一覧ページ

いつか君が還る場所

第3話 - 第2話お父さんは研究員

2025年08月31日

#泣ける

#生まれ変わり

湊カナメ

始発の電車に乗り、3回乗り換えた後郊外の飲食店で時間を潰して新幹線へ乗り都内の内回りへ乗車

夢(かなえ)

ふうはあ疲れた……

夢(かなえ)

えっと、ダミービル？の中に入って左端の扉から地下に降りるだから…

夢(かなえ)

あった、扉！あれが地下に進む扉かな？

小走りで扉に向かうと

夢(かなえ)

ひっ！！！

ポリス

動くな。ここは子供とて居ていい場所ではない。

顔も見えない警官に銃を構えられた

夢(かなえ)

あっ！あの……

夢(かなえ)

く、久山賢一の8番目の娘です

ポリス

……ｽｯ(銃を下げる音)

ポリス

久山様、失礼いたしました。

ポリス

この先階段となっておりますのでお気をつけて。

夢(かなえ)

は、はい……

夢(かなえ)

(良かった、殺されずに済んだ…)

夢(かなえ)

(とりあえず、ここを降りればいいんだよね)

父親から送られた、メールに書かれた内容を再確認する

真っ暗闇の中、携帯のライトをあてに進む。

夢(かなえ)

(ふう……びっくりした)

夢(かなえ)

(確かに警察に話しかけられたら僕の名前を出せば大丈夫って言ってたけど)

夢(かなえ)

(お父さんって有名人なんだな…何者なんだろう…)

コツコツと、自分が階段を降りる音だけが響く。

夢(かなえ)

(この下にお父さんが……)

夢(かなえ)

(よし、あと少し頑張るぞ。)

3分くらい降り続けただろうか。

長い階段の後突き当たり、1つ頑丈で巨大な扉の前に立つ。

そして、ブザーを鳴らす

夢(かなえ)

……

夢(かなえ)

……

夢(かなえ)

……あっ

ガチャリと開いたその先に

少しやつれた数年ぶりの父親の姿

お父さん

おお！

お父さん

よく来れたな、夢！！！

夢(かなえ)

お父さん……！！！

夢(かなえ)

やっと会えたあああ泣

お父さん

よしよし偉いぞ。

お父さん

疲れただろうから中に入りなさい。

夢(かなえ)

うん！失礼します

中へ進むと、本が沢山ある洋風で巨大な図書館のような場所。さっきとはまるで違う世界が広がっていた。

夢(かなえ)

わあ……！

お父さん

もうここら辺の本は全て読み尽くしてしまったよ。

夢(かなえ)

さすがお父さん……
頭いいんだね。

父親は、科学研究員である。

しかし具体的に何を研究しているかは教えて貰えなかったし、父親のこともよく知らない。

ただ知っているのは、ある悩みを解決するために研究を始めたことと私が婚外子で、父親とは苗字が違うこと。

お父さん

このスペースには日光に限りなく近い光が地上と同じ時間帯にさしている。

お父さん

長い間地下にいるとセロトニンも出ないし、体内時計が狂うからな。

夢(かなえ)

これも作ったの？

お父さん

そうだぞ。

お父さん

知り合いとの共同開発だがな。

夢(かなえ)

凄いな…お父さん。

父親は、ふと斜め前を指さす。

お父さん

向こうの部屋でゆっくり話をしよう。

夢(かなえ)

うん。

お父さん

よし、まずは改めて
夢。ここまでよく来れたな、迷わなかったか？

夢(かなえ)

うん、お父さんがちゃんと教えてくれたおかげ。

お父さん

はは。そうかそうか。

お父さん

それしても……大きくなったな。この間まで幼稚園に通っててプリキュアごっこにハマってたのに。

お父さん

成長が早くて、僕はめまいしそうだ。

お父さん

髪の毛も伸びてきて、母さんに少しずつ似てきたんじゃないか？

夢(かなえ)

そんな。お母さんには遠く及ばないよ。

お父さん

まあそりゃ……夢が産まれる前は高校生からモデル活動していて

お父さん

職場でもファンクラブが出来るくらい美しかったからなあ。

お父さん

頭も切れて運動もできて、これぞ
〝高嶺の花〟だったよ。

夢(かなえ)

ふうん……
お父さんはお母さんのこと大好きなんだね。

お父さん

ああ、勿論だとも

夢(かなえ)

