京
賀川さん…
京
あの、朝 言おうと思ってたことなんだけど…
彩翠
はい…
彩翠
どうぞ 先に話して下さい
京
いや、賀川さんから 本当のことを聞きたい…です…
彩翠
…
彩翠
…私……………、
家に帰っても、誰も…居ないんです。
京
…え
彩翠
お父さんは 5年前に家を出ていきました。
当時の私はまだ小学5年生だったけど…お父さんの資料や書類やお父さんが大切にしていた本の山やレコードも、お父さんが使っていた部屋からは何も無くなっていて、影も形もありませんでした…。
彩翠
その時私は悟った…
彩翠
お父さんはもう二度と帰ってくることは無いということと、お母さんが壊れていく姿を見ることになるということ…
京
離婚…したんだ…
彩翠
はい…、、、
彩翠
それで私はお母さんを少しでも元気づけようと、毎日頑張っていました。
一生懸命に勉強をして、テストでは必ず100点を取り、走る練習をしては運動会で1位になって、図工や音楽での芸術面でも賞をとり、……
彩翠
それでも……、それでも!、私は…お母さんを満足させられなかった…
京
…
彩翠
どんなに努力をしても、どんなに一生懸命に頑張っても、1度もお母さんは褒めてくれることは無かった…
彩翠
そして、6年生になった頃…、お母さんが私に言ったんです…。
「弓や格闘技なんてそんな将来の何の役にも立たないものよりも、勉強に集中しろ」と
京
…弓?
彩翠
はい
私 小学2年生の時からおばあちゃんに教わってて 弓道をやってるんです。
京
へー( ºロº)…
格闘技って…?何やってるの…?
彩翠
空手…です…
京
凄…
彩翠
そんなことないです…おじいちゃんが空手の道場をやってて私もそれで習ってただけですから。
彩翠
で、話を戻すと、6年の夏に弓道と空手をやめて学習塾に入ることになって
京
うん…
彩翠
お母さんはその塾の中で常にトップにい続けろって言っていたんですが…でも私は毎度のテストでそもそも5位以内に入ることすら出来なくて。
彩翠
だけど 一応10位の前後をうろつくようではあったので 自分の中で 少しだけ 大丈夫かなーなんて思っちゃったり…でもそれはものすごく浅はかな考え方で…
彩翠
そこからお母さんは結果が出る度に毎度私に怒鳴っては叩いたりするようになりました…しかしそれはまだやさしい方なんです。
京
やさしい方…?
彩翠
私、何とか難関校といわれるような中学に入ることが出来て、すっごく嬉しかったけど お母さんは全く喜んではくれない…
勿論、中学校でも勉強は怠らないように過ごしていくつもりだった。
彩翠
でも その中学校には弓道部があって…またやりたい!って思えたんです。
彩翠
どんなに殴ったり怒鳴ったりしてばっかりになってしまったお母さんでも、、、、やっぱり私は お母さんが大好きでした。
彩翠
そんな私が いつも遊びに行っていたのが、おじいちゃんとおばあちゃんの家でした…。
2人は私が何かする度に凄いねーって褒め言葉を言ってくれるような、そんな優しい人達で、私はお母さんのことは大好きでも、それ以上におじいちゃんとおばあちゃんの方が好きで 2人の家は私の最高の居場所。それは今でも思っています。
彩翠
…お母さんは私がまた再び弓を始めたことに不満を持ってて…でも…、お母さんは何も言わなかった…
だけどその代わりに、お母さんはとうとう私に愛想をつかしたのか、お母さんは昼間出かけて夜とか夜中に帰ってくるようになり 長い時は3日ぐらい家に帰ってこなかったりしました。
冷蔵庫を開けても中身は空っぽ…お小遣いも今まで貰ったことがなかったから、私はおじいちゃん達のいる家に泊まりました。
京
…それって………
彩翠
まあ、そのもっと前から、もう とっくに愛想なんてものは消えて無くなっていたのかもしれないですけどね…
京
…
彩翠
最近はお母さんの化粧っ気も濃くなって…
なのに 家に帰ってくると思えばストレス発散のためなのか、私に意味も無く怒鳴り散らしたり蹴ったり殴ったりで…挙句の果てにものを投げつけてきたりもするんです…
彩翠
でも私は我慢すればいいと思ってます。だって私が何か口出しして反論したりやり返したりすると、余計にヒートアップするようで 酷くなるだけじゃないですか…
京
…
彩翠
だから、大丈夫です^^
気にしてくれてありがとうございました
彩翠
色々と長い話になっちゃって…ごめんなさ…
彩翠
え!?あ…ふ 福嶋…さん…?
俺は自分でも驚くくらいに号泣していた…。
多分…母さんが死んだあの時よりも…
胸の奥を鷲掴みにされたように苦しくなって、痛んだ。
それは話を聞いていたというのもあるが、何よりも 彼女が話している間に彼女の身体に幾つもの傷や傷跡があるのを見つけてしまったから…。
そして、、、
1番は彼女の心に負った大きくて深くえぐれた傷が、自分に見えた気がしたから………
彩翠
あ…あの…えっと…
困ったように慌ててテンパっている彼女の姿を前に俺は涙が止まらなかった