蝋燭の灯火が消える前に

…恋人の咲月が死んでから、

俺は何をする気力も起きなかった。

彼女のいない学校から帰ってきてからは、スマホでSNSアプリを眺めてばかり。

…だが、そうは言っても、

液晶が映し出す大量の情報も、頭には欠片も入ってきていなかった。

──この時までは。

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…分かっている、そんなに上手い話はない。

…頭では、分かっていた。

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注意事項:

・話せるのは1度だけ

・60秒経ったあと、 速やかに電話を切る事

・お客様を使用させて頂いているので、60秒を過ぎた通話は御遠慮下さい。

…60秒だけでも構わない。

もう一度…、咲月と話せるなら。

プルルルル…

プルルルル…

…通話画面に移行すると、

何故か画面には、炎の灯った蝋燭が揺らめいていた。

長く無機質な効果音が鳴り響く中、

少しでも期待していた自分の頭がだんだん冷静になってくる。

…有り得る訳が無いのだ、死者と話せるなど。

…重い溜息を吐き、スマホを耳から離した。

──その時、

──ずっと、ずっと望んでいた声が聞こえ、

…震える手で、スマホを再び耳に当てる。

…今まで耐えてきた苦痛が、全て涙となって溢れてくる。

唐突に叫ばれ、思わずスマホを耳から離すと、

画面に表示されている蝋燭の蝋が、残り僅かとなっていた。

火も…もう消えそうになっている。

──途端に、胸が苦しくなった。

意識が、遠のく。

…目を閉じる直前に見た画面の炎は、消えていた。

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