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降りしきる雨は止むことを知らず

霞む眼前を覆い尽くしている

ただその中に佇む君は

まるで穢れた神様のようだった

───

ねえ...約束して...

雨音でノイズ混じりのようになる君の声

───

たとえ...私が───ても...絶対...───を───ないで...

夜に溶けるように君は姿を消していき───

君恋焦がす

第1話

春焦がす

朝、古くさい時計の音が鳴る

あまりのうるささに顔を顰め起き上がる

村雨 曇

...うるさい

村雨 曇

なんでこんなゲテモノ...古い物買うんだよ

村雨 曇

(そういえば今日は月曜日だし、たまには放課後川とか行くか..)

起きたばかりの頭を使って、今日の予定を考える

学校の準備の為に部屋にある着替えを取ってから、下へと降りた

顔を洗い、着替えを置き。

そしてキッチンへ入る。

一通りの流れを済ませれば、冷蔵庫の中を見る時間に入る。

これがなかなか楽しいもので、今日は何があるかな、何にしようかな。

そういった事は、朝の柔らかな思考にはちょうどいいのだ。

村雨 曇

今日は卵があるな...あ、ベーコンもあるからベーコンエッグでいいか

口に出してレシピを考える。

無意識な癖だが、昔これを見た父が、

‪”‬曇は想像力が豊かなんだな!‪”‬

と、とんちんかんなことを言っていたのを覚えている。

そして、父子家庭の中父がとても可愛がってくれていたことと、母の事について殆ど話さず、話してもくれなかったことも。

村雨 曇

想像力...

村雨 曇

想像力か

それは自分の目指す物にとって最も大事な物だ。

村雨 曇

小説家になる為には...想像力だ

そう、小説。

文字を生み出すのは想像であり、創造では無い。

そんな事を父から聞いた事がある。

大きくなった今でもまだ理解は出来ていないが、

そんな俺を見た父は笑いながら、

‪”‬何も無い所から生まれる小説では無く、見て、聞いて、感じた物から生まれる小説にしなさい。曇の想像や感情は、きっと美しい物になるからね。‪”‬

そう言った。

もしかしたら父が古い物を集めたのは、懐古趣味では無く、

そこに込められた感情を汲み取って、俺に成長出来るようにして欲しかったからなのかもしれない。

村雨 曇

あ、ベーコン焦げてるわ

しかし、その為の想定はあまりに難しいものだ。

食事が終わったあとは、着替えに入る。

この中で必ずしておかなければならない事がある。

村雨 曇

──あっ、ネックレス忘れてた!

───たまたま忘れていたようだが。

ネックレスを付けるというのは別に趣味では無い

父が遺したネックレス...

思い出の中に蘇るのが父ばかりなのが、少し悲しいが。

父がくれたプレゼント。

‪”‬人魚の鱗のネックレス‪”‬

黒い糸に、光を当てると虹彩を放つ鱗のようなアクセサリー。

もし馬鹿にされても構わない。

既に慣れたから。

俺は、この人魚という生き物を信じている。

ファザコンだとか理想主義だとかそういう事は言われ慣れた。

それでも、きっと、いるはずなんだ。

そういう曖昧な境界と思想の中でこそ、小説を作りたいのだ。

...それに、

辛い時、悲しい時、自分だけの信じれる物が傍に欲しいんだ。

このネックレスは、この鱗は、これだけは

俺の傍に、いてくれるから

村雨 曇

いってきまーす

家に響く声。

それに寂しがっていた日々は、未だに自分の元へ帰ってこようとしている。

しかしドアを開けてしまえば───

暖かい景色が、出迎えてくれる。

村雨 曇

今日も頑張るか!

そんな気持ちになれる朝は、大好きだ。

───が、そんな朝でも憂鬱な事はある。

おい見ろよ…

うわあ...あんな状態でよく学校来れるよね...

父親が死んで自暴自棄になっちゃったんでしょ?

めんどくさいし、近付かないでおこ...

村雨 曇

(...聞こえてるし)

そう。俺の父親、‪”‬村雨 晴(むらさめ はる)‪”‬は、

既に亡くなっている。

あ、父親が死んだやつじゃん

えぐ笑どんな気持ちなんだろうな笑

村雨 曇

(...クソッ...)

