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第1話 - あ

2023年12月22日

#恋愛

結城　真矢

ヨシヒサ

見損なったよ、リサ

ヨシヒサ

まさか君が、息子たちにこんなことをしていたなんて…

リサ

え、一体何の話？

ヨシヒサ

とぼけるな！

ヨシヒサ

ダイスケとタクミに見せられたよ

ヨシヒサ

二人の体にできた痣と傷を…

リサ

痣と、傷？

ヨシヒサ

二人とも、リサにやられたって言ってるんだ

ヨシヒサ

『自分達が実の子じゃないから気に入らないらしい』『弟を守り切れなかった』

ヨシヒサ

そう、ダイスケが先に打ち明けてくれたんだ

ヨシヒサ

連れ子の息子達の子育てをよくやってくれている、

ヨシヒサ

素晴らしい母親だと思っていたのに、

ヨシヒサ

まさか陰でこんなことをしていたなんて…気付かなかった自分が情けないよ

リサ

待って！私そんなことしてない！

リサ

全然身に覚えがないわ！私が子供達をどれほど大切に思っているか！

リサ

お願い、信じて！

ヨシヒサ

俺だって信じたいよ

ヨシヒサ

でも、もう無理だ。俺は父親として、息子たちを守らなきゃならない

リサ

そんな…

ヨシヒサ

とりあえず、今日は実家に身を寄せる

ヨシヒサ

君との話し合いはその後だ。まぁ、離婚になるだろうけどな

リサ

私本当にしてない！信じてってば！ねぇ！

～子供達のＬＩＮＥ～

ダイスケ

父さんとあいつ、本当に離婚しそうだなｗ

タクミ

お兄ちゃん、やっぱりやめようよ！お父さんにほんとのこと言おうよ！

タクミ

ぼくこんなのやだよ。ぼくたちのせいでお母さんが…

ダイスケ

うるせぇ！何がお母さんだよ！

ダイスケ

あいつは所詮、血の繋がりのない他人だろうが！

タクミ

でも、ぼくたちにとってもやさしくしてくれたもん！

ダイスケ

バカヤロー！あの優しさは嘘だ！

ダイスケ

あいつは、本当の母さんから父さんを奪った、クソ女だぞ！

ダイスケ

俺達はそんなあいつに罰を与えてやってるだけだ

ダイスケ

当然の報いなんだよ

タクミ

ぼくやっぱりほんとのこと言ってくる

ダイスケ

は？ふざけんなバカ弟！

ダイスケ

いいか？このこと大人に言ったら、マジで殺すからな！！

～その夜～

タクミ

お母さん、ごめんなさい

リサ

え、タクミ君！？

リサ

良かった返事くれて！あなたもダイスケ君も、何度もLINE送ったけど

リサ

返事がなくて心配してたのよ

タクミ

ごめんなさい、ぼく、うそついたんだ

リサ

それって、私があなた達にひどいことした、って言ったこと？

タクミ

うん

リサ

何でそんな嘘をついたの？

タクミ

ごめんなさい

タクミ

ぼくの体のあざと傷、本当はお母さんじゃなくて、お兄ちゃんがつけたの

タクミ

たくさんたたかれて、切られて、すごくいたかった

リサ

えっ！ダイスケ君が！？

タクミ

それと、お兄ちゃんの体のは、お兄ちゃんが自分で切って、叩いてつけてた

タクミ

そして、お兄ちゃんぼくにこう言ったの

タクミ

『おれといっしょに、父さんにあの女にやられたって言え』

タクミ

『いうことを聞かないと、お前を殺す』って。『誰か大人に言っても殺す』って…

タクミ

ぼく、それでこわくて、お母さんがやったって

タクミ

うそついちゃったんだ

リサ

そうだったのね…ダイスケ君はなんでそんなことを…

タクミ

お兄ちゃん、お母さんのことがきらいみたい

タクミ

でも、ぼくはお母さんが好きだよ。本当のお母さんよりやさしいもん

タクミ

それなのに、こんなことしちゃって…

タクミ

お母さんがいなくなるの、ぼくやっぱりいやだよ

タクミ

ごめんなさい、お母さん、ごめんなさい！

リサ

大丈夫、謝らないで。私、ちっとも怒ってないよ

リサ

怖かったよね。よく話してくれたね

タクミ

ぼく、これからお父さんにも話してくる

タクミ

お兄ちゃんのことが怖いけど…

リサ

大丈夫。私からもお父さんに連絡する

リサ

ダイスケ君に、手出しはさせないわ

リサ

できれば、ダイスケ君におどされた証拠もあればいいわね

タクミ

LINEでも殺すって言われたから、それを見せるよ

リサ

がんばって

～翌日～

ヨシヒサ

リサ、本当にすまなかった！！

ヨシヒサ

