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だが
いきなり話し掛けられたどっぺちゃは
後頭部から伝わるほど警戒心を剥き出しにする
冷静に考えれば無理は無い
今の俺たちは
肩から上を黒く染めた変態だ
とはいえ
これは予期せぬパス
後は劇団員のフリをしてパスを受けとり
流れに乗ってシュートを決めるだけだ
俺は翠の背中に視線を送り
意思疎通を図る
翠は気配を察したのか
背中越しに親指を立てて見せた
翠
翠
翠
俺は思わず川へ転落しそうになる
あいつ
絶好のパスに見向きもしなかった
劇団員から変態に格下げされ
いつ通報されてもおかしくない状況が整ったのに
翠の足取りは余裕を崩さないままである
汗でぬらぬらと黒光りしているせいか
もはや夏の鴨川だけ現れる妖怪の類にも見えてきたが
まだ何か妙案があるのかもしれない
翠は馬鹿ではあるが
能無しの阿呆ではないはずだ
俺は一縷の望みを託し
なおも翠を見守る
翠
翠
前言撤回
どうやら能無しの阿呆のようだ
翠の出で立ちは
そんなことでは済まされない
身の毛もよだつ会話のデットボールである
この作戦は失敗だ
桃にどう言い訳しようと考える俺をよそに
翠はバリトンボイスでなおも滔々と語りやがる
翠
翠
翠
翠
翠はどっぺちゃの反応を気にする様子はなく
トイプードルのうんちくを垂れ流す
強引ではあるが
この作戦はありかもしれない
共通の話題で盛り上がるのは
仲良くなるために有効な手段である
ここにきて
俺は翠の評価を改めた
やはり
こいつはやる時はやる男である
けれど
どっぺちゃの反応は芳しくない
困ったように立ち止まって
翠の方に体を向けた
どっぺちゃ
どっぺちゃ
どっぺちゃ
それは
あまりにも無情な宣告
翠はその場で倒れ
小刻みに痙攣し始めた
自信満々だっただけに
さぞ恥ずかしいだろう
恥辱にまみれ
涙に濡れる戦友に別れを告げ
俺はどっぺちゃの隣に並んだ
さてドッペルゲンガーよ
一勝負と行こうじゃないか