青side
教師
男子
黒木家 父
いふ
今までずっと先生や友人関係なく頼まれれば断れずに、 ただみんなから「やれ」と言われたことだけをやってきた。
嫌だと思ったときでも、忙しくてそれどころじゃ無い時でも、いつだって俺は同じ言葉を繰り返す。
それは、 決して面倒くさいからでは無い。
なんなら了承した方が面倒くさいことだってこの世にはたくさん存在するし、本音はやりたく無いことはやりたくない、だ。
でもやらなければいけない理由がある
__俺は『完璧』でなきゃ、 駄目なんだ。
昼休みのランチタイム。
いつも通り俺はないこの前の席を勝手に借りて、彼と向かい合わせになるような形でアニキの作ってくれた弁当を頬張る。
ないこ
いふ
もぐもぐと一口一口味わうように咀嚼しながら、ないことの話題は弁当のおかずになっていく。
ないこ
いふ
ないこ
ないこ
「好み似てるね」と笑ったないこに、「そうやな」と微笑み返す。
いふ
ないこ
いふ
いふ
ないこ
ないこの弁当から唐揚げだけをチョイスして、箸でつまみ俺の弁当箱のご飯の上に載せる。
俺は本当に唐揚げを食べる気はなかったのだけれど、その脅しが効いたのか、ないこは渋々と言った感じでミニトマトを箸で摘んだ。
そしてうーあーと呻きながらも、箸をもつ手に力を加えて勢いよく自分の口にトマトをぶち込んだ。
ないこ
言葉になっていない声を発して水筒はどこだと手探りで探すないこに苦笑しながら、俺は自分の水筒を渡す。
ないこはそれを一気に飲み干すと、まだ口の中にトマトの味が残るのか、手を震えさせて体を揺らしていた。
いふ
ないこ
いふ
疲れきって机に突っ伏したないこの弁当箱に、 先程没収した唐揚げとまだ食べていない俺の分の唐揚げを乗せてやる。
するとないこは子供のように瞳をキラリと輝かせて、積まれていく唐揚げをジッと見つめたあと満面の笑みで食べ始めた。
ないこ
いふ
その姿が俺に対していつも「しっかりしろ!」と言っているお母さんではなく、ご褒美をもらった犬のように思えて来て、また笑う。
それを不思議そうに首を傾げて見ていたないこだったが、釣られたのか一緒になって笑った。
・・・・・・だがそんな純粋な笑顔も束の間
ふと嫌な予感が教室の扉の後ろからして、俺は思わず身構えるような形になる。
ないこ
ないこに尋ねられるも、興味が扉の方へ行ってしまって言いたいことが上手くまとめられず、黙ってしまった。
やがて生徒が履く上履きではない、少し大きな力強い足音が廊下から聞こえたかと思うと、横目で見ていた扉が開けられた。
教師
ないこ
いふ
ないこ
いふ
いつものように笑顔で、ファイルを持って扉から顔を覗かせる先生に向かって、問いかける。
すると先生は身につけているメガネの縁をくいっと上げて、ファイルを開き一枚の紙を見せて来た。
教師
教師
いふ
教師
そう言って数枚のまとめた紙束を俺に渡した先生は、「頼んだぞ」と軽く片手を振って教室から出ていく。
先生に対して軽く会釈した俺は、弁当箱をカバンの中にしまっている最中のないこの元へ戻り椅子に腰かけた。
ないこ
いふ
紙束に目を通しながら俺がそう言うと、ないこは「へぇ」と感嘆の声を漏らし、資料を横から覗き込んできた。
ないこ
ないこ
いふ
俺が聞き返すと、ないこは人差し指を顎に当ててうーんと唸ると、 首を傾げて思い出すような素振りをしながら話す。
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
そう言って苦笑するないこ。
もしかしていけない事を思い出させてしまったのではないか、という焦りで俺は誤魔化すように方向転換のための文化祭について話し始める。
いふ
いふ
ないこ
いふ
いふ
ないこ
「実際に体験した方が早いよ」といえば、「そうかもね」とないこは笑って返す。
そして大体の内容を確認し、ファイルに紙束をしまって弁当を食べるのを再開すると、目の前で頬杖を掻くないこが尋ねた。
ないこ
ないこ