君は何も悪くなくて、全部ダイスケの仕業だったなんて…

ヨシヒサ

まさか自分で自分に傷をつけたなんて思わなかったんだ

ヨシヒサ

あいつの演技に、すっかり騙されてしまった

ヨシヒサ

君がやったと信じて、酷いことを言ってしまって、本当に申し訳ない

ヨシヒサ

ダイスケがこんなことをするなんて…許してくれ！

リサ

もういいよ、ヨシヒサ

リサ

自分の子を真っ先に信じるのは、親として当たり前だよ

リサ

私だって同じ立場なら子供を信じてしまったと思う

リサ

信じてもらえなかったのは悲しかったけど…

リサ

もう気にしないで

ヨシヒサ

許してくれるのか？こんな俺と、まだ夫婦でいてくれるのか？

リサ

うん。一緒に、タクミ君のケアもしていきたいしね

ヨシヒサ

すまない、本当に…

ヨシヒサ

これから三人で話し合いたい

ヨシヒサ

今からダイスケを追加するけど、いいか？

リサ

うん

（【ダイスケ】が追加されました）

ヨシヒサ

ダイスケ！どうしてこんなことをしたんだ！！

ダイスケ

さっきもそれ聞かれたし、勝手に追加すんなよ

ヨシヒサ

なんだその態度は！！

リサ

ダイスケ君

リサ

自分の弟に、なんて酷いことをしたの！

ダイスケ

うるせぇ！お前のせいだからな！タクミにもあんだけ口止めしたのに…

ヨシヒサ

お前、まだ反省してないのか…

ヨシヒサ

見損なったぞ

リサ

タクミ君はね、お兄ちゃんに傷つけられて、脅されて、

リサ

凄く怯えていたの

リサ

それでも、私のために勇気を出して話してくれた

リサ

そんな弟の気持ちが、あなたにはわからない！？

ダイスケ

あぁ、わからないね

ダイスケ

父さんと不倫して、母さんから父さんを奪ったクソ女を慕う気持ちなんか！

ヨシヒサ

はぁ？まだそんなことを言ってるのか！？

ヨシヒサ

何度も説明しただろう

ヨシヒサ

リサとは、母さんとの離婚後に付き合い始めたんだって

ダイスケ

もう騙されねぇぞ

ダイスケ

母さんから聞いたんだ

ダイスケ

不倫相手のあの女に奪われた、って

ヨシヒサ

なっ…お前、隠れてあいつと会っていたのか！？

ダイスケ

そうだよ。母さん泣きながら言ってたんだ

ダイスケ

『お父さんは悪くない。お父さんもタクミもあの女に騙されてるだけなの』

ダイスケ

『目を覚まさせてあげたい。お願い、あんただけが頼りなの』って

ヨシヒサ

騙されてるのはお前だ！

ヨシヒサ

いいか！？不倫していたのは前の母さんの方だ

ヨシヒサ

あいつが、不倫して俺達三人を捨てたんだよ！

ダイスケ

へ？

ダイスケ

う、嘘だ、騙されないからな

ヨシヒサ

本当だ。興信所が送ってきた不倫の証拠を見せてもいい

ヨシヒサ

だが不倫相手に捨てられた後、

ヨシヒサ

金に困って今、俺達に復縁要請してきているんだ

ヨシヒサ

俺は相手にしなかったが、お前はまんまと引っかかってしまった

ヨシヒサ

お前を利用してリサと俺を別れさせようという、あいつの策略にな

ダイスケ

そんな…

ヨシヒサ

お前はずっと、リサに冷たく当たっていたよな

ヨシヒサ

リサを嫌っていたから、実母の嘘八百にも騙されてしまうんだろう

ヨシヒサ

だが、あんな母親が本当に信じられるのか？

ヨシヒサ

家事もせず、昼間から遊び歩いたり酒を飲んだりしていた、

ヨシヒサ

どうしようもない母親だったの、覚えてるだろう

ヨシヒサ

お前とタクミを実の子のように世話してくれたリサと

ヨシヒサ

どっちが母親としてあるべき姿か、わからないのか？

ダイスケ

だけど、母さんは優しい時もあったし、今苦しんでるし…

ダイスケ

それに、その女は所詮、血の繋がりのない他人だろ！

ダイスケ

俺達に優しいのも、本心じゃなくて下心があるからに決まってる！

ダイスケ

タクミはまだガキだから、騙されて懐いてるだけなんだ！

リサ

そんな…私がどれだけ本気であなた達の母親になろうとしたか、

リサ

少しもわかってくれないの？

ダイスケ

うるせぇ！継母風情が！他人はさっさと出て行けよ！出て行かないと殺すからな！

ヨシヒサ

また『殺す』か…どこでそうやって脅すことを覚えたんだ

ヨシヒサ

ダイスケにとっては、血の繋がりというものがそんなに大事なのか

ダイスケ

大事に決まってんだろ

ヨシヒサ

じゃあ、お前が出ていけ

ダイスケ

へ？

ヨシヒサ

