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6

なつのはじまり、きみとさよなら。

♥

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2022年07月16日

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木の葉が擦れる音。

微かに聞こえる蝉の声。

風鈴の音。

道端に小さく咲く花。

誰かの笑い声。

僕を照らす、橙色の光。

僕の太陽だった彼は、少し前に、遠い場所へ行ってしまった。

もう、会えない君。

でも、もしかしたら。

そう思いながら、君を想った。

青橙 「なつのはじまり、きみとさよなら。」

13年前

女の子1

青くん、あそぼ?

女の子1

青くんったら!!

うるさい

はなしかけないで

女の子1

え…

どっかいってて!

女の子1

…青くんのいじわる

女の子2

え! 青くんにいじめられたの!

女の子1

うん…グスッ

女の子2

それじゃあ、こんど先生にいお!

女の子2

そしたら、青くんのことおこってくれるよ

女の子1

…ほんと?

女の子2

うん!

女の子1

…わかった

先生

それでは、帰りの会を始めます

先生

それじゃあ___

女の子2

先生先生!!

先生

ん? どうしたの?

女の子2

このあいだ、青くんが‪✕✕ちゃんをいじめてたらしいです!

先生

…本当なの? 青くん

…やってない

女の子1

…でも、青くん、どっかいっててって…グスッ

え…

女の子3

青くんひどい!

男の子1

青くん、女子のことなかせたー!

先生

…青くん、謝りなさい

え、でも…

先生

いいから謝りなさい!

…ごめんなさい

(ぼくはひとりであそびたかっただけなのに…)

その時は、ただひとりで遊びたかっただけだった。

でも、「優しい言い方」というのが分からなかった。

だから、きつい言葉で言ってしまって。

みんなから責められた時は、なんでそこまでするのかもわからなかった。

その時から、周りの人から注目されることが苦手になった。

たぶん、トラウマっていうものになった。

その出来事からしばらくの間、僕はちょっとしたいじめにあった。

ものを隠されたり、仲間外れにされたり。

よくあるいじめだった。

でも、結構辛かった。

そのせいかもしれないけど、

人と話すことも苦手になった。

それから、8年の時が経ち…

先生

えー、それでは、自己紹介を始める

先生

最初は…

先生

青からだなー

…はい

ッ…

みんなの視線が、僕に集まっている。

トントン…

(落ち着け。落ち着けばできるはず…)

スゥー

ハァー…

みんなに気付かれないように、自分の胸を叩き、深呼吸する。

…青です。よろしくお願いします

(言えた…)

先生

…終わりか?

…はい

先生

そうか…

先生が、どこか残念そうな顔をする。

先生

それじゃあ、自分の席に戻ってくれ

はい…

女子生徒1

ねー、あの男子めっちゃ陰キャっぽくない?wヒソヒソ

女子生徒2

だよねぇwヒソヒソ

(これだから、自己紹介は嫌なんだよ…)

そう思いながら、自分の席に戻った時。

トントン

ふいに、右隣から肩を叩かれた。

少しぎょっとして右を向くと。

男子生徒

なぁなぁ

橙色の髪で、緑色の目をした男子生徒がいた。

男子生徒

お前、さっきの自己紹介の時、めちゃくちゃ緊張してたやろ?

は?

(何この人!?)

(初対面でタメ口だしなんなら僕のことお前って呼んでるし!?)

男子生徒

なぁなぁ、当たり?

謎に僕の心の中を探ろうとしてくる。

…まぁ、うん

普通よりは緊張してた…と思う

男子生徒

へー?ニヤニヤ

(なんでニヤニヤしてるんだこいつ)

少し話している間にも、自己紹介は進んでいたらしく。

先生

えーと、次は橙!

はいはーい!

橙という名前が呼ばれた後、すぐに右隣の席の男子生徒が立ち上がった。

(こいつ、橙って名前だったのかよ…)

隣の席の男子生徒__橙は、緊張した素振りなど全く見せずに、

大阪出身の橙です! 得意なことは人を笑わせること!

みんな、よろしゅうな〜!

そう自己紹介した。

途端に、今まで全く聞こえなかった拍手が沸き起こる。

みんなが手を叩く中、僕はひとりだけ、ぽかんとしたまま彼を見つめていた。

(かっこいい…)

(いいなぁ…)

(僕も、みんなの前で、あんな風に話せたら…)

みんなの前で、彼みたいに話す自分を想像していた時。

で、どうだった?

俺の自己紹介

ぅわッ!?

ちょ、おま…!!

急に話しかけんなよ!

ごめんごめんw

で、どうだった?

え? うーん…

…かっこよかった、と、思う…

え?

咄嗟に聞かれて、思わず心の声をそのまま言ってしまった。

あー、えーっと…

…お前

俺の自己紹介そんなふうに思ってくれてたん!?