そういえば最近はないこと一緒に帰ったり、生徒会の仕事だったりで、部活に行く様子はまったく見せていなかったかと思い出す。
いふ
ないこ
いふ
ないこ
いふ
意外と喜んでくれたないこに微笑みかけると、ふと頭がふらりと目眩のような感覚が俺を襲った。
__あれ、今何が起きたんだ。
体から急激に力が入らなくなって、箸が机に落ちた音がしたと思ったら目の前には床があって・・・・・・。
ないこ
ないこの声が聞こえる。
でもその声がどんどん遠ざかっていく
頭が回らない、 苦しい、誰か、誰か助けて。
SOSを声に出すことも出来ずに、 ただ血相を変えてこちらに近づいてくるないこが見えたとき・・・・・・俺の意識は途切れた。
桃side
最近、まろがおかしい。
「どこが?」と聞かれると、ピンポイントに「ここ!」と答えられるわけではないけれど・・・・・・雰囲気かな、おかしい。
全体的に暗いというか辛そうと言うか
でもそれを感じるのは家ではなく、 学校で。
家では元気に「ぽえぽえ」と変な声を出しながら、ほとけっちと喧嘩したりアニキに懐いたりしている。
けれど学校にいるまろは、なんだか違和感があることも事実だった。
でもなんとなく勘づいていた。
正直まろは__無理しすぎだ。
家に帰れば勉強と家事、学校では生徒会の仕事と人間関係や先生からの圧とプレッシャー。
色々なものが重なって押し潰されている中で、彼はなぜか深海でただ一人息もできずにもがいている。
助けを呼ぼうともしない、自分が闇に染まっていくのを静かに騒がず受け入れている。
いや・・・・・・もしかしたら、助けを呼びたくても呼ぶことができないのかもしれない。
あのクラスメイトが言っていた通り、まろはなんでも一人で片付けようとしてしまうところがある。
プライドが許さないのかなんなのかは知らないが、時折見せる本人は隠せていると思っているであろう苦い表情は見ていて痛々しくなるものだった。
いつ尋ねようか、いつ「なんで人を頼らないの」と聞いてみようか。
ないこ
そんなことを考えていた状況で、今回起きてしまったこの出来事。
まろは教室の床で荒々しい息を吐いて、まるで風邪をひいている時のように辛そうな表情を見せている。
女子
男子
それにはさすがにクラスメイトも驚いたようで、男子はまろの元へ駆け寄り女子はこちらを向いて悲鳴を上げた。
その悲鳴に気付いたのか、後ろの扉から「何かあったのか」と慌てた様子で担任が入ってくる。
ないこ
担任
いふ
教師が肩を揺らすもまろは顔を歪ませるばかりで、返事をすることはない。
結局まろはガタイの良いクラスの男子一人と担任に支えられ、保健室へと引きづられていく。
その事実に茫然と立ちすくむ俺は、はっと思い出したように携帯電話を手に取ってメッセージアプリを開く。
そしてアニキの会話ページを開けると、ただ混乱と状況整理の一心で無我夢中にメッセージを打ち続ける。
ないこ
ないこ
ないこ
既読が付いていないのに、俺の手は止まる事を知らず親指はただメッセージを紡ぐ。
__目の前で兄弟が倒れた不安。
__理由はなんとなくわかっていたのに、助けることが出来なかったことの悔しさ。
本当なら今すぐにも泣き叫びたいところだが、俺が今そんなことをしたって何が変わるのかわからない。
俺が出来ること、それは兄弟に状況を伝えてまろから話を聞くこと。
__まろを救うこと。
ないこ
よくよく思い出すと、俺が今まで感じてきた幸せ、それはまろが与えてきてくれたものも大きかった。
まろが居なかったら 俺はどうなっていたか。
五人で楽しく暮らしていたかもしれないけど、やっぱり高校でも家でも一番近くにいてくれたのはまろだった。
唇をギュッと噛み、足に力を入れると俺は教室を走って出ると階段を勢いよく降っていく。
教師
教師からの怒号が飛んできたが、あとで怒られる覚悟でなりふり構わず無視して保健室への道を走り続ける。
__今度は俺がまろを守るのだ。
恩返し。
これがまろに対する 俺からの恩返しだから。
コメント
3件
まろぉ…(´;ω;`) ないちゃぁ…(´;ω;`)
まろぉぉ、