ふふ。

夢(かなえ)

それで、話って？

お父さん

……

にこやかだった父親の顔が、少し冷たさを帯びた表情に変わる。

お父さん

夢。僕は実は
三つ家庭を持っているんだ。

夢(かなえ)

……っ

お父さん

君のお母さんももちろんそれを知っている。

お父さん

……コホン

お父さん

一つ目の家庭は、父さんが籍というものを入れているところ。
長男は大学院を卒業後にプログラミングの会社を立ち上げて100人以上の社員を雇っているんだ。
長女は今年、司法試験を主席で合格し都内で弁護士として働いている。

お父さん

二つ目の家庭では次男が二浪はしたが国立医学部に受かって、三女は子役として芸能界入りをして夏の映画のヒロインに決定した。
長女は証券会社の副社長と結婚した。ちゃらんぽらんで心配だったが、子どもも来年春に生まれるらしい。

お父さん

そして三つ目。
これが夢の家庭だ。

夢(かなえ)

……私の。

お父さん

夢、僕とあうときに必ず持ってきていたものと言えば？

夢(かなえ)

わかってる。

夢(かなえ)

……通信簿。

夢(かなえ)

写真と一緒に持ってきてるよ。

お父さん

さすが用意周到だな。

お父さん

どれどれ、見せてみなさい。

お父さん

んーと

お父さん

先生からの一言『花だんの水やり、当番さんが忘れていたけれど、代わりに水やりをしてお世話をしてくれたり
足を怪我して飛べなくなった鳥さんを助けてくれた優しい夢さんが大好き。
命を大事にするその素晴らしい心。ずっと持っていてね。』

お父さん

夢は昔から困っている人や生き物をほうっておけなくて、頼まれたことは損得関係なくする子だったね。

夢(かなえ)

……うん

お父さん

よく言えば、真面目で努力家。

お父さん

悪く言えば……都合よく使われる人間、か。

夢(かなえ)

……えっ？

お父さん

夢。

お父さん

書かれていること以外に、自分の取り柄を言ってみなさい。

夢(かなえ)

自分の、取り柄？

お父さん

特技でもなんでも
一つだけでいい。

夢(かなえ)

私の取り柄は、特技は……

夢(かなえ)

…………

お父さん

……

夢(かなえ)

…………

夢(かなえ)

……ない。

お父さん

そうだ。

お父さん

お前には、何をさせても
何を教えても
成績は道徳以外全てオール3

お父さん

これといった秀でたところは何一つない。

お父さん

〝何も爪痕を残せない〟人間だ。

お父さん

産まれた頃はお母さんにも僕にも似てなくて

お父さん

本当に自分たちの子供なのかと疑ったくらいだ。

お父さん

……ああ、すまない、流石に言いすぎた。

夢(かなえ)

ううん。
そんなことないよ、本当のことだもん。

お父さん

…………

夢(かなえ)

…………

お父さん

なあ、夢は

お父さん

お母さんは好きか？

夢(かなえ)

そりゃ、大好きだよ。

夢(かなえ)

たまに調子とか機嫌悪くなったりするけど
心から愛してくれてるし。

夢(かなえ)

でもね…半月前から多く稼ぎたいからって夜のお仕事したいって言ってて

夢(かなえ)

私は止めたけど夢を少しでも楽にさせたいって聞かなくて。

夢(かなえ)

でも、今はお仕事できるくらい丈夫な体じゃないし

夢(かなえ)

でも生活費足りないからって。

夢(かなえ)

私がセイホ受ける？って聞いても嫌だって言うの

夢(かなえ)

……ねえお父さん、私どうしたらいいのかな

夢(かなえ)

本当は私が働きたいけどまだ小学生だし

夢(かなえ)

どうしたら今のお母さんを〝幸せ〟に出来るかな？

お父さん

……幸せに、か。

お父さん

そうだな。

お父さん

お母さんは所々プライドが高い所があるから、生活保護は受ける気はないだろうな…

お父さん

夢、ちょっと来てくれ。

お父さん

見せたいものがある。

父親が立ち上がり、更に奥へと進む。

夢(かなえ)

え？

夢(かなえ)

あ、待ってよお父さん！

部屋を出て奥に歩くと、今までとは比べ物にならない、かなり大きく頑丈で厳重なセキュリティで守られているような扉。

父親は、4.5個の鍵をポケットから出してひとつひとつキーを解除していく。

そして、開いた。

夢(かなえ)

