コメント
16件
待って人間失格大好きだから嬉しすぎる、
す、好きだぁっ!!((
ちょっと思い出してきたかもです...
ー はしがき ー
私は、その男の写真を三葉、見たことがある
※ 三葉 ・・ 三枚
一葉は、その男の、幼少期時代、 とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供のあねたち、妹たち、それから、従兄弟たちかと想像される)
庭園の池のほとりに、荒い橋の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。
醜く?
けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね。」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞こえないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いささかでも、美醜に就いて訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、
「なんて、いやな子供だ。」
と頗る不快そうに呟き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかもしれない。
まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何ともしれず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。
どだい、それは、笑顔でない。
この子は、少しも笑っていないのだ。その証拠には、この子は両方のこぶしを固く握って立っている。
人間は、こぶしを固く握りながら笑えるものでは無いのである。
猿だ。猿の笑顔だ。ただ、顔に皺を寄せているだけなのである。「皺くちゃ坊ちゃん」とでも言いたくなるくらいの、まことに奇妙な、そうして、どこかけがらわしく、変に人をムカムカさせる表情の写真であった。
私はこれまで、こんな不思議な表情の子供を見た事が、 いちども無かった。