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翌朝。 昨日の先生とのやり取りのおかげで、 胸の中がいつもよりすこし軽くなっていた。
電車に乗り込むと、 ちょうど座席がひとつだけ空いていた。 そこに腰を下ろした瞬間、 隣から聞こえる声に心臓が跳ねる。
——聞き覚えしかない声。 深くて、おだやかで、 夜な夜な動画で聞き続けてきた声。
私
顔を向ける。 瞬間、息が止まった。 そこにいたのは—— 弟者さん、兄者さん、おついちさん。
よりによって3人、 揃って並んで座ってる。 現実じゃないみたいで、手が震えた。
気づかれないように俯いたけど、 弟者さんがふっと笑って言った。
弟者
その優しい声に、胸がギュッとなる。 兄者さんが続けて、
兄者
俯いたまま、小さくうなずいた。
おついちさんが肩をすこし揺らして笑う。
おついち
電車の音に混じって、 3人の声だけがやけに近くて温かくて、 現実感がどんどん薄れていく。
弟者
おついち
兄者
質問が途切れず、 でも全部、優しくて、押しつけがましくなくて。
気づいたら、 昨日のことも、最近しんどかったことも、 ぽつぽつ話していた。
話し終えたあと、兄者さんが静かに言った。
兄者
耳を疑った。 弟者さんも続ける。
弟者
おついちさんが笑う。
おついち
冗談みたいなのに、 3人の目は全部、本気だった。
気づいたら、 次の駅で一緒に降りていた。
彼らの家は想像より普通で、 玄関に靴がバラバラ、 ゲーム機が多すぎて笑うし、 冷蔵庫にはエナドリと肉しかない。
でも、その雑さが妙に心地よかった。
弟者
弟者さんが軽くドアをノックする。
兄者
兄者さんが低い声で言う。
おついち
おついちさんがケラケラ笑う。
その優しさに触れた瞬間、 溜め込んでた息みたいなのが全部抜けて、 涙が勝手に溢れた。
3人は驚きもしないで、 ただそばに座ってくれた。
兄者
兄者さんの声は、とても静かだった。
その日、私は決めた。 ここで少しだけ、 心を休ませてみようって。
——推しと暮らす日々が、 こんなふうに始まるなんて思わなかった。
1週間後
静かに、でも確実に日常が変わっていく。
引っ越したわけじゃない。 “ちょっと心が疲れた時に戻れる場所” それだけのはずだった。
だけど気づけば、 終電を逃した日の夜も、 ちょっと落ち込んだ日の帰り道も、 私は自然と彼らの家へ向かっていた。
ある朝、キッチンからジューッという音が聞こえた。 覗くと、弟者さんがフライパンを振ってる。
弟者
寝起きの低い声に、心臓がまた変な跳ね方をする。
私
弟者
フォークを渡され、一口食べた瞬間、 なんだか胸がじんわり温かくなった。
私
弟者さんは照れ隠しみたいにフライ返しで顔を隠した。
部屋で課題をしていると、 ノックもなく静かにドアが開く。
兄者さんがそっとホットココアを置いてくれた。
兄者
それだけ言って、またドアを閉める。 多くを語らないのに、 その一言がやけに心に響いた。
ある夜、3人でゲームをしていると、 おついちが私の肩をポンと軽く叩いて笑う。
おついち
その瞬間、 肩の温度が中学の頃の記憶を呼び覚ます。 先生が“大丈夫?”って そっと肩をトントンしてくれた日のこと。
胸がちくりとした。 でも、すぐにおついちが気楽な声で続ける。
おついち
照れ隠しのように肘がぶつけられ、 私は思わず笑ってしまった。
眠れない理由。 布団に入っても、 心臓がなにかを訴えてくるみたいに騒がしい。
弟者さんの優しい声。 兄者さんの静かな温度。 おついちさんのはしゃぐ笑い声。
どれも心地よくて、 どれも安心する。 こんなふうに誰かに守られる感覚、 いつ以来だろう。
目を閉じると、 夜の静けさが耳に染み込んでくる。
私
そんな確信が、 胸の奥に小さな灯みたいに灯っていた。