〜死後の世界〜
開いた目に映ったのは、男の子の顔。金髪のロングヘアーに青い瞳、[真っ白です]って、洗剤のコマーシャルに使えそうな白い肌。整った目鼻立ちが近づいてくる。もうすぐ唇が触れる。あと3センチ、2センチ、あと1センチ、って……。
折原 安音
きゃああああ、痴漢!!
振り回した足が命中して、男の子は吹っ飛ばされ、長い髪がうねった。男の子は細い身体を折り曲げ、ゴホゴホと咳をし出す。
折原 安音
何するのよ変態!!どスケベ!!未成年ナントカ罪で訴えてやる!!
天使?
なんだよもったいぶって。君に失うものなんか、今さらないんだし、いいじゃん。どうせ死んだ人間なんだろ?
折原 安音
ッーーー!!
ひとのファーストキスをなんとも思ってないような言い方にムカッときたのはほんの一瞬で、すぐにあたしは冷静になって辺りを見回していた。
天使みたいな男の子が、真顔になって言う。
天使?
思い出した?死んだこと
折原 安音
思い出した……
天使が学ランの胸ポケットから手帳らしきものを取り出し、羽根ペンでなにやら書き込んでいる。
天使?
折原 安音1993年11月28日生まれのO型。本日2008年1月18日、午後11時9分55秒、自宅のマンションのベランダから飛び降り、死亡ーっと
折原 安音。たしかにあたしの名前。生年月日も、今日の日付も、すべて正確だった。
天使?
どう?間違いない?
折原 安音
ない…。で、あんたは?まさか、天使とか?
天使?
その、まさか。呼ぶ時は「天使ちゃん」でも「天使くん」でもお好きにドーゾ
折原 安音
じゃあ、痴漢って呼んでいい?
天使?
なんだよ。生きている時にできなかったことをしんてからさせてあげるっていう、ささやかな僕の心遣いなのに。せっかく久しぶりに若い女の子の担当できてラッキーって思ったけど、君、可愛くないねー。モテなかったでしょ?
折原 安音
余計なお世話よ、痴漢天使!!
〜続く〜