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市川 奏
翌日の放課後。旧校舎の三階、いつもの空き教室。
奏は、机の上に置かれたコンビニのカップをジト目で眺めた。
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
ハルは自分の分(こちらは生クリームが乗った甘そうなラテだ)を手に、ひらりと隣の席に座った。
奏は観念したように息を吐き、カップの蓋を開ける。
立ち上る苦い香りが、埃っぽい教室の空気を一瞬で塗り替えた。
市川 奏
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
市川 奏
奏は一口、ゆっくりとコーヒーを喉に流し込んだ。
その様子を、ハルはじっと眺めている。
大型犬が獲物を……というよりは、お気に入りの玩具を観察しているような、キラキラとした視線だ。
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
市川 奏
ハルは「ははっ!」と声を立てて笑った。
奏の言葉はいつも遠慮がない。
けれど、そこには悪意や嫉妬が一切混ざっていないことを、ハルは敏感に感じ取っていた。
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルがバッグから取り出したのは、真新しいビジネス系の新書だった。
表紙には『勝つためのコミュニケーション術』なんて派手な文字が踊っている。
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
不意に、ハルの声が少しだけ低くなった。
奏はページを捲る指を止める。
市川 奏
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
ハルの瞳に、少しだけ本音が混じる。
キャンパスを歩けばスター扱い。
けれど、その中心にいるのは「瀬戸ハル」という記号であって、自分自身ではないような感覚。
奏はコーヒーを一口飲み、窓の外に目を向けた。
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
市川 奏
奏の言葉は、自虐というよりも、ただの事実確認のように淡々としていた。
陽キャでもなく、陰キャでもない。
どちらの世界にも馴染めるけれど、どちらの責任も負いたくない。
そんな「間(あいだ)」に漂う奏のスタンス。
瀬戸 ハル
瀬戸 ハル
ハルが椅子を少しだけ近づける。
奏の鼻先には、ハルの香水の匂いが微かに届いた。
シトラスの、爽やかで、けれど少しだけ強引な香り。
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
ハルは茶目っ気たっぷりにウインクをした。
奏はそれを受け流すように、再び文庫本に視線を落とす。
__その時だった。
女子
突然、教室の扉が勢いよく開いた。
現れたのは、ハルと同じ学部の華やかな女子二人組だ。
女子
女子
瀬戸 ハル
ハルの顔が、一瞬で「いつもの笑顔」に切り替わる。それは完璧なプロの仮面だった。
女子たちはハルの腕を掴む勢いで詰め寄るが、ふと、その隣に座っている奏に気づいた。
女子
瀬戸 ハル
ハルが言葉を詰まらせる。
奏は、彼女たちの視線の中に「侵入者を見る目」を見つけた。
ハルという輝かしい太陽に近づく、得体の知れない地味な存在への警戒心。
奏は静かに立ち上がり、読みかけの本をバッグにしまった。
市川 奏
市川 奏
瀬戸 ハル
市川 奏
奏はハルの制止を聞かず、すれ違いざまに一度だけ女子たちに会釈をして、教室を後にした。
背後でハルが何かを言っている声がしたが、振り返らなかった。
廊下を歩きながら、奏は自分の胸に手を当てる
いつも通り。
静かな日常。
一人が一番楽なはずだった。
市川 奏
一方で、教室に残されたハルは、女子たちの誘いを適当にあしらいながら、空になった奏の席を見つめていた。
自分を特別扱いしない奏。
そんな彼を、自分だけの「特別」にしたいという独占欲が、金髪の下で静かに鎌首をもたげていた。