エレベーター……？

お父さん

たしかに。見た目はエレベーターみたいだな。

お父さん

しかしこれは

お父さん

私が開発した、
時空を移動出来る機械

お父さん

俗に言う〝タイムマシン〟だ。

夢(かなえ)

タイムマシン……？！

夢(かなえ)

本当にあったんだ。タイムマシンなんて…

夢(かなえ)

夢物語だと思ってた……

お父さん

ああ、かなり時間と労力は費やしたがな。

夢(かなえ)

す、凄いよお父さん！
さすが研究員だね！

お父さん

……夢。

お父さん

単刀直入に言わせてもらう。

お父さん

夢にこのタイムマシンの〝被検体〟になって欲しいんだ。

お父さん

乗ってくれないか。このタイムマシンに。

夢(かなえ)

えっ？！

夢(かなえ)

私がタイムマシンの被検体に……？

私がタイムマシンの被検体に…？

言葉を失った。

お父さん

そうだ。

お父さん

まあ……厳密に言うと

お父さん

タイムマシンに乗って
とある〝過去〟を変えてきて欲しい。

お父さん

夢はさっき、どうしたら今のお母さんを幸せに出来るか
そう言っていたな。

お父さん

確かに今、お母さんは酷く苦しい思いをしてると思う。

お父さん

……そうだな

父親が後ろを向き、天井をみあげる。

お父さん

その日は雨だった。

お父さん

お母さんと会社が一緒だったとき、
お母さんが残業をしていたから手伝った日があった。

お父さん

その日は雨で、残業が終わってもかなり降っていた
お母さんも傘を持っていなかったから僕が車を出したんだ。

お父さん

当時お母さんには婚約者がいたが
あまり出世する見込みもなく、すれ違いが多かったらしい。

お父さん

それもあってお母さんは
僕に少しだけ気を持ってたんだと思う。

お父さん

……僕もそうだったけど。

お父さん

婚約者の方は、当時駆け出しの役者で仕事もあまりなかったが

お父さん

ある時芸能界の大御所に声をかけられ
そこから

お父さん

無名の役者から、ハリウッドレベルのスターになった。

夢(かなえ)

そう、なんだ。

夢(かなえ)

よく知ってるね？

お父さん

しかしお母さんはタイミングが合わず
その婚約者と結婚することは無かった。

お父さん

大元の悩みが消えた時
自分が道を踏み間違えていたことを悔やんでも遅いんだ。

お父さん

お母さんと一夜を共にした日…

お父さん

僕とお母さんはお付き合いを始めたんだ。

お父さん

もちろん公に言える関係ではなかったが
僕達はとても嬉しかった。

夢(かなえ)

……あの、お父さんはその時にはもう

夢(かなえ)

奥さんはいたんだよね？

お父さん

ああ。丁度長男が小学受験に受かって入学した時かな。

夢(かなえ)

……

夢(かなえ)

フリンって言うんだよね、それ

お父さん

そうだな。

お父さん

それからお母さんは婚約者と完全に別れ
少ししてから妊娠が発覚したんだ。

お父さん

それは私との子ではなく、婚約者との子だった。

お父さん

彼女は……中絶を選択した。

お父さん

それでも僕はお母さんを愛していたから

お父さん

当時の奥さんには、離婚して夢のお母さんと結婚するんだと伝えていた。

夢(かなえ)

……そしたら？

お父さん

でも結局、財産を研究にあてがっていたから
慰謝料も払えず

お父さん

ズルズルと今まで引きずって…今に至る。

お父さん

申し訳ないと心から思っている。

夢(かなえ)

それは私じゃなくて、お母さんに謝って欲しいよ。

夢(かなえ)

ずっと待ってたのは、お母さんなんだから。

お父さん

出来ることならそうしたいさ。

お父さん

でもお母さんには合わせる顔がない。

お父さん

……コホン

お父さん

月日は流れ2002年。
のどかな小春日和だったかな

お父さん

お母さんが妊娠していることがわかった。

お父さん

そのお腹にいる子が、夢。
お前だった。

お父さん

3025ｇで元気に生まれてきてくれた。
お母さんも僕も、泣いて喜んだ。

お父さん

お母さんの歳も36で高齢出産の歳にあたるからか
夢のことはずっと産みたいと言っていた。

お父さん

産んであげられなかったあの子の分愛したい、と。

お父さん

お母さんは僕が離婚することを信じていた。
心が綺麗で純粋だから。

お父さん

……僕が、僕がいなければ
あの時話しかけなければお母さんは今頃…

お父さん

普通に恋愛して、結婚して、子育てをして
本当に幸せになれたかもしれないのに。

夢(かなえ)

