あかね
ん…
気づいたら見知らぬ部屋の中だった。
寝心地のいいベッド。 真っ白な天井と、規則正しい機械音。
ツン、と鼻をつく薬品の匂い──
あかね
ここは…病院?
入り口近くには、スーツ姿の男が1人。
離れた窓際には窓。 窓ガラスの向こう側に見える格子。
その奥からは微かに夕日が差し込んでいた。
あかね
私…何で病院に…
あかね
私、一体…
必死で思い出そうとするけれど、全く思い出せない。
あかね
私、私の名前は…
あかね
(そうだ、病院なら枕元に…)
あかね
(名前が書いてあるはず…)
あかね
(あった!)
あかね
…笹山あかね
あかね
そうだ、私は笹山あかね!
ボンヤリとだったけど、少し思い出した。
あかね
(自分のことは分かるみたい)
じゃあ自分以外のことは?
あかね
(私以外のこと…)
すると不意にある言葉が浮かんだ。
あかね
アオイ…
あかね
(アオイ?)
あかね
(アオイって人の名前だよね?)
あかね
(どうしてこの名前を覚えてるんだろう)
あかね
(私の名前があかねだから…)
あかね
(もしかして家族?)
あかね
(わからないなあ…)
あかね
(誰なんだろ、アオイって…)
辺りを見ると、リュックが1つある。
あかね
(私の…なのかな)
あかね
(中には…写真?)
あかね
家族と友達、かな?
そこには私が写っていた。
家族と、友達と。 どちらも楽しそうに微笑んでいる。
でも、やっぱり誰もわからない。 まるで知らない人達の姿を見ているようだ。
あかね
アオイはどれだろう?
医師
目覚めましたか?
あかね
!あの…先生
あかね
私…一体…
医師
あなたは事故に遭われたんですよ
あかね
事故…
あかね
実は私、記憶が…
あかね
アオイという名前以外覚えていなくて…
あかね
アオイって誰なんでしょう?
あかね
私、一体どうなっちゃったの?
医師
医師
どうやら記憶喪失のようですね
あかね
ええ!?
医師
今覚えているものは
医師
あなたの思い入れの強いもの
医師
そういう事かもしれません
あかね
じゃあ、アオイって人は
あかね
私にとって大切な人ってこと?
私は医師に頼み込んだ。
あかね
先生、私アオイに会いたい!
あかね
アオイに会って聞きたい!
あかね
私の事、教えてほしい!
医師
…わかりました
医師
…その子をこっちへ
先生は入り口にいたスーツの男に何か頼んでいた。
あかね
(その子…?)
あかね
(その子って、もしかして)
あかね
(アオイのこと…!?)
程なくして、病室に女の子が入ってきた。
あかね
(えっ、この子って…)
あかね
(だって…嘘)
あかね
(そんなわけ…!)
その子を見て、私は驚いた。
彼女の顔は私と全く同じだった。