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あぁ、本当になんでこんなことになってしまったんだろう。
今さら後悔しても遅い。
あのとき、もう人を傷つけたくない。
こんな辛い思いはしたくない。
そう、誓ったはずなのに。
俺が小学生の頃、父は病に侵されていた。
昔はとても元気だった父親も、病気を発症してからとても辛そうだった。
もうあまり覚えていないが、2、3年は病と戦っていたのではないだろうか。
そんな父の姿を知っていたのに俺は…。
父親
父は最近よくため息をつく。
俺はこうやって辛いアピールや、しんどそうにしている人間が嫌いだ。
本当に辛いときも、どうせ心配してほしいんだろ。
そう思ってしまう。
翔
思っても口に出すことはない。顔には出ているかもしれないが。
そんな生活が1年程続いた。
俺の今でのイライラも限界を迎えていた。
父親
父は部屋から出なくなり、寝ることが多くなった。
部屋から聞こえるのは、辛そうな呻き声だけ。
この時も俺は、『うざい』そう思ってしまった。
少し前までは、一緒にアニメを見ていた。
一緒にキャッチボールもしていた。
その辛そうな姿を認めたくなかった。
だから俺は、『うざい』という感情に置き換えて『心配』をしなかった。
『心配』をしたら父の病気を認め、もう長くはもたないことも認めてしまうようで怖かったからだ。
この日の晩飯は、異様だった。
元気な時から父は仕事で忙しく、晩飯を一緒に食べることは少なかった。
そして病気を発症してからは一緒に食事をすることは、もう無いと思っていた。
だが違った。
俺の目の前に父が座っている。
父が部屋から出てきて、父の席に座り一緒に食事をしているのだ。
俺はとても嬉しくなった。
あぁ、父親はもう大丈夫なんだ。
元気になったんだ。
そう思った。
心無しかいつもより、元気そうだった。
。
。
。
次の日
父の症状は、お世辞にも良い状態とは言えなかった。
母親も仕事で家にはいない。
今救急車を呼べるのは俺しかいない。
俺は悟ったのだ。ここで病院に連絡を入れるべきだと。
一見いつもと変わらないが、俺には分かった。
このまま放置したら大変なことになると。
だが、それはできなかった。
怖かった。
認めるのが。
嫌だった。
父が元気でないことが。
。
。
。
父親
また呻き声だ。
『うざい』
翔
翔
俺は絶対に言ってはいけないことを、口走ってしまった。
俺はそのまま部屋に篭った。
その言葉を父が聞こえていたかは、分からない。
そしてなぜ俺が、こんなことを言ってしまったのかも分からない。
。
。
。
気付けばもうすぐ母の帰ってくる時間だった。
父の部屋からは呻き声は聞こえず、ただ寝息だけが聞こえていた。
俺はそれに安心したのか、寝てしまった。
母親
母親
それは怒鳴り声にも似た母の声だった。
僕は飛び起きて、リビングに向かった。
翔
翔
母は仕事から帰ってくる時間は、早くはない。
もう外は真っ暗だ。
母親
母親
翔
すると母のいる先には、ぼんやりと上を向く父の姿があった。
虚ろな目をしていて、生気を感じられない。
その時の目に俺はとても恐怖心を抱いた。
翔
それだけ言い残し、また部屋に篭った。
そして半ば無理矢理、意識を手放した。
気付けば朝になっていた。
今日は月曜日。
学校に行かなければ…。
俺は父の部屋を覗く。
そこに父の姿は無かった。
リビングだろうか。
きっとそうだ。
昨日病院に行って、注射でもなんでもして、元気になったんだ。
元気だった頃の父に戻ったんだ。
翔
そこに父の姿は無く、1人母がいた。
翔
母親
俺はその言葉が信じられなかった。
いや、信じたくなかったのだろう。
翔
俺は自分の気持を隠し、気丈に振舞った。
その後学校に行ったが、何も身にならなかった。
。
。
。
何事もなく学校を終えた。
ただ、嫌な予感だけはしていた。
学校から帰ろうと、門を出たとき
そこには母の車があった。
翔
母親
きっと、それだけじゃない。
そう悟った。
俺には難しいと思って、簡単な説明しかしないのだろう。
だがもう小5だ。
母が思うより子供が成長するのは早いものだ。
もう色々と理解はしていた。
。
。
。
そこからは、無言で病院に向かった。
父は相変わらずベッドで辛そうに呻いていた。
母親
母は俺を連れ、病室をでた。
翔
母親
翔
母親
翔
そんなに早いとは思ってもなかった。
残り1年…。
その1年は、どのように過ごすのだろうか。
病院で?家で?
できれば、家で1年父と過ごしたい。
そして、謝りたい。
あの時の心無い言葉を。
。
。
。
数十分後
父の容態は急変した。
病院の人達が忙しなく、父の病室からでたり入ったりしている。
父はどこかに連れていかれた。
そして、また数分後。
医者らしき人と母親が話していた。
母は今まで見たことのない顔をしていた。
驚き。悲しみ。不安。
そして、覚悟。
そんな表情だった。
母がこちらに向かって歩いてくる。
いやだ、来ないでくれ。
何も言わないでくれ。
母親
母親
母が言ったのは、その一言だけだった。
その時の母の顔は、見れなかった。
。
。
。
俺たち家族が呼ばれた。
この時には、父の姉の家族も来ていた。
母が連絡を入れたのだろう。
もう悟っていた。
最期に「ごめんね」って謝って、「ありがとう」って感謝して…。
それだけは、言おうと覚悟していた。
部屋に入った。
とても呼ばれるまで時間がかかっていた。
落ち着くまで、時間がかかったのだろう。
翔
寝ているのだろうか。
よかった。寝られるぐらい安静になったのだろう。
気持ちよさそうに寝ている。
呻いてもいない。辛そうな顔もしていない。
翔
翔
翔
弱々しく叫んだ。
家族だけの時間で、残りの最期を過ごす。
そう思っていたのに、
そこにはもう、父の姿はなかった。
気付けば、母も父の姉の家族も。
みんな、泣いていた。
何もかもが崩れていったような気がした。
元気だった頃の父と過ごした期間は、10年にも満たなかった。
父と過ごせたのは、たったの11年間だった。
その11年間のうち、元気だった頃の記憶は…。
あれ…?
父さんの顔は?
父さんの声は?
生きていた頃の父の顔が思い出せない。
もう何も思い出せない。
翔
翔
翔
翔
翔
本当にごめんね、父さん…。