……お父さん

夢(かなえ)

私やっぱり、生まれてこなくてよかったよね？

お父さん

誰もそんなことは言っていないじゃないか。

お父さん

しかし夢は、この状況になっても

お父さん

全ての元凶である僕を責めはしないんだね。

夢(かなえ)

そりゃ、お父さんのしたことはいけないよ。

夢(かなえ)

でも、誰にでもキノマヨイ？
はあるだろうし

夢(かなえ)

それに

夢(かなえ)

私が過去に戻って
お父さんたちの〝過ち〟を
無かったことにすればいいんだよね？

夢(かなえ)

わかった私、これに乗る。

夢(かなえ)

そして私がお母さんと婚約者さんをくっつけて……

夢(かなえ)

お父さんとお母さんが
付き合わない世界線を作ればいいんだよね

夢(かなえ)

それが成功したら私の兄弟？にも会えるだろうし

夢(かなえ)

なんだろう、ワクワクしてきたかも

お父さん

夢。

お父さん

このタイムマシンはまだ誰も試乗していない

お父さん

つまり乗った人はどうなるかわからないんだ。

お父さん

過去に戻れるとはいえ、戻った先が本当に過去なのかも保証はできない

夢(かなえ)

うん。それでもいいよ。

お父さん

……夢、君は賢いんだな。

お父さん

話だって理解が早いし。

夢(かなえ)

そんな、今更褒めないでよ。

夢(かなえ)

それでも私は行くよ。

お父さん

……

お父さん

ちょっと待ってくれないか。

夢(かなえ)

なんで？

夢(かなえ)

私を被検体にする為に私を呼んだんでしょう？

お父さん

ま、待ってくれ！大事なことを話せていない。

お父さん

少し時間をくれないか。
持って行って欲しいものもあるし…

お父さん

そこで少し待っていてくれ。

夢(かなえ)

……ペンダントと、地図？

お父さん

ああ。ペンダントの中には僕とお母さんと夢の写真が入っている。

お父さん

地図は……移動中にどうなるかは分からないが
過去当時の地図だ。

お父さん

僕達の職場の場所も色々書いてある。

夢(かなえ)

わかった。ありがとう

お父さん

本当に覚悟はあるのか？

お父さん

もし過去を変えることに成功したら、夢の存在はなくなり、この世から消滅する。

お父さん

……戻ってはこられない。

夢(かなえ)

うん。わかってる。

そして、荷物を持ち扉の前に立つ。

夢(かなえ)

お父さん、ありがとう。

夢(かなえ)

私、お父さんのこと嫌いじゃないしずっと尊敬してたからね？

お父さん

ああ。

お父さん

もっと話がしたかったな…

夢(かなえ)

ふふ。

夢(かなえ)

ここが閉まるボタンかな？

お父さん

そうだ。そこを押せば扉が閉まり、過去へ返送される。

夢(かなえ)

わかった！

夢(かなえ)

お父さん、ありがとう

夢(かなえ)

大好きよ。

お父さん

僕も、夢のことが

ガチャン

父親の言葉を聞き終わるまでに扉が閉まってしまった。

病院のレントゲン室のような、無機質な空間の中でサイレンのような音が響き渡る。

夢(かなえ)

……っ！！！

夢(かなえ)

頭が、痛いっ！

機内が激しく振動する。

夢(かなえ)

ううっ、なんか気持ち悪くなってきた…

頭を抑え、しゃがみこむ。

そして、クラクラとしたあとそのまま━━━━━━

いつか君が還る場所

作品ページ

次の話を読む

この作品はいかがでしたか？

0件

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！

湊カナメ

プロフィール

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

いつか君が還る場所

第3話 - 第2話お父さんは研究員

作者の他の作品すべて見る

#泣けるの新着小説
一覧

関連するタグ

いつか君が還る場所

第3話 - 第2話 お父さんは研究員

作者の他の作品すべて見る

#泣けるの新着小説一覧

関連するタグ

第3話 - 第2話お父さんは研究員

#泣けるの新着小説
一覧