生きていてくれてありがとう(後編)

3月9日

結衣が元気な声で俺の目を覚ます。

きっと…彼女の見ている世界は綺麗なんだろうな。

古びたマンションも高級マンションに…

冷たいコンクリートの壁も大理石に…

ブサイクで低収入な凡人も、医者で収入のある素敵な旦那に…

だからこそ俺は結衣の望む世界で

結衣が幸せであってくれればいいんだ。

結衣は一つの白い箱を取り出した。

俺は照れながらもその箱の紐を解き、

箱を開けた。

結衣は手探りで箱に入ったアルバムを持ち笑った。

数年前…

私はうまく健二を誑かし

結衣に毒入りのコーヒーを飲ませる事に成功した。

私の家が病院関係だったから

薬品を手に入れるのも、健二を病院に迎え入れる事も、

何もかも抜かりなく捗った。

3月9日

俺が箱を開けると

そこには

「証拠写真」

と書かれたアルバムとドクロマークの付いた薬瓶が入っていた。

妻は嬉しそうに何かを話していたが…

メッセージを開けるととんでもない事が書かれていた…。

こんにちわ。健二さん。 結衣と幸せにやってくれてるかしら？私はね、なんだかその感じに飽きてしまったの。

結衣はあなたが医者じゃない事を知ったらどうなるでしょうね？毒入りのコーヒーを飲まされて失明したのを知ったらどうなるでしょうね？

きっと精神が錯乱して死んじゃうんじゃないかな？

証拠写真は沢山撮ってあります。あなたが結衣の貯金を使い込んでるのも知っています。

もし、あなたが死んでくれたら、あなたの嘘を守ってあげましょう。

愛する結衣のためにさて、あなたは嘘を付き続けられるかな？？

俺は錯乱した。

もしこの真実が露見してしまえば俺は犯罪者となる。

その上、結衣がこの真実を知れば俺が嫌いになる以上に

物凄く絶望するだろう…

今まで愛し、尽くしてくれた結衣…

もしこんなブサイクで最低なやつに尽くしたと知ったら…

俺は結衣の世界を守る事にした。

結衣が、結衣自身が見ている世界を…

俺は震える手で一気に薬瓶を流し込んだ。

私の可愛い可愛い無様な結衣ちゃん

なんでも持っているあなたが何もかも失って落ちてく所がたまらなく大好きよ。

ほんと、他人の不幸って蜜の味…

私の大好きな可愛い結衣ちゃん

私のために…

生きていてくれて、ありがとう。