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あの日も同じように、私はこのフェンスの前に立っていた。

隣には、今日のように遥がいた。

彼女に誘われて一緒に来たはいいものの、運動部の練習風景にさほど興味のなかった私は、なにも考えずにただぼんやりと見ていた。

グラウンドの上に果てしなく広がる、澄んだ青空を。

そのとき突然、ただ真っ青だった私の視界に、彼が入ってきたのだ。

風に舞い上がる羽根のようにふわりと跳び上がった彼の姿が、のびやかな身体をしなやかにひねらせて、軽やかに、空を、舞うように。

まるでそのまま羽ばたいて空の彼方へ飛んでいってしまいそうに見えた。

私は目を大きく見開き、息を呑んだ。

心臓が一瞬止まったような気がした。

目も心もすべて奪われて、私のものではなくなった。

スローモンションで空へと昇っていく彼の姿を無意識に目で追い、ゆっくりと地上へ戻ってくるまで見つめ続けた。

なんてきれいなんだろう。

なんて軽やかに、自由に、優雅に空を舞うんだろう。

こんなに美しく空を跳べる人間がいたなんて。

何も言えずに、ただひたすら感動していた。

空から落ちてきた彼は、とんっとマットの上に着地し、すぐに立ち上がった。

そして今飛び越えたばかりのバーをくぐって地面に転がっていたポールを拾い、そのまま小走りで戻っていく。

彼はポールを持ったままきれいなフォームで助走し、それを地面に突き立てるようにして、大きくしなったポールの反動を最大級に使って、再び空を舞った。

何度も、何度も、黙々と彼は飛び続けた。

まわりの陸上部員たちはお喋りをしたりふざけあったりしているのに、彼だけはひとり、飽きることなく跳び続けた。

それだけで、その誠実で真面目な人柄がわかる気がした。

恋に落ちた、と私は自覚した。

一目惚れなんてありえない、と思っていたのに、私は彼を初めて見た瞬間に、彼のことを好きになってしまったのだ。

そして、次の瞬間には、失恋した。

あれがね、あたしの好きな人

隣でささやく遥の言葉が耳に入った瞬間に、私はその恋を終わらせた。

彼の姿から目を背けて、もう二度と見ない、と心に決めた。

遥はグラウンドに向けていた視線をちらりと私に移して、恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。

1組の羽鳥彼方くん。遠子、知ってる?

遠子

知らない

と私は首を横に振った。

少しも興味が無い、と遥に思わせるために、私はそっぽを向いて

遠子

今日、いい天気だね

なんてしらじらしいことを言った。

言いながら、思い出していた。

遥が少し前に

じつは入学してすぐのころからずっと好きな人がいる

と香奈や菜々美に話していたことを。

たしか、校内で気分が悪くなってうずくまっていたときに、最初に声をかけてくれて、保健室まで連れて行ってくれた人だとか。

ああ、この人のことだったのか、と彼をけっして見ないようにしながら思った。

そして、私は絶対にこの人のことだけは好きにならない、と自分に誓ったのだ。

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