朋絵が目を覚ましてから3日
朋絵の病室は花だらけ
真理亜
まるでお花屋さんですね
真理亜
みんな朋絵さんのこと
真理亜
心配してくれたのですね
朋絵
(そう、みんながお見舞いに来てくれた)
朋絵
(花も気持ちもとてもうれしい)
朋絵
(でも…)
朋絵
ねえ、真理亜
朋絵
なんで高橋君は来てくれないの?
朋絵
(恋人なのに)
朋絵
やっぱり火傷?
真理亜
個人情報は教えられません
朋絵
(あの事故)
朋絵
(思い出せない)
朋絵
(思い出そうとすると頭が痛む)
朋絵
(何か記録があれば…)
朋絵
スマホを返して
真理亜
私が新しいものを差しあげたはずです
朋絵
それじゃない
朋絵
私のスマホ
真理亜
これですか?
朋絵
え?
真理亜が取り出したもの
焼け焦げ溶けた何かだった
朋絵
それって私のスマホ?
朋絵
ハンバーガーのパテみたいなそれが?
真理亜
スマホって
真理亜
その人の分身だと思いませんか?
真理亜
好みの音楽や写真
真理亜
友達や恋人との会話の履歴
真理亜
すべてがつまっている
真理亜
つまりその人そのもの
朋絵
いいから返して!
朋絵はスマホを奪い取る
焼け焦げたスマホは動かない
真理亜
事故で失われたのです
真理亜
データも消失しました
朋絵
こんなひどい火事だったの?
朋絵
だったら高橋君は?
朋絵
あのイベントに一緒に参加してたのよ!
朋絵
(私は自分のことばかり考えてた)
朋絵
(高橋君は火事でどうなったの?)
朋絵
顔の火傷?
真理亜
…………
朋絵
手足を失ったとか?
真理亜
ノーコメントです
ここは病院の屋上
真っ青な空と白い雲
そして風に揺れる花壇の花
朋絵
(とてもきれいな景色)
朋絵
(体がとても軽い)
朋絵
(事故前よりも健康になった気がする)
朋絵
(早く退院したい)
朋絵
(すぐにでも会いにいくのに)
朋絵
高橋君のことを教えて?
真理亜
個人情報となりますので
朋絵
もしかしたら
朋絵
私の額の火傷跡が問題なのかな?
朋絵
高橋君は私の美貌に惚れてた
朋絵
だから少しの傷も許せなかった
真理亜
その傷は治せますよ。すぐにでも
朋絵
冗談よ
朋絵
高橋君はそんなことにこだわらない
朋絵
神経質で気が利かない人だけど
朋絵
そんな人じゃない
朋絵
だから
朋絵
この額の火傷は治さないでいい
朋絵
高橋君の火傷がひどかった場合
朋絵
せめてわかち合いたい
朋絵
それが恋人だから
真理亜
あのイベントには多くの参加者がおりました
真理亜
あなたの高校の生徒も被害が出ましてね
朋絵
ラクロス部も参加するって言ってたっけ
真理亜
その女の子が火傷を負い…
真理亜
別れたケースも出ました
朋絵
ひどい男
朋絵
傷がついたからゴミ箱に?
朋絵
女をアクセサリーとしか思ってないのよ
真理亜
いえ、別れを切り出したのは女性です
朋絵
え?
真理亜
自信がなくなったのかもしれません
真理亜
愛される自信が…
朋絵
そうなんだ
朋絵
(その気持ちは痛いほどわかる)
朋絵
(私だって恐れたんだから)
朋絵
(もしも顔を火傷してたら)
朋絵
(高橋君は受け入れてくれたかな)
朋絵
(そんな『もしも』は関係ない!)
朋絵
(確かなことは)
朋絵
(私たちは壊れる側じゃない)
朋絵
私たちの関係は
朋絵
そんなインスタントじゃない
朋絵
経過はどう?
朋絵
痛みは?
高橋
痛みは残ってる
朋絵
高橋君の病院生活はどう?
