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早乙女シロ
又理三
私こと早乙女シロと、隣の彼。 又理三は、一泊二日の温泉旅行へと来ていた。
この温泉旅行は私が提案したもので、楽しむ以外の他に目的があった。
そう、それは
早乙女シロ
付き合ってもう長いというのに、いつまでも友達感覚のまま。
キスどころか、手を繋ぐことすらしたことがない。 だから、私はこの温泉旅行で三との距離を縮める!
そのために、色々勉強してきた。
早乙女シロ
又理三
そう会話をしながらも、なぜか少し緊張していて目線を泳がす。
受付を完了させ、部屋へと移動した。
ここへは仲居さんが案内してくれた。 着物が似合うとても素敵な方で、思わず見入ってしまった。
早乙女シロ
部屋は和室で、日本人だからか安心感を覚える。 全体的に木造建築で、木のいい香りが鼻を満たした。
又理三
押し入れを開けると、浴衣が二着入っていた。
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
えっへんという言葉が似合いそうな表情をしながら、腰に手を置きドヤる。
そんな私を見た三は少し笑った後、浴衣を手に取った。
又理三
早乙女シロ
勉強したことその一。
いつもと違う服装や髪型で、ギャップ萌え。
それぞれ離れた場所に移動し、着替える。
浴衣を着るのはもちろんだが、髪も下ろすことにした。 ハーフツインに結んであるリボン付きのゴムを外し、なんとなく手櫛で髪を整える。
又理三
早乙女シロ
お互いに姿を確認し合う。
三は少し私を見つめ、顔を綻ばせた。
又理三
心臓がドキリと跳ねた。
早乙女シロ
平静を装う。
人前で髪を下ろしたことは、あまりない。 だからか、なんだか違和感がある。
でも
早乙女シロ
早乙女シロ
又理三
同じことを言ったはずなのに、ドキリとしたのは、どうやら私だけのようだった。
若干悔しさを覚える。
浴衣姿の三は、やっぱり見慣れない。 でも、違和感がない。
早乙女シロ
私の目標の一つ
三に、「可愛い」とか。「似合ってる」とか、直接的に言われること。
普段は、あんまり言ってくれない。 言ってくれたとしても、曖昧な表現ばかり。
だから、まずは私から言う。 こうすることで、相手にも意識してもらうのだ。
又理三
少し目を見開かれたものの、なんてことない様子。
早乙女シロ
もう恋愛ゲーム感覚だった。
ふと机を見ると、湯気が立つお茶とお菓子が置かれてあった。
包装を見ると、温泉まんじゅうと書かれてある。
早乙女シロ
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
少し肩を落とす。 気持ちを切り替えて温泉まんじゅうを手に取り、観察した。
こういうのって、詳細を見がちだ。 特に意味はないけど、なんか気になる。
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
不満に思いながらも、窓の方に視線を移す。
本当に、三は感情が読めない。
イラついたり、悲しかったり、嬉しかったり。 そう言う感情は、分かりやすく顔に出るのが普通だ。
でも、この人は……
なんか、分からない。
早乙女シロ
視界いっぱいに広がったのは、深い緑の山と、静かに流れる川だった。
まるで、一つの絵画みたいだった。
思わず言葉を失う。
ただ、綺麗だと思う気持ちだけが胸いっぱいに広がっていった。
又理三
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
又理三
温泉饅頭を手に取り、縁側へと続く扉を開ける。
その瞬間、綺麗で透き通った空気がふんわりと私を包み込んだ。
耳をすませば鳥の鳴き声も聞こえ、自然を見に沁みて感じる。
早乙女シロ
空気に味はない。 と思っていたが、違った。
言葉に上手く言い表すことはできないが、これだけは言える。 この空気、美味しい。
それからは、とにかくくつろいだり、旅館を探検したりした。
慣れない浴衣姿だったから少し人目が気になり、いつもより挙動不審だったかもしれない。
探検中、しばらく歩いているとお土産コーナーにたどり着いた。 最初に目に入ったのは……
早乙女シロ
見るからに美味しそうなプリンだった。 目を子供のように輝かせ、期待に満ちた目で三を見つめる。
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
ついつい嬉しくて小さく飛び跳ねてしまう。
今なら、この勢いで地球を一周できると言っても過言ではないね!