嬉しいわぁ…✨️バンバン

え、いや、ちょ…

そんな風に言ってくれたの、お前が初めてやで〜✨️バンバン

背中…

(喜ぶのはまぁいいとして、背中はなぁ…)

(背中叩かれるのはちょっと痛いし…)

(てか、なんか視線を感じるような…)

全員

ジー…

ねぇ!! みんな見てるから!!

別にいいやろw

僕からしたら良くないの!!!!!

ねぇったら!!!!!!!!!

__こうして、僕は橙くんと会った。

次の日

あ、青ちゃ〜ん!

ぅげ…

なにそれ酷ない?

いや…

てか青ちゃんて…

ええやん別に♪

あれ

スタスタ

あ、ちょ、待ってや〜!

また次の日

青ちゃーん!

げっ…

相変わらず酷いなぁw

そう言いながら、橙くんは僕の肩に手を回してきた。

さ、教室行こ〜♪

1週間後

(この時間なら誰も…)

あ、青ちゃん!

えッ!?

珍しいなぁ、こんな時間に来るなんて

え、いや…

てかなんで橙くんもこんな時間に…

だって俺日直やし

なにそれ初耳

言ってへんし

えぇ…

とりあえず、教室行こか〜

え、ちょ、引っ張んな!

おぉぉぉい!!!!!!!

最初のうちはちょっとめんどくさい奴だと思ってた。

けれど______

1年後

お、青ちゃん!

ん?

あ、橙くんじゃん!

クラスどこだったの?

いやぁ、それがまだ見つけられてないんやけど…

青はどこやったん?

僕もまだ見つけられてないんだけど…

…あ、あった!

お! どこどこ?

ほら、上から3番目の…

…ほんとや!

青ちゃんの名前、見つけやすくていいなぁ…

今はねw

昔はちょっと嫌だったけどさ…

まぁ、最初になにかさせられがちやもんな…

あ、俺もあった!

え!? まじ!?

おんなじクラスやなぁ!!!!!!!

よかったじゃん!

はぁ…

青ちゃんと離れんくて良かったぁ…

青ちゃんがいないと俺、1ヶ月ぐらいは陰キャ化するし…

それは膨張しすぎじゃない?w

ほんとやって!

はいはいw

1年後には、お互いに「青ちゃん」、「橙くん」と呼び合う仲になっていた。

出会った日から、1年間だけでも、橙くんと色んなことがあった。

まず最初に、意外と良い奴だったってこと。

僕がうまく喋れなくても、ちゃんと言葉にするまで待ってくれたり。

僕が人と話すことが苦手になった理由も、ちゃんと受け止めてくれたり。

橙くんはどう思っているか分からないけど、僕は親友だと思っている。

小説とかだと、『僕は、おかげで〇〇が平気になった…』とか来るけど…

ほんとに、そんな感じだった。

大勢の人の前で話すこと、人と話すことが苦手ではなくなった。

まぁ、ちっちゃい頃は近所の子とよく遊んでたし。

遊ばなくなったのは、小学校に上がってからだった。

青ちゃーん!

早く行くで〜!

え!? 橙くん早くない!?

? そうか?

だってまだHR始まるまで30分もあるし…

まぁ、細かいことは気にせんでええやん!

余裕もって行った方がいいやろうし

確かに、ね…w

そんじゃ、もう行くで〜!

はいはいw

先生

えー、それじゃあ、自己紹介始めるか

先生

最初に…

女子生徒

__です。得意なことは…

先生

じゃあ、次は…

男子生徒

_____です! 好きなことは…!

(次僕だ…!)

…青ちゃんコソッ

ん…?

頑張れ! ニコッ

…!!✨️

ありがとコソッ

先生

次は青だな〜

あ、はい!

…青です

得意なことはゲームと猿の鳴き声です

男子生徒

…ん?

実際にやってみます

ウッキー↑

女子生徒

wwwwwwww

先生

それじゃあw 次はww

青ちゃん、あれめっちゃおもろかったで!w

半分滑る覚悟でやったけどね…ww

大ウケやったなw

ww

…こんな日が、ずっと続くと思ってた。

でも、やっぱり『別れ』という言葉は消えなくて…

さらに1年後

先生

えー、今日は…

先生

…橙が休みか

…ぇ?

女子生徒1

え? 橙くんが休み?

女子生徒2

珍しいね…

全員

ザワザワ

先生

静かに

先生

それでは…

(橙くんが休み?)

