲の"歓喜の歌"
その高音が洞窟によく響く
Ghostの一部がスマホめがけて伸びあがった
隊員たちの呼吸がその様子を見守る
伸ばされた触手はゆっくりとスマホを包み込み……
………
……………
………………………
……………?
反応が……ない?
先程の暴走が嘘のようにTHE LIGHTはその動きを静止した
その触手には大切そうにスマホが抱えられている
わけがわからない隊員たちは俺を含め、目を丸くして立ち尽くす
洞窟にはただただ歓喜の歌が高らかに自由を讚美していた
その後、THE LIGHTが安定化したのを機に様々な実験がなされた
そして数日もしないうちに新薬が開発された
"解念剤"とよばれるそれは、THE LIGHTの弱体化に成功
消滅まであと少しだった
が……
状況が変わった
本部から調査チームが派遣され、現場に乗り込んできたのだ
そのまま俺たちはそこを追い出された
あとは本部に任せ、通常業務に戻れとのことだった
ついでにそこで起きたことの口止めをくらった
冗談じゃない
残業手当すら出ず、命を落としたやつまでいる
おまけに褒め称えられることもなく、そこでの出来事は抹消された
通信機器の類いは全て会社のものだったため、THE LIGHTに関するデータは何も残っていない
何故あんな危険なやつを公表しないのか
危険なGhostは混乱を招くからか?
それもあるかもしれない
しかし、それ以外の思惑があるような気がしてならない
そこで俺は記録を録ることにした
今、記憶が薄れないうちに脳波を読み取り、ファイルとして保存しているところだ
このデータを幾つかの場所に隠した
いつかあのGhostが再び現れたときに備えて……
もしこのファイルを受け取ったやつがいたなら、すまないが自分の身は自分で守ってくれ
まだTHE LIGHTが現れていないのなら、ファイルを元の場所に戻すか、どこか安全なところに移してくれ
必要な時代にこのファイルが発見されることを祈る
このファイルを持っていることを会社のやつらに感づかれるな
prologue 完