高橋
もう退院はした
高橋
通学もしてる
朋絵
そうなの?
朋絵
(私よりも早く退院するなんて…)
朋絵
(軽い怪我なのかもしれない)
高橋
でも、ちょっと孤立してる
朋絵
(やっぱり火傷が原因だ)
朋絵
(みんなに同情されている)
朋絵
もうすぐ私は退院する
朋絵
だからそれまで待ってて
朋絵
(私が彼を支える)
朋絵
(たとえ他の人たちに)
朋絵
(どう思われようとも)
高橋
無理だよ
朋絵
私のことが嫌いになった?
高橋
違う
朋絵
私はただ支えたいの
朋絵
あなたのことを
朋絵
だから信じて
朋絵
私を信じて!
高橋
できないよ
朋絵
できる
朋絵
(メッセージはいつでも平行線)
朋絵
(しょせん画面の言葉)
朋絵
(10バイトにも満たない言葉を)
朋絵
(いくらやり取りしても…)
朋絵
(満たされやしない)
真理亜
彼は恐れています
朋絵
何を恐れるというの?
真理亜
あなたに会うことをです
朋絵
もう退院したんでしょ?
真理亜
はい
朋絵
ここに来ることはできるはず
真理亜
…………
真理亜
あなたの会いたいという覚悟が
真理亜
本物であるならば
真理亜
私は協力をいたします
朋絵
会いたい
真理亜
後悔しませんか?
朋絵
どういう意味?
朋絵
今さら警告?
真理亜
私からの最後の忠告です
朋絵
絶対に後悔しない
朋絵
(するはずがない)
朋絵
私の覚悟は決まっている
朋絵
私は彼の恋人として
朋絵
人生をともにするのだから
朋絵
(そして抱き合いたい)
そして翌日
真理亜
高橋さんに接触しました
朋絵
高橋君の状態は…
朋絵
(いや、聞いちゃいけない)
朋絵
(たとえどんな状態だとしても)
朋絵
(受け入れると覚悟をしたじゃない)
真理亜
高橋さんは
真理亜
あなたに会うとの確約をしました
真理亜
彼も覚悟を決めたようです
朋絵
…………
真理亜
怖いですか?
朋絵
怖いはずがないでしょ
朋絵
覚悟はとっくに決まっている
朋絵
必ず彼を抱きしめてみせる
朋絵
だって
朋絵
それが恋人という定義なのだから
真理亜
はい、そうです
真理亜
私も同感です
真理亜
病めるときも健やかなるときも
真理亜
幸せな時も困難な時も、富める時も貧しき時も
真理亜
死がふたりを分かつまで愛し
真理亜
慈しみ、貞節を守ることを誓う
真理亜
それが恋人の契約なのですから
真理亜
ああ、それでは…
真理亜
エンディングを見せて下さい
その日の深夜
真理亜
密会の場はここです
真理亜
彼はもうすぐこの部屋に来ます
真理亜
ここも私の系列の病院でして
真理亜
特別に許可しています
真理亜
約束の時刻は午前零時
午後11時50分
朋絵
私の怪我
朋絵
実際にどんなものだったの?
真理亜
とてもひどいものでした
真理亜
顔は焼けただれ、手足も…
朋絵
でも治った
真理亜
あなたが選択したからです
真理亜
手術を選んだのです
真理亜
最善の治療方法を選びました
朋絵
(覚えていない)
朋絵
(でも、そんな契約を交わした記憶が少しある…)
午後11時55分
朋絵
高橋君…
朋絵
(とにかく会いたい)
朋絵
(彼と抱き合って)
朋絵
(温もりを感じたい)
朋絵
(たとえどんな傷を負っていても)
朋絵
(ふたりでわかち合えばいい)
朋絵
(そう、私たちは恋人なのだから)
朋絵
だから私を信じて
病院に響く足音
足音が病室に近づき、扉の前で止まった
零時
扉が開いた
そこには朋絵の恋人がいた
高橋俊介が立っていた






