降りしきる雨は止むことを知らず
霞む眼前を覆い尽くしている
ただその中に佇む君は
まるで穢れた神様のようだった
───
雨音でノイズ混じりのようになる君の声
───
夜に溶けるように君は姿を消していき───
君恋焦がす
第1話
春焦がす
朝、古くさい時計の音が鳴る
あまりのうるささに顔を顰め起き上がる
村雨 曇
村雨 曇
村雨 曇
起きたばかりの頭を使って、今日の予定を考える
学校の準備の為に部屋にある着替えを取ってから、下へと降りた
顔を洗い、着替えを置き。
そしてキッチンへ入る。
一通りの流れを済ませれば、冷蔵庫の中を見る時間に入る。
これがなかなか楽しいもので、今日は何があるかな、何にしようかな。
そういった事は、朝の柔らかな思考にはちょうどいいのだ。
村雨 曇
口に出してレシピを考える。
無意識な癖だが、昔これを見た父が、
”曇は想像力が豊かなんだな!”
と、とんちんかんなことを言っていたのを覚えている。
そして、父子家庭の中父がとても可愛がってくれていたことと、母の事について殆ど話さず、話してもくれなかったことも。
村雨 曇
村雨 曇
それは自分の目指す物にとって最も大事な物だ。
村雨 曇
そう、小説。
文字を生み出すのは想像であり、創造では無い。
そんな事を父から聞いた事がある。
大きくなった今でもまだ理解は出来ていないが、
そんな俺を見た父は笑いながら、
”何も無い所から生まれる小説では無く、見て、聞いて、感じた物から生まれる小説にしなさい。曇の想像や感情は、きっと美しい物になるからね。”
そう言った。
もしかしたら父が古い物を集めたのは、懐古趣味では無く、
そこに込められた感情を汲み取って、俺に成長出来るようにして欲しかったからなのかもしれない。
村雨 曇
しかし、その為の想定はあまりに難しいものだ。
食事が終わったあとは、着替えに入る。
この中で必ずしておかなければならない事がある。
村雨 曇
───たまたま忘れていたようだが。
ネックレスを付けるというのは別に趣味では無い
父が遺したネックレス...
思い出の中に蘇るのが父ばかりなのが、少し悲しいが。
父がくれたプレゼント。
”人魚の鱗のネックレス”
黒い糸に、光を当てると虹彩を放つ鱗のようなアクセサリー。
もし馬鹿にされても構わない。
既に慣れたから。
俺は、この人魚という生き物を信じている。
ファザコンだとか理想主義だとかそういう事は言われ慣れた。
それでも、きっと、いるはずなんだ。
そういう曖昧な境界と思想の中でこそ、小説を作りたいのだ。
...それに、
辛い時、悲しい時、自分だけの信じれる物が傍に欲しいんだ。
このネックレスは、この鱗は、これだけは
俺の傍に、いてくれるから
村雨 曇
家に響く声。
それに寂しがっていた日々は、未だに自分の元へ帰ってこようとしている。
しかしドアを開けてしまえば───
暖かい景色が、出迎えてくれる。
村雨 曇
そんな気持ちになれる朝は、大好きだ。
───が、そんな朝でも憂鬱な事はある。
おい見ろよ…
うわあ...あんな状態でよく学校来れるよね...
父親が死んで自暴自棄になっちゃったんでしょ?
めんどくさいし、近付かないでおこ...
村雨 曇
そう。俺の父親、”村雨 晴(むらさめ はる)”は、
既に亡くなっている。
あ、父親が死んだやつじゃん
えぐ笑どんな気持ちなんだろうな笑
村雨 曇
俺が中学3年の時だ。今から、1年前。
酷い豪雨で、海に近づいた子供を助ける為に駆け寄って、そのまま。
バカみたいだと思う、俺を置いて何やってんだって思う。
それでも誇らしいし、この世で1番称えられるべきだと思ってる。
...それに、もしかしたら、
父に”鱗を渡した人魚”に、父は会いに行っているのかもしれない
そう考えると、幾分か楽になった。
いつ噂が漏れたのかは分からない
ただ、
葬式で休んだ後、いやに先生や周りの人がよそよそしかったのは知っている。
噂話とは本当に恐ろしいもので、
いつの間にか、進学した高校にまでその噂が広がっていた。
父が遺した財産だけを目当てで擦り寄ってくる親族に従いたくない反抗心で、一人暮らしを始めたおかげでお金の関係上高校の選択肢も絞られ。
3年生の後期の授業も中々身が入らなかったため、噂話の届くような高校になってしまったのだ。
キーンコーン...カーンコーン...
