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颯飛

…朱里

俺は、昨日と同じようにベッドで横になっている朱里に声をかけた。

朱里

……どうしたの?

ほんの少し沈黙があり、その後昨日と同じように微笑んでくれた。

颯飛

(可愛い…)

俺は、少し踏み込んでるとは思ったが、この質問をすることにした。

颯飛

朱里ってさ、彼氏いるの?

朱里

……!

その瞬間、朱里の顔が曇った気がした。

朱里

い……るかな…

颯飛

そっ…か……

失恋したかなと、そっと諦めようとしたが、何かワケありなようにも聞こえた。

朱里

でもさ

颯飛

…ん?

朱里

色々あってさ…別れそうなんだよね……

颯飛

そうなんだ…

正直ラッキーと思ってしまった。

でもこの判断もあながち間違いでは無いと思いたい。

だって、会ったばかりの人に涙目になりながらこんなことを打ち明けるなんて、よほど辛いんだろうなって思ったから。

そんな思いさせる人と一緒にいても朱里は幸せになれないんじゃないかと。

思ったから。

颯飛

俺でよければ、話聞こうか?

朱里

……っ

正直、話しにくい。

元々、人に相談をしてこなかった私が、人に相談するなんて。

そして、悩みの原因となる人にその悩みを話すだなんて。

でも、善意は折りたくないから、適当に濁しながら話すことにした。

朱里

なんと…いうか…すごく、すれ違っちゃって。二人の間に、大きな事件があったんだけど、それをきっかけに亀裂が入っちゃって、それですれ違って、喧嘩ばかり。向こうは別れるって言っててさ。

颯飛

……別れたら?

朱里

っ……

颯飛

朱里にとってその人である理由って?お互いに愛し合えてる訳じゃないのに、その人のそばに居続けても朱里が苦しいだけじゃないの?

朱里

…………

颯飛は、絶対私のためを思って言ってる。

そうなんだろうけど…

私にはどうしても、“俺は朱里のこと好きじゃないから別れて”と言われているようにしか聞こえなかった。

朱里

……別れた方が…いいのかな…

颯飛

その人といて幸せになる自信が無いならそうした方がいいと思うよ。

朱里

幸せに…なる自信……

この前盗み聞きしたときに、颯飛に好きな人がいるという事実が判明した。

そしてそれはきっと私ではないんだろう。

だって、颯飛には私から告白した。

きっとそれがきっかけで好きになってくれたんだろうけど…

逆に、それがなければ私のことを好きになることがなかったんじゃないかと思う。

朱里

(ほんと、この人はなんで私のことを好きになってくれたんだろう。)

朱里

……別れた方が…いい気がしてきた。

颯飛

……!

颯飛

それがいいと思ったら、そうしたらいいと思うよ。

朱里

そう…だね……

様子を見る限り、颯飛は私や、私から知ったものの記憶は無さそうだ。

朱里

(別れても、なんの問題もなさそうだし、むしろその方が颯飛のためかもな…)

私が我慢すれば、すべてまとまるんだ。

その日の夜。

朱里は隣のベッドで咽び泣いている。

颯飛

(反応見てる限り余程好きだったんだな…彼氏のこと。別れるって決意したなら尚更、辛くなるか。)

朱里が別れると決意してフリーになるという安心感

別れるにあたってこんなに泣くほど愛されていて羨ましいという思い

俺が強引に別れさせてしまったと思う罪悪感

それらが混同してモヤモヤしていた。

颯飛

(朱里と話したいけど…さすがに落ち着くまで待った方が良さそうかな)

気付いたら、咽び声は無くなっていた。

颯飛

寝た……のか?

俺は朱里のベッドの所に行き、顔を眺めた。

その顔には、涙やその跡が多くあり、とても寂しそうな顔をしていた。

朱里

…………

気付いたら朝になっていた。

颯飛

あ、朱里、おはよう。調子はどう?

