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東幻の夜は、整いすぎている。
しかしそこだけが例外みたいに騒がしい。
詩丸
成信 詩丸
彼の言葉には言葉に迷いがない。輪の中心に立つのが自然で、周囲もそれを自然として受け入れている。
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
詩丸
仲間たちは多い。
十数人どころじゃない。もっといる。笑って、茶化して、勝手に集まって、勝手に盛り上がる。詩丸が笑えば空気が軽くなり、詩丸が頷けばそれが正解になる。
詩丸はそれを当たり前のように受け止めていた。
詩丸
詩丸は自然に一歩前へ出て、皆を見回す。
赤い布の少年
詩丸
詩丸は一瞬だけそう思ったが、すぐに忘れた。
詩丸
詩丸
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
主役はお前じゃない
詩丸
周囲の人間
詩丸
詩丸
"ラウロ号"
4年に1度のみ東幻より渡航する唯一の船
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
一行は急ぎ足で森を抜ける
詩丸
そこに広がるのは漆黒の海
そして
周囲の人間
巨大船・ラウロ号
詩丸
周囲の人間
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
船内は広々としており人で賑わっていた
周囲の人間
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
周囲の人間
詩丸
周囲の人間
周囲の人間
周囲の人間
詩丸
主人公
褒め言葉みたいでどこか重い
詩丸
船は既に出航している
もう東幻に戻ることは無いだろう
船から見る東幻はやけに美しく幻想的だった
詩丸
詩丸
詩丸
期待。期待。期待
詩丸としてではなく あくまでも"王子"として
詩丸
詩丸
詩丸は頭を振る
詩丸
詩丸
詩丸
背後からの音
詩丸
恐る恐る近づいてくる足音
詩丸
詩丸は自然に"彼"に話しかけていた
赤い布の少年
詩丸
そしてニコッと微笑んでみせる
詩丸
詩丸
赤い布の少年
詩丸
詩丸は視線を海へと戻す
詩丸
詩丸
赤い布の少年
詩丸
主人公はお前じゃない
詩丸はまだ知らない
何も
出港から数日後
詩丸
詩丸
詩丸
自由
希望
未来
詩丸
詩丸
詩丸
ーー刹那。
冷たい空気が落ちる
足音はほとんどない
影がひとつ増えたような感覚だけ
詩丸が振り返るより早くーー
刃が閃いた
詩丸
首筋に熱が走り、遅れて血が重く落ちる。 喉を押さえた指の間から温かいものが溢れ、息をしようとすると喉が擦れて変な音が出た。 詩丸は膝をつく。甲板の冷たさが一気に現実になる。
視界の端に、銀髪の少年がいる。 眉がない。薄い青い目。表情が無い。 手には小型の短剣――暗殺用の刃。
詩丸
詩丸
詩丸
詩丸
首
刀に手を伸ばしたいのに、腕が重い。 血が抜けていく速度が早すぎる。
短剣が喉元へ――
その瞬間、階段を駆け上がる足音が闇を裂いた
赤い布の少年
扉が乱暴に開く音。 誰かが息を切らし、走ってくる。 赤い布を首に巻いた少年が飛び込んできた。
体当たりで銀髪の腕を逸らす。
銀髪
赤い布の少年
詩丸は倒れたまま、その背中を見る。 助けようとしている。それだけが分かる。
なぜ起きていたのか、なぜここへ来たのか
――詩丸は知らない。
その影からの嫉妬に、詩丸は気がついていない。
銀髪は短剣を引き、距離を詰め直す。
赤い布の少年
少年はぎこちない
詩丸の前に立ち、銀髪の短剣が来るたびに腕で弾き、体で受ける。
銀髪
銀髪が詠唱すると床が音を立て凍り始める
赤い布の少年
赤い布の少年
少年は足が一瞬凍るも 氷を叩き割った
赤い布の少年
赤い布の少年
しかし少年の足は血だらけだ
銀髪
赤い布の少年
銀髪
赤い布の少年
銀髪が三度走る。 赤い布の少年は腕で受け、肩で押し返し、体ごと詰めて距離を潰す。
不器用だが、必死だ。必死だからこそ、目が離せない。
詩丸
詩丸は喉を押さえながらむせる。血が口に上がる。
視界が滲む。風が冷たく感じる――自分の体温が落ちている。
眩しいほどの光は同時にこの世の闇を孕んでいた。
詩丸の“死の匂い”が濃くなる。 赤い布の少年の血も増える。 銀髪の動きはさらに静かに、さらに正確に――首へ向かっていく。
その刹那。 空気が、歪んだ。
風が止まり、波の音が遠のく。 甲板が一瞬だけ“別の場所”になる。
紫がかった黒髪の少年が時空から、闇から現れた。
異質な雰囲気を持つ彼は突然そこに出現したのだ。
包帯の少年
詩丸は理解できない。 自分は死にたがっていない。自由になりたいだけだ。
突然の出来事に銀髪も赤い布の少年も立ち止まることしか出来なかった。
赤い布の少年
銀髪
包帯の少年
包帯の少年
包帯の声はあくまでも優しい
包帯の少年
包帯の手が上がる。 黒い光が糸のように伸びる。 本来の標的は――詩丸と銀髪。
赤い布の少年
詩丸
だが、赤い布の少年が詩丸を庇って割り込んだ。
糸がねじれる。対象がズレる。 詩丸の身体を通り過ぎ、赤い布の少年へ刺さる。
そしてもう一方は銀髪へ。 空気が“固定”される感覚。 見えない鎖が掛かった気配。
赤い布の少年
銀髪
赤い布の少年が膝をつき、呼吸が乱れる。 銀髪も、わずかに目を細め、すぐに気絶する。
紫黒の少年は満足そうに微笑む。
包帯の少年
闇に溶けるように消えた。
詩丸の視界はぼやけていく。 首の傷は深い。血が止まらない。冷たい夜気が肺に刺さる。
赤い布の少年
赤い布の少年が這うように近づいてくる。 泣いている。声が震えている。
赤い布の少年
赤い布の少年
詩丸はそこで初めて困る。
彼の顔を、名前を、思い出せない。
中心にいる人間は、周辺の顔をすべて覚えない。
それが悪意じゃなくても、残酷になる。
詩丸
詩丸
詩丸
赤い布の少年
主役はお前じゃない
赤い布の少年の瞳が砕ける瞬間を、詩丸はぼんやり見た。
憧れが割れて、別の感情が覗く。 詩丸にはそれが何か分からない。分かる余裕もない。
詩丸は息を吐いて――戻らなかった。 世界は静かだった。
まるで、最初から彼がいなかったみたいに。