お前ら席つけー
お前らに良い知らせがあるぞ!
なにそれ?!
よし!じゃあ入ってきてくれ!
朝雲 雫
村雨 曇
彼女が入ってきた瞬間、
教室の空気が一気に変わっていくのを感じた
うわっ、美人...!
そんな声が周りから聞こえてくる程だった
朝雲 雫
朝雲 雫
朝雲 雫
朝雲 雫
夕暮 日向
夕暮 日向
朝雲 雫
朝雲 雫
朝雲 雫
人魚姫って、あの人魚姫?
朝雲 雫
朝雲 雫
そういった彼女は、その言葉に反してとても悲しそうな顔をしているように見えた。
午前の授業はあっという間に終わり、
昼の時間になった。
夕暮 日向
村雨 曇
夕暮 日向
村雨 曇
村雨 曇
夕暮 日向
えー、日向うちと約束してたじゃん!
夕暮 日向
うん!そうだよ〜!
夕暮 日向
夕暮 日向
村雨 曇
村雨 曇
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
その後特に会話もなくしばらく雫と昼の時間を過ごし、
その後またあっという間に放課後になった。
...のだが。
急な大雨に立ち往生になっていた。
村雨 曇
村雨 曇
朝雲 雫
村雨 曇
村雨 曇
村雨 曇
村雨 曇
そこに居たのは、朝雲であり、朝雲ではなかった。
白く空中を漂う姿はまるで春雨...
そして、霧のようだ。
そいつはこちらに気付いたようで、ゆっくりと顔をうごかす。
アサクモ
村雨 曇
村雨 曇
村雨 曇
パシャ
村雨 曇
村雨 曇
夢に全ての責任を押し付け、やけにリアルな場所から立ち去った。
アサクモ
朝雲 雫
朝雲 雫
家に帰った後、夢にも関わらず何故か熱を出してしまった。
本当に、いやにリアルな夢だ。
咳を短く出しながら、ふとあの時の事を考える。
アサクモ
アサクモ
アサクモ
アサクモ
朝雲 雫
”見つけたの?”
村雨 曇
いつの間にか寝てしまっていたようで、眠い眼を持ち上げる
どうやら机の上におかゆが置いてあるようで、いい匂いがした。それにつられ近付いてみる
”熱を出したならこれでも食べて元気だしなさい。それで早く治しなさい。また今度会いに行きます。 叔父より。”
村雨 曇
村雨 曇
俺の叔父は夕暮 晴樹(はるき)といって、夕暮商会の会長をしている。
父が亡くなってからは合鍵を使って家に不法侵入してはお節介を焼いて帰っていく。
そんな叔父も俺は好きなのだが。
村雨 曇
叔父だけは、人魚の事を真剣に聞いてくれたから。
お風呂に入った後、早く治す為にベットで横になる。
といっても寝れないので、人魚の鱗でも観察する。
人魚姫のストーリーは、知っている人が大半だろう。
俺が幼少期何度も読んだ本は、最後、
人魚姫は泡になって消えてしまった。
それがどうしても許せなくて、いつか小説家になって人魚姫を助けてやる!
という、くだらない野望を抱いていた。
そしたら小説家の才に目覚めるのだから、驚きだ。
好きこそ物の上手なれ、だったかを、父に言われた
少し違う気がするが、何となくそれが気に入って、何となくそれを覚えている。
夢現の頭で鱗の形と野望を記憶する。
沈みゆく意識の中、暗い中晴れていく空を見ていた。
正直熱のままでも良かったと思う。
夢の中の出来事がまるまる現実に反映されるぐらいならばましだ。
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
なんだか朝雲の周りがキラキラして見えてくるが、
決して良いものでは無いだろう。
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
まるで目の前の人間が悪魔のように見えた
夕暮 日向
朝雲 雫
夕暮 日向
村雨 曇
日向の声も聞こえずカチコチになりながらその日の授業を迎えた。
そして午後の授業終わり、逃げるように食堂へ行こうとしたが
朝雲 雫
村雨 曇
またしても悪魔のような笑顔に捕まってしまった。
朝雲 雫
夕暮 日向
朝雲 雫
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
村雨 曇
朝雲 雫
朝雲 雫
朝雲 雫
朝雲 雫
村雨 曇
第1話「春焦がす」 fin.
コメント
3件
…はいっ!? すごい惹き込まれるけど…1話がむちゃくちゃ長編…心配です…ちゃんと最期まで続くのでしょうか!?!