陽斗は全力で走っていた。 煙で肺が痛いのか、それとも煙草の吸いすぎで肺が痛いのか、どちらかはわからない。 ただ無事に生き残ったら禁煙してランニングするぞ、と決意した。 肩で息をしながら、陽斗は二階の所長室に到着した。 死体は消えている。当然だ。操られた死体はいま、中央ホールにあるのだから。 陽斗は所長のデスクに駆け寄り、一番下の引き出しを開けようとした。 ところが、鍵がかかっている。
葛城 陽斗
「そうか、一番上の鍵と連動していたのか」
陽斗はピッキングツールを取り出して鍵穴に差し込んだ。 しかしその時、天井が崩落してピッキングツールを手放してしまった。
葛城 陽斗
「しまった!」
ピッキングツールは火の中に入ってしまった。 もう道具はない。
葛城 陽斗
「糞! いいや、まだだ! 俺はもう諦めない!」
陽斗はネームプレートの安全ピンを鍵穴に差し込んだ。 諦めたら、あのゴリラに殴られる。 そんなのはごめんだと自分に言い聞かせて。