購入を無事完了させ、手の中にあるプリンに頬擦りをする。 ひんやりとした感覚もまた、愛おしい。
又理三
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
昨日、一昨日と記憶を振り返ってみたが、夕食後には必ずプリンを食べている自分がいる。
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
又理三
とまぁ、そんなくだらない話で笑い合っていると、いつの間にか元の部屋に戻ってきていた。
部屋に戻ると、夕食前の温泉に丁度いい時間帯だった。
一旦私達は別れ、それぞれの温泉へと移動する。
脱衣所で服を脱ぐ、畳んでカゴの中に入れる。
温泉へと続く扉を開けると、ふわっと温かい湯気が顔にかかった。
床は思ったよりも濡れていて、気を抜くと転んでしまいそう。
まず、シャワーで体を洗う。 周りに人がいることに慣れていなく、やっぱり意識してしまう動きがぎこちなくなった。
少し急ぎめに終わらせ、本命の温泉へ入る。
早乙女シロ
思わず声が漏れる。
でも、肩まで沈むとじんわりと体の力が抜けていく。 今日一日の疲れが、溶けていくみたいだった。
これをまた夕食後と朝に入るんだと考えると、天にも昇る気持ち。
……しかも、その温泉は部屋についている専用の温泉。 と、いうことはだ。
早乙女シロ
まだ一緒に入ると決まったわけではない。でも、せっかく専用の温泉があるのだ。
色々と頭の中でシュミレーションをしながら時間を潰すのだった。
風呂に上がり、夕食の時間となった。 胸を躍らせながら待っていると、控えめな音のノックが響く。
仲居さん
仲居三箇ワゴンを押しながら部屋に入ってきた。 次々と、手慣れた様子で料理がテーブルに並べられていく。
刺身、天ぷら、小鉢、小さな鍋。
早乙女シロ
思わず声が漏れる。どれもテンションが上がる料理ばかりだった。
仲居三は綺麗な仕草で頭を下げ、部屋を出ていく。
噂には聞いていたけど、やっぱりすごかった。 食べ切れるのか不安になってしまうが、今の私のお腹の状態なら大丈夫だろう。
早乙女シロ
又理三
互いに声を出し、手を合わせる。
まず、一番最初に目に留まったお刺身から取る。 付属の醤油にちょんちょんと浸し、口に入れる。
早乙女シロ
感嘆の声を漏らし、そのまま咀嚼する。
早乙女シロ
又理三
三も同じことを思っているのか、幸せそうな顔。
そのことにこの上ない嬉しみを感じながら、私は次々と料理を口に運んだ。
いつの間にか、辺りは暗くなってきていた。
時間を確認すると、八時ぐらい。 いつもならもうお風呂に入っている時間帯だった。
早乙女シロ
指先が落ち着かず、糸のほつれを解くように袖口をいじった。
又理三
早乙女シロ
頭の中で何度もシュミレーションしたはずなのに、いざとなると言葉に詰まる。
早乙女シロ
早乙女シロ
一拍、沈黙が訪れた。
噛んだ。
体が燃えるように熱くなる。 恥ずかしさで指先に力が込められ、白くなる。
三から出された一言は、了承でも、拒否でもなく。
又理三
早乙女シロ
今一番言わないで欲しかった事実だった。
早乙女シロ
又理三
早乙女シロ
私の言葉を遮って、出されたその感想。
元から騒がしかった心臓が、一瞬静かになったと思いきや爆発寸前に駆け上がる。
体から言語化することができない感情が沸々と湧き出てくる。
又理三
早乙女シロ
図星だった。
又理三
早乙女シロ
どんな顔をしていたのだろう。
でも、思い当たる節しかなかった。
確か、顔がめちゃくちゃ熱くて、口角がどこかにぶっ飛んでたような……
発狂したくなる気持ちを必死に抑えるように、三に背を向ける。
とにかく、呼吸をしなければならない。 肺が酸欠を訴えて、今にも死にそうだった。
酸素を吸おうと、口を開いた。
……その瞬間。
突如、背後から覆うように腕が回される。
高い位置から落ちてくる息が、耳元をくすぐった。
後ろから抱きしめられると、自分がすっぽり腕の中に収まってしまうのがわかる。
時間が止まったかのように、体は硬直していた。 理解が追いつかない。 いや、追いついている。
ただ、信じられないだけ。
又理三
早乙女シロ
自分でも驚くほど、震えて、上擦って。
恥ずかしい。 それでも、嬉しさの方が上回っていた。
そうと決まれば、早かった。
いつの間にか温泉へと入っていて、いつの間にか肩を並べていた。
……信じられない。 これは夢なんじゃないかと疑ってしまう。
肩に、互いの体温が伝わり合う。チラッと横を見ると、三の顔は少し赤かった。
温泉のせいなのか、それともーー
顔を逸らす。 見ていられなかった。
湯気が立ちこめる中、視線の置き場が見つからない。 体を包む温泉の熱より、顔の方がよっぽど熱かった。
早乙女シロ
温泉に入ったら、何かしようと決めていた気がする。 勉強したはずなのに、もう頭から抜けていた。
探すように上を見上げると、湯気の隙間から覗く夜空に、数えきれない星たち。
手を伸ばせば救えそうなほど、近くで輝いていた。
そして、やっぱり目立つのはまんまるの月。
ーーそうだ。思い出した。
温泉旅行に今日を選んだのは、理由がある。
早乙女シロ
名前を呼び、指でその夜空を示す。 三の瞳を覗くと、そこには夜空が広がっていた。
それを確認すると、深く息を吸って。はっきり言う。
早乙女シロ
又理三
恋愛について調べていたとき、「月が綺麗ですね」と言う言葉は、抗えないほど私を惹きつけた。
あなたを愛しています。 そう言う意味らしい。
ロマンチックで、今の雰囲気にぴったりな気がした。
三は夜空から視線を私に移し、固まる。
又理三
微笑みながら、そう返してくれた。
三の瞳が、わずかに揺れた。
何か言いかけて、でも言葉にはならなくて。
ーーそして
唇に、柔らかな感触が伝わった。
キスをされたのだと。気づくのは、遅くはなかった。