朱里

あ……

颯飛の顔を見た瞬間、“ほんとにこの人と別れなきゃいけないんだ”という絶望感と、この決断の正当性に気付かせてくれた感謝が入り交じった。

ただ、これ以上迷惑をかけてはいけないと認識して挨拶を返す。

朱里

おはよう。昨日はありがとうね。おかげでスッキリした。

颯飛

……!それは良かった

嘘。嘘だ。

スッキリなんて全然しない。

むしろ、“この選択が正しい”という自己暗示が苦しく、今まで心に埋められていたものがぽっかりと空いてしまったような感覚がする。

朱里

そうだ。私ばっか相談乗ってもらってもあれだし、颯飛のそういう話も聞かせて欲しいな。

颯飛

え…っと…

朱里

…ダメ?

きっと私が言ったのはそういう意図じゃないんだ。

“好きな人”の恋バナを聞くことでこの恋を諦めようとしているのだろう。

朱里

(最低だな。私。)

颯飛

ダメというかさ…もしかしたら知ってるかもだけど、記憶が無いんだ

知ってる。

朱里

記憶?

颯飛

そう…今のところ覚えてないのは彼女のことだけらしいんだけど…

朱里

颯飛彼女いるんだね〜。でも覚えてないって、不穏だね。

颯飛

うん…医者には“事故のショックで忘れたんだろう”って言われたんだけど…

朱里

そっか…でも友達さんとかから彼女のこと聞けないの?

颯飛

それがみんな知らなくて…
俺だけじゃ彼女に関すること全く分からないから、友達に聞くしかないけど、友達は高校の時から付き合ってることは教えてくれたんだけど、それ以外の情報は俺言ってなかったらしくて…なんの手がかりもなくて…

朱里

そっか…

そっか、誰も私のこと知らないんだね。

じゃあ私が言わないと颯飛は気付かないわけか。

颯飛

でもさ、俺好きな人いるんだよ、今

朱里

……。そうなんだ〜どんな人?

颯飛

えっと…それは秘密…だけど…

朱里

あっ、ごめん……

颯飛

いや、大丈夫。
でも、覚えてなくても彼女がいるって考えるとあんまりアプローチできなくて…

朱里

…そっか。

いいんだよ颯飛、その彼女は私だから、無視して。

朱里

気にしなくてもいいんじゃないかな?

颯飛

でも…

朱里

だって、事故った彼氏の見舞いにも来ない彼女でしょ。

颯飛

……!

朱里

そんなの、向こうが颯飛のこと好きだと思えないよ。

皮肉だね。

一緒に事故ったから、見舞いに行けなくてさ。

挙句の果てに颯飛が私の事まで忘れちゃってさ。

誰も私のこと知らなくてさ。

こんなに好きなのに。

だからさ、颯飛。

“居なくなった”彼女なんてどうでもいいんだよ。

颯飛

大丈夫かな…?もし彼女と会ったら…

朱里

大丈夫。きっとそんな機会はないよ。仮に用事があって来れなくても、連絡くらい入れるはず。それすらないなら、好意なんて…

手に暖かいものが落ちた。

朱里

……!!

颯飛

……?!

自分の涙だった。

朱里

あれ…なんでだろ…涙が出てきちゃった…

多分、自分の心に嘘ばっか吐いてたから、辛くなったんだな。

颯飛

……

その時、そっと抱きしめられた。

朱里

……!?

颯飛

ごめん、別れたばっかで辛いのにこんな話しちゃって

朱里

……っっ

私は、ゆっくり、だけど力強く、颯飛を押しのけた。

颯飛

っ!

朱里

大丈夫、私“なんか”のことはほっといて。こういうのは“本当に”大好きな人にしてあげるべきだよ。

自分の中で何かが崩れていくのがわかった。

今まで人に見せないようにしていた部分が徐々に見えた気がした。

朱里

ごめん、ちょっと私……

私には逃げることしか出来なかった。

ただただ、“屋上に向かって”

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