部屋のドアが数センチだけ開いていた。
ドアの隙間から部屋の中が伺える。
部屋にはホワイトボードの前で佇む、戸狩の姿があった。
室屋柊斗
戸狩の兄貴を飯に誘うと思って、声を掛けようとした時だった。
戸狩の兄貴が、ボードに貼られていた小峠の写真を手にとった瞬間
写真にキスをした。
目の前の光景に理解が追い付かず、体が硬直する。
戸狩玄弥
どこか陶酔しきった眼差しで、戸狩の兄貴は写真の中の小峠を撫(な)でた。俺の視線に気づきもせず。
気づいたら、俺は走っていた。
室屋柊斗
俺は恋愛対象として、戸狩の兄貴の事が好きや。
戸狩の兄貴に認めて貰うために、俺は強うなった。そして、俺は命じられるまま敵を葬ってきた。
高見沢さんを守りきれなかった失態のツケを払わさせれた時だって、戸狩の兄貴への忠誠は揺らがなかった。
それなのに、戸狩の兄貴の目には俺は映ってへんかった。
俺の欲しかった物をぱっとでの小峠がかっさらっていきよった。
確かに片鱗はあった。でも、気のせいやと今まで言い聞かせる事で、自分を保っとった。
大嶽の頭に戸狩の兄貴が、小峠が欲しいとねだったと噂で聞いたときも、根も葉もない噂やとして切り捨てた。
でも、決定的な場面を見てしもうた。
もう自分を誤魔化すのは無理や。
気づいたら俺は屋上にきとった。
何をする訳でもなく、ただただ、ぼーっと夕陽が溶けていく様を眺めていた。
今も俺の心の中は、荒れに荒れてる。
男でいいなら、俺では駄目なのか、兄貴に尽くす、俺でなく、何故、敵である小峠なのか、どうすれば戸狩の兄貴の特別になれるのか。
頭の中をぐるぐるとその疑問が、ループする。
岸本隆太郎
黄昏ている俺の背中に、岸本の声が掛かる。
岸本隆太郎
岸本隆太郎
室屋柊斗
今は戸狩の兄貴の名前を聞きたくなかった。目に焼き付いた、さっきの光景が浮かび上がる。
俺は頭(かぶり)を振り、先程の光景を霧散(むさん)させようとする。
何も答えない俺に、岸本は何を思ったか、フェンスにもたれ掛かり
岸本隆太郎
室屋柊斗
すっとんきょうなことを言い出した。
室屋柊斗
岸本隆太郎
岸本隆太郎
室屋柊斗
岸本隆太郎
指摘された通りや。でも、それをそのまま素直に認めるのは、腹立たしくて
室屋柊斗
舌打ちで返しておく。
舌打ちを聞いても、岸本は表情を変えず、世間話をするかのように話を続ける。
岸本隆太郎
室屋柊斗
岸本隆太郎
岸本隆太郎
岸本隆太郎
室屋柊斗
岸本隆太郎
何時もなら、こんな提案をされた時点で一蹴(いっしゅう)した。けれど、この時の俺は、疲弊(ひへい)していた。戸狩の兄貴を想い続ける事に。
どんなに求めても、焦がれても、欲しい物は手に入らず、心は何時だって満たされず、空虚なまま。
その上、満たされない欲だけが、淀(よど)みのように沈殿していく。
報われないと分かっていながら、想い続ける苦しさから、開放されたくって、少しでも心の隙間を埋めたくって
代替品でもいいと
室屋柊斗
俺は岸本に抱きつき、温もりを求めた。
この温もりが、戸狩の兄貴のものならええのにな。
そんな事を考えながら、岸本に抱きしめられ、伝わる温もりに、俺は偽りだと知りながら溺(おぼ)れていく。
おわり
あとがき まとめ回の時、大嶽の兄貴見てたら、何故か、華太←戸狩←室屋←岸本の全員一方通行の話が思い浮かんだ。誰も報われないのも好き。
おまけ
岸本が珍しく泣きついてきたので、居酒屋で話を聞くことにした。
渋谷大智
渋谷大智
渋谷大智
岸本隆太郎
岸本隆太郎
どんな時も愚痴をこぼしたことのない岸本が、泣き言を言ってきたのだ。それも、憔悴(しょうすい)しきった様子で。
俺は戸狩の兄貴に幸せになって貰いたい。勿論、室屋も岸本にもや。
何かいい方法がないか、考えを巡らす。弟分の恋を叶えるために。
それに弟分に頼られて、応えんやつは兄貴とちゃうからな
渋谷大智
岸本隆太郎
渋谷大智
渋谷大智
岸本隆太郎
渋谷大智
渋谷大智
室屋には悪いが、失恋して貰おう。
恋の痛みを癒すのも恋なら、失恋の痛みを癒す為に、室屋が新しい恋を始めればええだけの話や。
渋谷大智
渋谷大智
岸本隆太郎
弟分の恋を叶えるため、俺はどうやって小峠捕獲するか模索するのであった。
おわり
コメント
11件
とても最高です!!!続きがほしいぐらいです!!(フォロー失礼しやす!)
セフレ契約になっても室屋ちゃんが好きな岸本に憧れるわ、んー叶わない恋って辛いって思うねんなぁ〜自分は恋に落ちた事がないからわからんけど、好きだった人が違う人を好きだったとき、初めて知った時ぐ一番ショックを受けるよな自分もあったわ、自分より年下で悪口ばっか言ってるような奴となんで仲良くすんねんって思って初めて知った時ぐ一番ショック受けたわ
かぶちゃんは捕獲されるのか?!続きおねがいします💕