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――ここに記すのは、私の懺悔と、告発の記録である。

女王陛下!女王陛下!!

万歳!女王陛下万歳!!

騎士

讃えよ、我らが女王陛下を!

騎士

より強く、より大きく、より高く

騎士

誰よりも声を上げて讃えよ!

騎士

一番声の大きい者には褒美を与える!

騎士

声の小さな者は反逆罪として処刑だ!

騎士

讃えよ!より高く讃えよ!!

この国に女王が即位し、何年になるだろう

名君と讃えられた、前王の娘

彼女が国を治めるようになってから

我が国は恐怖による支配が続いている

まるで児戯のごとく人命を奪う女王に、誰が注申できようか

今もまた、宮殿前の広場に詰め込まれた人々が

兵士に取り囲まれながら声を張り上げている

女王は讃えられていなければ気が済まないのだ

父王の才覚を受け継がなかった自身を知り

恐怖で民を締め付けている

騎士

おい貴様、なぜ陛下を讃えん!

お許しを……!

もう、もう喉が限界です

みな次々に声がかすれて……!

騎士

陛下を讃えぬ反逆者め……!

騎士

来い、後でまとめて処刑だ!

そんな!

お許しを!お許しを……!

あぁ、また一人処刑台へ送られる

騎士たちとて、本当はあのような事をしたくはないのだ

けれど騎士一人につき、処刑する者を一人は差し出さねばならぬ

でなければ、今度は騎士自身が処刑されるのだ

罪深い

なんと罪深いことか

見目麗しくも触れる者を傷つける女王も

我が身かわいさに他者を差し出す騎士も

そして口だけの懺悔を並べつつ、己の手を汚さずにいる私さえも

彼が訪れたのは、ブドウ畑の紅葉も美しい、晩秋の頃だった

美しいものを求めて世界を放浪しているという彼は

女王への謁見を願い出た

普通、素性もわからない男が王に謁見などできるわけもない

しかし彼は、いかに女王の美貌を切望しているかを熱く語り

ついにその希望を叶えてしまった

旅人

王女殿下であられた頃から

旅人

お噂には聞いておりましたが

旅人

本当に、なんとお美しい女王陛下であらせられることか!

旅人

鮮やかに染まったブドウの木々も

旅人

陛下の美しさの前に青ざめる他ありません!

旅人

真珠の肌に紅貝の唇

旅人

うるむ瞳はまるで海のよう!

旅人

陛下は陸に舞い降りた、海の女神に違いない!

女王

ほほ、面白いことを言う!

女王

民がみなお前のように、私を心酔してくれれば

女王

私の心労も報われるだろうに

旅人

おお

旅人

陛下のような方にさえ、お悩みがあるとは……!

旅人

みな、陛下の偉大さがまだ分かっておらぬのです

旅人

いかがでしょう、陛下

旅人

陛下のお力を示すため、私が像を作りましょう

女王

像など

女王

青銅も石も、どれも不粋で汚ならしい

女王

そんなもので私のなにが……

旅人

妙なるお声をさえぎる失礼をお許しください

旅人

作るのは水晶の像でございます

女王

なに、水晶?

旅人

はい

旅人

ここより北に、水晶の産出で知られる小国がございます

旅人

民家ほどもある水晶が採れたと噂に聞きました

旅人

水晶であれば、陛下の美しさを存分にあらわし

旅人

民草の心をも動かしましょう

女王

なるほど、面白い

女王

しかしその水晶、どうやって手に入れる

旅人

私めが購入致しましょう

女王

お前が?

女王

金はいかにする

旅人

それは私めにお任せを

旅人

もし像にご満足いただけましたら、

旅人

そのあと、陛下より下賜いただければ幸いです

女王

気に入らねば、全額負担すると?

