柚
……にじみ出るように心にわいてくる、 一つの記憶があったから。 そういつかの…彼のセリフが。 ーーーー『日向の夢は何?』 『トップアスリート。…だけど、 もしそれが無理だったら…』 無理だったら…。 なぜ急に思い出したのだろう。 …その言葉の続きであり、 彼のもう一つの夢。 ーーーー『ダメ。日向みたいに速く走れない』 『もっとしっかり腕振って、前見て』 …いつの、ことだっただろうか。 記憶があざやかによみがえる。 いつかの中学時代のグラウンドに、 引き戻される。 タイムを伸ばそうと必死になっていた、 あたしのそばで微笑みながら… 彼は確かにいった。 『走るのもいーけど…。…世界中の色んな 人達に、走る楽しさを伝えんのも、悪くは ないな』
あたしは震える胸を押さえ、 静かにまぶたを閉じた。 ーーーーこれは夢…? …だって神様はいつだって、 意地悪ばかりだった。 神様がいるならこんなに、 苦しい思いはしなかったのに。 はかりきれないほどの涙を、 あたし達は流した。 だからあたしは、 神様も運命も何も信じない。 そう決めていたけど…。 『同じ道を歩けなくても、いつか道が 交わることがあるのなら』 ーーーーあの日願った言葉だけは、 届いたのだろうか。 …何年も何年も… 君だけを思い続けていた。 その想いだけは届いた…のだろうか。
部員
??
柚
ーーーーあの頃。 グラウンドという小さな世界で、 あんなにも光り輝いていた彼に恋をした。 神様どうかあたしに、 最後の奇跡を下さい。 …だって知っているはずでしょう? あたしは決して彼を見つめることを、 やめはしないのだと。
柚
涙が出るほどに懐かしい声が、 匂いが確かに目の前に現れたとき。
柚
??
神様は、最後の小さな小さな、 幸せな奇跡を起こした。
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