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世界で一番美味しい料理

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世界で一番美味しい料理

1 - 世界で一番美味しい料理

♥

500

2019年10月25日

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稲葉 泉

お腹が…

稲葉 泉

空いた…

仰向けになって、天井を見つめる。

手に握りしめている財布には

一円玉が七枚しか入っていなかった。

稲葉 泉

2日間何も食べてない…

稲葉 泉

そろそろやばい…

稲葉 泉

あー、こんなことなら

稲葉 泉

上京して一人暮らしなんて
しなければ良かった…

3ヶ月前

食に魅了された俺は準備もそこそこに

稲葉 泉

食について真剣に
学びたい!

なんて、偉そうなことを言って

実家から東京へと出て行った。

稲葉 泉

あー…

稲葉 泉

死ぬか?これ

稲葉 泉

空腹で、誰にも
知られないまま

稲葉 泉

最期を迎えるのか…

生憎、住んでいるボロアパートには

電話なんて便利なものは無かったし

公衆電話もお金がないから使えない。

連絡の取りようが無かった。

稲葉 泉

ゴミ箱でも…

稲葉 泉

あさってくるか…

汚いが、死を考えるとそんなこと 言っていられない。

久しぶりに、外に出た。

腹が減っていて力が入らず、ドアが 開くのに時間がかかった。

加藤

おー、お久しぶりっす

ドアを開けると隣の部屋に住んで いる加藤が

部屋の前を掃除していた。

稲葉 泉

おぉ、…

稲葉 泉

久しぶり、加藤

加藤

あれ、なんか元気
なくないっすか?

稲葉 泉

あー、うん

稲葉 泉

2日間何も食べて
なくてね…

加藤

えっ!?

加藤

大丈夫っすか!?

加藤

ちょっと待ってて
下さい!

そう言って加藤はバタバタと部屋の 中へ入っていった。

しばらくして、加藤が袋を持って 帰ってきた。

加藤

すいません、これくらい
しかあげられないっすけど…

中を見ると、三杯ほど食べられそうな 米が入っていた。

加藤も学生で、金や食べ物には 困っているはずだった。

稲葉 泉

いいのか?これ…

加藤

はい!困った時は
お互い様です

稲葉 泉

…!

稲葉 泉

ありがとう!!

稲葉 泉

この恩忘れません!

さっそく家に帰って、加藤から貰った米でお粥を作った。

何日か分の食事を確保するため

米は少しだけしか使わなかった。

稲葉 泉

うわー!

稲葉 泉

うっまそー

塩を少しふりかけただけの、 シンプルなお粥も

今は世界で一番美味しい料理に 思えた。

稲葉 泉

いただきます!

稲葉 泉

……

稲葉 泉

うめー…

お粥を、少しずつ、少しずつ

味を噛み締めて食した。

稲葉 泉

…でも

稲葉 泉

腹膨れないなぁ…

そうやって、何日かお粥で食事を 確保していると

とうとう、その日がやって来た。

3日後

稲葉 泉

米が…

稲葉 泉

ねぇ…

加藤から貰った袋の中には

虚しいほどの空白が広がっていた。

稲葉 泉

あーもう、

稲葉 泉

これは駄目だ

稲葉 泉

動けない…

加藤にまた貰いに行くことも考えたが

加藤も生活が苦しいし

さすがに図々しいにも程が あるだろう。

稲葉 泉

……もう、

そろそろ限界だ。

ピンポーン

開けるわよー?泉

その声はまるで

空から舞い降りた天使のようだった。

ドアが開く音が聞こえた。

久しぶり、泉。

大丈夫?

稲葉 泉

お、

稲葉 泉

お母さん…!

あんたが食について
学んでくるって

東京に出て行ったきり
だったからさ

稲葉 泉

何で来てくれたの…?

そろそろお金が
なくなる頃かなーと
思ってたし

安否の確認くらい
しに行かないとって
思って

稲葉 泉

母さーん…。

稲葉 泉

俺ずっと何も
食べてなくて…

そうだろうと思って
いろいろ買ってきたわ

稲葉 泉

母さーん…。

今からちゃちゃっと
作るから

作ってる間に
餓死しないでよー

稲葉 泉

うん…

母さんはキッチンに行き、

買ってきた食材で料理をし始めた。

……

お、いい感じ

…はい!

出来たわよー

母さんが料理を運び、机に置いた。

稲葉 泉

…肉じゃがだ

出来たやつから
食べちゃって

まだ作ってあげるから

全然食べれて
なかったんでしょ?

稲葉 泉

ありがとうー…!

稲葉 泉

いただきます…

恐る恐る箸を伸ばして

じゃがいもを口に入れた。

稲葉 泉

……

稲葉 泉

うんめぇーっ…

稲葉 泉

凄いうまいよ…っ!

温かい、ほくほくの食感が 口の中に広がった。

手を伸ばす箸が止まらなかった。

稲葉 泉

凄いおいしい…!

塩味の水が、目から流れた。

ちょっと、

ご飯食べたまま
泣かないでよ!

食べ物について学びに来たほど

食には厳しかった。

でも、食べ慣れすぎて飽きるほど だったはずの

母が作ってくれたご飯は

確かに、

間違いなく、

今までで一番美味しい ご飯だった。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

37

ユーザー

お母さんいい人だなぁ…やっぱりお母さんの味って大切だし一つだけだよね。お母さんに感謝しなきゃだね!

ユーザー

語彙力神

ユーザー

なるほど、コレは確かに世界一美味しい料理ですね 最初の料理のチョイスが肉じゃがなのがまた良い味出してると思います! ちょいと他の作品も読ませて頂きます!! (あ、ちなみに井之上さんからオススメ頂きました!)

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