(昨日はあんなに元気だったのに…)

(急に具合が悪くなっちゃったのかな…)

…珍しく、橙くんが休みだった。

今までずっと、休まなかった橙くんが。

その時僕らはもう高校3年生で…

みんな、志望校に入るために、受験勉強に必死だった。

橙くんも、その一人で。

他の人より何倍も頑張っていた。

(早く授業終わらないかな…)

その日はちょうど、スマホを忘れてしまっていた。

だから、直接会って話を聞く以外、理由を聞く方法は無かった。

一度家に帰って連絡するっていう方法もあったけれど、その考えは無かった。

男子生徒

あ、青〜

あ、ごめん

僕今日急いでて…

男子生徒

ん、分かったー

男子生徒

またな〜

うん、ばいばい

はぁッ…

ピンポーン

橙母

あら、青くん?

橙母

どうしたの?

えと、橙くんが休みだって聞いてッ…

それで、大丈夫かなって思って…

橙母

…分かったわ

橙母

ちょっと待っててね

あ、はい…

そういうと、橙くんのお母さんは一度家の中に消えた。

しばらくの間、外で待っていた。

暑い夏の日だった。

橙母

あ、青くん?

橙母

橙が、青くんとお話したいって…

あ、はい…

橙母

それじゃあ…

そう言って、橙くんのお母さんは、僕を家の中に招き入れた。

そのまま、橙くんの部屋に通された。

橙、くん?

だいじょう…

…青ちゃん

___僕を呼ぶ声は、酷くかすれていた。

え!? どしたの!?

よく見ると、目元が赤く腫れていた。

…青ちゃん、俺さ…

転校することになったねん…

…え?

…大阪に、帰らなあかんくなった

夏休みになったら、すぐに引っ越すって…

それじゃあ、橙くんの誕生日は…?

直接祝ってあげられないじゃん…

夏休みが始まるのは、7月21日。

橙くんの誕生日の、1週間前だった。

…俺は、気持ちだけでも嬉しいでニコッ

橙くんは、寂しさを隠すように笑ってみせた。

でも、声はかすれていて。

ッ…

…一緒にいられる時間は、まだあるんやし

その間だけでも、楽しもうや!

…うん

7月の、上旬に起きた事だった。

悲しかった。

あとちょっとしか一緒にいられないなんて。

ッ…

ポロポロ

なんでッ…ポロポロ

最後に泣いたのは、2年前。

橙くんに、過去の話をした時の事だった。

2年前

橙くん

ん?

僕さ、小学生の時からちょっとだけど、いじめられてたんだ

なんか、女子をいじめたって、チクられちゃって笑

本当は、その子にどっか行ってって言っただけなんだけど

言われた側の子は、その友達にいじめられたって言ったらしくて笑

その後に、みんなの前で謝らせられて、軽いいじめにあってさ

ものを隠されたり、仲間外れにされたりさ

それだけでも、結構辛くて笑

…そっか

青ちゃんは、頑張ったんやなぁ

…へ

ちっちゃいのに頑張ってさ

ほんと偉いわぁ…

いや、別にそんなんじゃ…

…え

橙くんが、僕の頭を撫でていた。

いや、ちょ、え?

えらいえらい

ッ…

ポロポロ

…それ以上ッ、撫でんなッ…

あれ、泣いてもうた…

ポロポロ

(橙くん、こんなに優しかったんだなぁ…)

結局、その日の夜は全く眠れなかった。

(目の下のクマ、やばいだろうなぁ…)

今度は僕が休んだ。

次の日

あ、青ちゃん…

…おはよ

おはよ…

その時は、そのぎこちなさが、何となく嫌だった。

その後は確か、今まで以上に遊びまくってた。

どうせなら、今までやってこなかったこと全部やってやろうと思って。

やりたかったことを全部やって、学期の最後の頃には、お互い疲れてた。

そして、ついに____

別れの日が、やってきた。

…絶対青のこと、忘れへんからな!

…僕もだよ

引っ越しのトラックが、どんどん荷物を積み込んでいく。

橙母

橙! そろそろ行くわよ!

…分かった

それじゃあ、青

また、いつか

…うん

…元気でな!

…うんポロ

その時、橙くんの頬に、一筋の雫が流れた。

橙くんが、僕に初めて見せたものだった。

…ばいばい

橙くんが、静かに手を振った。

僕は、その倍に手を振ってやった。

なつのはじまり、きみとさよなら。

橙くんを乗せた車が、だんだん小さくなって、見えなくなるまで手を振った。

それから、僕は大人になって、配信者になった。

きっかけは、紫さんという人から誘われたこと。

そこから、『歌い手グループ』というものになって___

今日は、メンバーがひとりずつ、自己紹介をする日だった。

(そろそろ時間だ…!)

それじゃあ、そろそろ始めよっか!

あ、はい!

みんなの声を聞いて、なんとか覚えようと頑張った。

それじゃあ次は____

橙くん、行こっか!

はーい!

昔にも聴いたことがある、懐かしい声だった。

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