俺が中学3年の時だ。今から、1年前。

酷い豪雨で、海に近づいた子供を助ける為に駆け寄って、そのまま。

バカみたいだと思う、俺を置いて何やってんだって思う。

それでも誇らしいし、この世で1番称えられるべきだと思ってる。

...それに、もしかしたら、

父に‪”‬鱗を渡した人魚‪”‬に、父は会いに行っているのかもしれない

そう考えると、幾分か楽になった。

いつ噂が漏れたのかは分からない

ただ、

葬式で休んだ後、いやに先生や周りの人がよそよそしかったのは知っている。

噂話とは本当に恐ろしいもので、

いつの間にか、進学した高校にまでその噂が広がっていた。

父が遺した財産だけを目当てで擦り寄ってくる親族に従いたくない反抗心で、一人暮らしを始めたおかげでお金の関係上高校の選択肢も絞られ。

3年生の後期の授業も中々身が入らなかったため、噂話の届くような高校になってしまったのだ。

キーンコーン...カーンコーン...

お前ら席つけー

お前らに良い知らせがあるぞ!

なにそれ?!

よし!じゃあ入ってきてくれ!

朝雲 雫

失礼します

村雨 曇

...!

彼女が入ってきた瞬間、

教室の空気が一気に変わっていくのを感じた

うわっ、美人...!

そんな声が周りから聞こえてくる程だった

朝雲 雫

皆さん初めまして。

朝雲 雫

私は朝雲 雫と言います。

朝雲 雫

少し後からの高校生活にはなりますが、仲良くしていただければ幸いです。

朝雲 雫

よろしくお願いします。

夕暮 日向

はいはーい!

夕暮 日向

雫ちゃんは何が好きなのー?

朝雲 雫

えっと...

朝雲 雫

幼稚かもしれないんですけど、私、

朝雲 雫

人魚姫が好きなんです。

人魚姫って、あの人魚姫?

朝雲 雫

はい。

朝雲 雫

儚くて美しくて、不思議な気持ちになれるんです。

そういった彼女は、その言葉に反してとても悲しそうな顔をしているように見えた。

午前の授業はあっという間に終わり、

昼の時間になった。

夕暮 日向

く、曇くん!

村雨 曇

...え、はい、何ですか?

夕暮 日向

今日一緒に食堂行かない?

村雨 曇

別に良いですけど、

村雨 曇

夕暮さんは大丈夫なんですか?

夕暮 日向

今日は誰とも約束してないはずだから、行こ!

えー、日向うちと約束してたじゃん!

夕暮 日向

えっ、そうだっけ

うん!そうだよ〜!

夕暮 日向

そ、そっか...

夕暮 日向

ごめん曇くん!

村雨 曇

あぁ、はい...

村雨 曇

えっと、今日の日替わり...唐揚げか!これにするか...

朝雲 雫

...あれ、村雨くん?

村雨 曇

っびっくりした...

朝雲 雫

あ、ごめんね。

朝雲 雫

今からお昼ですよね、一緒に食べませんか?

村雨 曇

はい、大丈夫です...けど

朝雲 雫

良かった、一人で食べるの何か寂しかったんです。

村雨 曇

じゃあ俺買ってくるから

朝雲 雫

はい。

その後特に会話もなくしばらく雫と昼の時間を過ごし、

その後またあっという間に放課後になった。

...のだが。

急な大雨に立ち往生になっていた。

村雨 曇

どうしよう...傘持ってきてねえよ...

村雨 曇

...ん?あれ、朝雲...?

朝雲 雫

...

村雨 曇

体育館裏か、

村雨 曇

雨降ってんのに手ぶらで何してんだよ!

村雨 曇

っ土砂降りだ...!

村雨 曇

どうした朝く...も...

そこに居たのは、朝雲であり、朝雲ではなかった。

白く空中を漂う姿はまるで春雨...

そして、霧のようだ。

そいつはこちらに気付いたようで、ゆっくりと顔をうごかす。

アサクモ

...───...

村雨 曇

っな、何だよ...

村雨 曇

俺は夢でも見てんのか...?

村雨 曇

...なら、

パシャ

村雨 曇

こんなに非現実的な物なら皆も信じてくれるはず...