他人は出て行けというなら、お前が俺の家から出ていけ

ヨシヒサ

俺とお前は他人だからな

ダイスケ

何言ってんだよ父さん…俺は、父さんの子だろ？

ヨシヒサ

いいや違う。お前は、前の母さんの連れ子だったんだ

ダイスケ

嘘だろ…

ヨシヒサ

お前は小さすぎて覚えてないだろうけどな

ヨシヒサ

前妻は未婚の母で、お前の父親は誰かわからないらしい。そして結婚後、タクミが生まれた

ヨシヒサ

リサのことを継母風情がと言ったが、俺だって継父だ

ダイスケ

じゃあ、血の繋がりのない俺を何で引き取ったんだよ…

ヨシヒサ

血の繋がりはなくても、情はあるからな

ヨシヒサ

引き取る気のない前妻に渡しても、

ヨシヒサ

不幸になるのは目に見えていた

ヨシヒサ

お前と血の繋がりがないことは、リサにも話していたよ

リサ

そう。それでも二人とも俺の息子だ、ってお父さんは話してくれたの

ヨシヒサ

だが、そんなに血の繋がりが大事なら、

ヨシヒサ

お望み通り血の繋がった母親の元に帰ればいいさ

ヨシヒサ

お前をあっちに引き渡すことにするよ。あの母親と暮らしたかったんだろ

ダイスケ

違う！俺は、元通り母さんと父さんと暮らしたくて…

ヨシヒサ

俺は御免だ。俺が今愛しているのは、リサだからな

ヨシヒサ

そのリサを、お前はどれほど傷つけたか…。タクミもだ

ヨシヒサ

あいつ、今でもお前に怯えてる。もうお兄ちゃんと一緒に暮らしたくないんだとさ

ヨシヒサ

俺も、実子を苦しめる継子はいらないよ

ヨシヒサ

この作戦はあいつが考えたのか？タクミを傷つけろと言われたのか？

ダイスケ

違う…俺が、父さんにこの女と別れてもらうには、こうするしかないって考えたんだ

ヨシヒサ

そうか。よくこんなことを考え付くもんだよ。反吐が出る

ヨシヒサ

勿論養育費も払わないからな。お前は連れ子なんだし

ダイスケ

待ってくれ！俺、難関校を志望してるんだ！

ダイスケ

それなのに、母さんとだけ暮らしてると、高校に行けなくなってしまう…

ダイスケ

頼む、援助をしてくれ！

ヨシヒサ

知るか。向こうでじっくり反省するんだな

～一ヶ月後～

ダイスケ

父さんごめん！もう一度俺を引き取ってくれ！

ダイスケ

リサさんにもタクミにも謝るから

ダイスケ

リサさんに歩み寄る努力をするから！

ダイスケ

だから許してくれ、頼む！俺に情があるんだろ！

ダイスケ

俺は、騙されていただけなんだよ！！

～数時間後～

ヨシヒサ

タクミの体の傷は大分癒えてきたみたいだ

リサ

そう、よかった…

ヨシヒサ

だけど、心の傷は今でも…

リサ

うん…こないだも、悪夢を見て魘されてた

リサ

寝言で、私に謝ってもいたわ

ヨシヒサ

きっと、時間が解決してくれるさ

ヨシヒサ

タクミとリサが、普段は何事もなかったかのように仲がいいのが救いだよ

リサ

うん

リサ

それと、ダイスケ君のことなんだけど…

ヨシヒサ

わかってる。俺だって心配だよ

ヨシヒサ

でもここで手を差し伸べるわけにはいかない

ヨシヒサ

援助をしても、前妻に金を使い込まれてしまうだけだ

ヨシヒサ

何より、引き取るのはタクミが嫌がっているしな

リサ

そうだね…

～後日談～

リサ

前妻は、『300万くれたらダイスケを引き取ってあげてもいい』と

リサ

ヨシヒサに交渉し、ヨシヒサはその通りに300万円振り込みました

リサ

そのお金はあっという間にお酒とホストに消えてしまったそうです

リサ

今では前妻はダイスケ君に八つ当たりをしながら、

リサ

ホストに貢ぐ金を寄こせと迫り、

リサ

ダイスケ君は年齢を偽ってバイトを掛け持ちさせられ、

リサ

学校に行く暇もないのだとか

リサ

私の元にも、何度も謝罪のＬＩＮＥが届きました

リサ

心配ですが、ヨシヒサには『今はあいつに関わらない方がいい』

リサ

と止められているため、どうすることもできません

リサ

ヨシヒサなりに、ダイスケ君を育てた責任、信じてしまった責任を強く感じているのでしょう

リサ

それより、何かと私を気遣って気にかけてくれる

リサ

タクミ君のケアに注力したいです

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結城　真矢

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