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だが

いきなり話し掛けられたどっぺちゃは

後頭部から伝わるほど警戒心を剥き出しにする

冷静に考えれば無理は無い

今の俺たちは

肩から上を黒く染めた変態だ

とはいえ

これは予期せぬパス

後は劇団員のフリをしてパスを受けとり

流れに乗ってシュートを決めるだけだ

俺は翠の背中に視線を送り

意思疎通を図る

翠は気配を察したのか

背中越しに親指を立てて見せた

いいえ

そういう者ではありません

あっはっは!

俺は思わず川へ転落しそうになる

あいつ

絶好のパスに見向きもしなかった

劇団員から変態に格下げされ

いつ通報されてもおかしくない状況が整ったのに

翠の足取りは余裕を崩さないままである

汗でぬらぬらと黒光りしているせいか

もはや夏の鴨川だけ現れる妖怪の類にも見えてきたが

まだ何か妙案があるのかもしれない

翠は馬鹿ではあるが

能無しの阿呆ではないはずだ

俺は一縷の望みを託し

なおも翠を見守る

そんなことより

お兄さんが連れてるトイプードル可愛いですね

前言撤回

どうやら能無しの阿呆のようだ

翠の出で立ちは

そんなことでは済まされない

身の毛もよだつ会話のデットボールである

この作戦は失敗だ

桃にどう言い訳しようと考える俺をよそに

翠はバリトンボイスでなおも滔々と語りやがる

トイプードルって

実はヨーロッパの方では十八世紀頃から存在した犬種らしいで

日本では

比較的新しいイメージあるし驚きよな

翠はどっぺちゃの反応を気にする様子はなく

トイプードルのうんちくを垂れ流す

強引ではあるが

この作戦はありかもしれない

共通の話題で盛り上がるのは

仲良くなるために有効な手段である

ここにきて

俺は翠の評価を改めた

やはり

こいつはやる時はやる男である

けれど

どっぺちゃの反応は芳しくない

困ったように立ち止まって

翠の方に体を向けた

どっぺちゃ

あの

どっぺちゃ

この子...

どっぺちゃ

ポメラニアンです

それは

あまりにも無情な宣告

翠はその場で倒れ

小刻みに痙攣し始めた

自信満々だっただけに

さぞ恥ずかしいだろう

恥辱にまみれ

涙に濡れる戦友に別れを告げ

俺はどっぺちゃの隣に並んだ

さてドッペルゲンガーよ

一勝負と行こうじゃないか

さよなら僕のドッペルゲンガー

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