その夜、リビングでぼんやりと考えていると、はやちんがソファに座っているのが目に入った。
まだ少しだけ頭が重かったけど、気持ちを整理したくて、思い切って隣に座った。
楓弥
……はやちん、ちょっと相談がある

颯斗
また?
ふみちゃんは悩めるお年頃ですね〜

楓弥
もぉ、真面目に話してるんだけど

俺はちょっとふざけた口調で返しつつ、どう切り出そうか考えた。
楓弥
実は、今日……

はやちんはその言葉に少しだけ反応して、携帯を片手にじっと俺を見た。
颯斗
今日何かあったの?

楓弥
……次のバディチャンの企画で、“恋人密着ドキュメンタリー”を撮るって言われたんだよね

颯斗
……はい?

楓弥
要するに、ふみくんとの“カップル動画”を撮るんだって

楓弥
でも、これって俺たちの関係が本当にカップルみたいに見えるようにしなきゃいけなくて、、

楓弥
演技だってバレないようにしないといけないの

はやちんは一瞬黙って考え込むように視線を外したけど、すぐに顔を上げて俺を見た。
颯斗
それが嫌なの?

楓弥
嫌じゃないけど……なんて言うか、

楓弥
演技以上のことを求められる気がしてさ

楓弥
俺、ふみくんのことが好きだって、自覚あるけど、このまま演技を続けるのは不安で……

俺はその不安を言葉にするのが苦しくて、顔をそらした。
楓弥
、、もし俺が本気でふみくんのことを好きだって知ったら、どうなるんだろうって…

はやちんはしばらく黙っていたけど、やがて軽く肩をすくめた。
颯斗
本気で好きになってるから、演技の中に本気の気持ちが入ってくるだろうし、

颯斗
それがふみくんにバレるのが怖いんだ?

楓弥
……うん

はやちんは少し考えるように下を向いてから、俺に向かって笑った。
颯斗
でもさ、演技でやってきたことを続ける中で、ふみくんに本気で惹かれていく自分がいるのも事実でしょ?

颯斗
それをどう誤魔化すかより、どう向き合うかを考えないと、

颯斗
結局はもっと自分が苦しくなるんじゃない?

楓弥
…演技だけど、気持ちが本物になってきて、でもそれが怖くて、どうしても隠したくなる

楓弥
でも、このまま演技だけしている方が楽なんじゃないかって思ったりもして、

はやちんは、少しだけ俺を見つめた後、やさしく言った。
颯斗
楓弥がどうしても“演技”を続けたいなら、それも一つの選択肢だろうけど、

颯斗
ふみくんに本気で惹かれてる時点で、楓弥がどう誤魔化すかを考えるより、どう向き合うかを真剣に考えた方がいいよ

楓弥
……わかってる。
でも、どうすればいいか分からない

颯斗
楓弥が悩んでる理由も、よく分かる

颯斗
でも、今の気持ちを無理に抑え込もうとするんじゃなくて、向き合うしかないんだよ

颯斗
演技だって、気持ちが本気になったら、もうその先に進むしかなくなるんだから

楓弥
……ふみくんに、どう伝えるべきなんだろう、

颯斗
それは楓弥が、ふみくんとどう向き合いたいかにかかってるじゃない?

颯斗
向き合ってみて、楓弥が本当にその気持ちを伝えたいって思うなら、素直に言えばいいし。それだけだよ

はやちんの言葉に、
少しだけ肩の力が抜けた気がした。
楓弥
ありがとう、はやちん

颯斗
それじゃ、あとは楓弥の心が決めることだね〜

颯斗
焦らず、自分の気持ちに素直になれよ

俺はその言葉を胸に、少しだけ前を向けるような気がした。