村雨 曇

...人魚の事も...

夢に全ての責任を押し付け、やけにリアルな場所から立ち去った。

アサクモ

...──...

朝雲 雫

...

朝雲 雫

ク、も...り...?

家に帰った後、夢にも関わらず何故か熱を出してしまった。

本当に、いやにリアルな夢だ。

咳を短く出しながら、ふとあの時の事を考える。

アサクモ

‪”‬...───...‪”‬

アサクモ

‪”‬...ムら沙メ...‪”‬

アサクモ

‪”‬...な世...‪”‬

アサクモ

‪”‬...ゎ他シ...‪”‬

朝雲 雫

‪”‬...の...事を...‪”‬

‪”‬見つけたの?‪”‬

村雨 曇

...?

いつの間にか寝てしまっていたようで、眠い眼を持ち上げる

どうやら机の上におかゆが置いてあるようで、いい匂いがした。それにつられ近付いてみる

‪”‬熱を出したならこれでも食べて元気だしなさい。それで早く治しなさい。また今度会いに行きます。 叔父より。‪”‬

村雨 曇

叔父さんまた勝手に入ったのかよ...

村雨 曇

...お粥...食べて叔父さんに長文メールでも送ってやるか

俺の叔父は夕暮 晴樹(はるき)といって、夕暮商会の会長をしている。

父が亡くなってからは合鍵を使って家に不法侵入してはお節介を焼いて帰っていく。

そんな叔父も俺は好きなのだが。

村雨 曇

「お粥は美味しかったです、」...と。

叔父だけは、人魚の事を真剣に聞いてくれたから。

お風呂に入った後、早く治す為にベットで横になる。

といっても寝れないので、人魚の鱗でも観察する。

人魚姫のストーリーは、知っている人が大半だろう。

俺が幼少期何度も読んだ本は、最後、

人魚姫は泡になって消えてしまった。

それがどうしても許せなくて、いつか小説家になって人魚姫を助けてやる!

という、くだらない野望を抱いていた。

そしたら小説家の才に目覚めるのだから、驚きだ。

好きこそ物の上手なれ、だったかを、父に言われた

少し違う気がするが、何となくそれが気に入って、何となくそれを覚えている。

夢現の頭で鱗の形と野望を記憶する。

沈みゆく意識の中、暗い中晴れていく空を見ていた。

正直熱のままでも良かったと思う。

夢の中の出来事がまるまる現実に反映されるぐらいならばましだ。

朝雲 雫

おはようございます村雨くん。

村雨 曇

...待ってたんすか?

朝雲 雫

はい、一緒に教室に入りたかったので。

なんだか朝雲の周りがキラキラして見えてくるが、

決して良いものでは無いだろう。

朝雲 雫

では行きましょう

村雨 曇

分かった...が

朝雲 雫

ん?

村雨 曇

...なんでもない

朝雲 雫

そうですか!

まるで目の前の人間が悪魔のように見えた

夕暮 日向

...曇そんな雫さんと仲良かったの?

朝雲 雫

はい、昨日放課後すこーしだけ話しまして。

夕暮 日向

...あっそう

村雨 曇

(...放課後、話した...?話した...)

日向の声も聞こえずカチコチになりながらその日の授業を迎えた。

そして午後の授業終わり、逃げるように食堂へ行こうとしたが

朝雲 雫

村雨くん、お話があるので来てくれますよね?

村雨 曇

...うす

またしても悪魔のような笑顔に捕まってしまった。

朝雲 雫

それじゃあ行きましょうか。

夕暮 日向

...

朝雲 雫

...さて、村雨くん。

朝雲 雫

昨日の事は覚えてますね?

村雨 曇

...いや、何が何だか

朝雲 雫

覚えてますね?

村雨 曇

...

朝雲 雫

覚えてるんですね。

朝雲 雫

さて、村雨くん

朝雲 雫

急ではありますが…

朝雲 雫

死ぬか奴隷になるか選んで下さい。

村雨 曇

.........は?

第1話「春焦がす」 fin.

この作品はいかがでしたか?

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コメント

3

ユーザー

…はいっ!? すごい惹き込まれるけど…1話がむちゃくちゃ長編…心配です…ちゃんと最期まで続くのでしょうか!?!

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