旅人

はい

旅人

一族郎党首をくくらねばならぬ巨額でありましょうが

旅人

陛下のお力になれる機会を賜れるならば安いもの

女王

ほほほっ

女王

私のためなら破滅も甘受するか

女王

ならばやってみよ

女王

その方の忠誠、楽しみじゃ

旅人

はい、必ずお気に召すものを

彼の提案に、その場にいた誰もが耳を疑った

この冷徹な女王のために、好んで破滅を選ぼうという

さらに自ら北に赴き、水晶の運搬まで買って出た

旅人の正気を疑わぬ者は、きっとその場にいなかったろう

しかし彼は真冬のある日

確かに巨大な水晶を持ち帰ったのだ

旅人

陛下、お待たせいたしました

旅人

これより作業に入りますが、お願いがございます

旅人

作業期間、誰も水晶に近づかぬこと

旅人

作業場の近くで大声を上げたりしないこと

旅人

私の食事は作業場の入り口に置いていただくこと

旅人

以上を必ずお守りください

それきり、彼は作業場と称した小屋に閉じこもってしまった

小屋は宮殿前広場の中央に建てられ

そのため、女王を讃える馬鹿げた催しは取り止められ

それゆえに処刑される民もいなくなった

それでも女王が満足できたのは

毎日届けられる、素晴らしいデザイン画のおかげだったろう

やがて長く続いた雪がやむ頃

彼は胸を張って除幕式を行った

旅人

さぁ、ようやくのお披露目です!

旅人

力の限り、陛下のお美しさを表現しましたが

旅人

やはり陛下の前には霞んでしまう

旅人

けれど民の心を揺さぶることを祈り

旅人

これをお贈り致しましょう!

ばさりと音を立てて外された幕に

思わずどよめきが上がる

それはあまりに美しい女神像だった

女王

なんと見事な……

女王

皆のもの、讃えよ!

女王

私はこれほどに尊い、美しい!

女王

偉大な施政者である!!

じょ、女王陛下万歳!

女王陛下万歳!女王陛下万歳!!

女王

ふふ

女王

さて、約束じゃ

女王

私はこれをいたく気に入った

女王

代金を支払おう

旅人

ありがたき幸せ

旅人

この像がある限り、陛下の美貌が

旅人

寸分たりとも損なわれることがありませんよう

女王

うむ、この像は私の写し身じゃ

旅人

この国に長居しすぎました

旅人

私はさすらいの身、また旅に出ます

旅人

どうぞご健勝を

それきり、彼はこの国を去った

――異変が起こったのはそのあとの事だ

女王

ああ!体が!体が溶ける!

女王

誰か典医を!典医を早く……!

女王

あぁあ、なぜ、私の体がなぜ……!

騎士

陛下大変です、像が!水晶の像が!

騎士

へ、陛下!

騎士

陛下が、あの像とまったく同じように……!!

そう、像は水晶などでなく

巨大な氷でできていたのだ

磨きあげて永劫の王位を示すはずが

かけられた水でみるみる溶けてしまった

女王

こんな……こんな……!

女王

なにをしている役立たずども!

女王

早くなんとか……!

女王

あぁ、もう、喉も、潰れ、て……

声を出すこともできなくなった女王は

ただ静かに、家臣たちに消えるのを待たれた

美しくも冷酷だった女王は、その冷たさ同様

まさに氷像とともに溶けて消えたのだ

どんな気持ちだったろうか

それまで命を踏みにじる側と信じていた自分が

助けの手も差し伸べられず、崩れていくのは

結論として、国には新たに王が立った

女王の若い姪であり、聡明な女王だ

広場に集まった民は、狂喜せんばかりに歓迎した

それを見下ろし、私は静かにつけ髭をつける

騎士

旅団長閣下、長期の任務お疲れ様でした!

騎士

女王陛下への謁見時刻です!

連絡に来た騎士に小さく頷き、クローゼットを閉める

そこには、あの旅人の着ていた装束が隠されていた

 

反旗を翻す仲間と集い、呪術を学び

ようやく誰の手も汚さず倒した愚王

しかし私は思う

このような手で王を廃した我々こそ、卑怯な悪ではないかと

だからこそここに懺悔と告発を記す

我々は哀れで矮小な子悪党であり

そして影から王を刺し貫いた、反逆者であると

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コメント

6

ユーザー

最初の文から引き込まれました。 旅人に出会ってから、女王が改心していく話なのかなーと思っていたら、まさかの旅人は騎士で、しかも女王は亡くなったので驚きました! 読み終えた後は、一つの映画を観たような感覚でしばらくぼーっとしてしまいました…✨

ユーザー

人間の強欲とか、醜さとかが表されていていいですね。 まさかの展開で驚きました。 作品作り頑張ってください!

ユーザー

驕った女性が自分と重ねた存在の崩落を目の当たりにして取り乱す、愚かですよね…

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