セイヤ
先生、俺達も質問権を行使させてもらう。
ヒメ
セイヤ、どんなことを聞いても、あいつが本当のことを言っているか、嘘をついているか分からないんだよ?
ヒメ
どんな質問しても無駄だと思うけど。
ツヨシ
いいや、セイヤのことだ。
なにか考えがあるに違いない。
マドカ
まぁ、黙ってセイヤに任せましょう。
マドカ
ただでさえ、もう私達には手出しができないんだから。
志賀先生
おー、いいぞセイヤ。
どんな質問だ?
セイヤ
その前に、前提としてひとつ設定を加えさせてくれ。
セイヤ
今、俺達の目の前にいる先生をAとする。
セイヤ
それと同様に、もう1人仮定の先生がいるとする。
セイヤ
これをBとしよう。
セイヤ
それでもって、AとBのどちらかは正直に質問に答える先生、もう一方は質問に嘘をつく先生ということにして欲しい。
志賀先生
……俺がこの場に2人いるという前提なのか。
志賀先生
まぁ、いいだろう。
志賀先生
どちらかが本当のことを言い、どちらかが嘘をつく。
志賀先生
それでも、俺がそのどちらかなのかは分からないからな。
ツヨシ
セイヤ、随分と回りくどいことをするな。
一体なんのために……。
セイヤ
まぁ、見ててくれよ。
これで、抽選箱の中に当たりが入っているのかどうかが明らかになるから。
志賀先生
さてさて、面倒な設定をしてくれたが、セイヤはどんな質問をしてくれるのかな?
担任に向けての質問。前提が通った時点で、もはやこれしかなかった。
セイヤ
俺が【抽選箱の中に当たりは入っていますか?】と聞いたら、もう1人の先生は【はい】か【いいえ】のどちらを答えますか?
セイヤの質問に、ただでさえ静かな教室が、さらに静まり返ってしまった。
志賀先生
……なるほど、考えたなぁ。
志賀先生
その答えは……【はい】だ。
セイヤ
やっぱり……。
セイヤ
抽選箱の中に当たりは入っていないんだな?
ヒメ
は?
今のでなんで分かるの?
質問が複雑すぎて、ヒメさっぱり分からないだけど。
セイヤのやり方が複雑だったせいか、ヒメがややヒステリックになって問うてくる。
セイヤ
ヒメ、落ち着いてくれ。
順番に話すから。
入っていると思っていた当たりが入っていなかったのだから当然だ。
セイヤ
いいかい?
まず……。
セイヤはみんなが分かるように、机の上に鉛筆で直接書いて説明を始める。
セイヤ
先生が仮に2人いるとして、どちらかが本当のことを言う先生、どちらかが嘘つく先生ということにする。
現時点では、志賀がA、Bどちらなのかは分からない。
セイヤ
実はこの前提が大事で、志賀がこれを受け入れた時点で、本当のことを言おうが嘘を言おうが、俺には本当のことが分かるようになっているんだ。
セイヤ
で、この2人に分けた先生の性質は、こんな感じになってる。
セイヤ
これを踏まえた上で、さっきの質問をしてみるんだ。
セイヤ
【抽選箱の中に当たりは入っていますか?】っ聞いたら、もう1人の先生は【はい】か【いいえ】のどちらを答えますか?
セイヤ
この質問に対して、志賀は【はい】と答えたよね?
セイヤ
肝なのは、本人の答えではなく、双極的なもう1人に答えを求めた時のことを問うてること。
セイヤ
AはBがどう答えるか。
BはAがどう答えるか。
セイヤ
それを答えないといけない。
セイヤ
もし仮に志賀がA……本当のことを言う先生だとする。
セイヤ
この場合は、B……嘘をつく先生がどう答えるかを回答する必要がある。
セイヤ
つまり、抽選箱の中に当たりが入っているなら、嘘をついて【いいえ】とBが答える――これを回答としなければならない。
セイヤ
逆に抽選箱の中に当たりが入っていない場合は、Bが嘘をついて【はい】と答える――これが回答になる。
セイヤ
逆に志賀がBだとしよう。
セイヤ
こちらの先生は嘘つき。
セイヤ
Aがどう回答するのか――に対して嘘をつく。
セイヤ
抽選箱の中に当たりが入っていれば、Aは正直に【はい】と答えるから、そこで嘘をついて【B】は【いいえ】と答える。
セイヤ
そして、抽選箱に当たりが入っていなければ、Aは当然【いいえ】と答えるから、Bはその真逆の【はい】と嘘をつくことになる。
ツヨシ
ちょっと待てよ。
ツヨシ
抽選箱に当たりが入っていた時、Aは【いいえ】と答えるし、Bも【いいえ】と答える。
ツヨシ
抽選箱に当たりが入っていない場合、Aは【はい】と答えるし、Bも【はい】と答える。
ヒメ
どっちの答えも同じになる!
セイヤ
そう、俺の質問に対して、どちらも同じ答えになるんだ。
セイヤ
そして、俺の質問に対して志賀は……。
セイヤ
【はい】と答えた。
セイヤ
両者共答えが【はい】になるパターンは……。
マドカ
抽選箱の中に当たりが入っていない場合だけってことね。
セイヤ
そう。
逆な答えが【いいえ】だったら、抽選箱に本当に当たりが入っていることになる。
志賀先生
セイヤ……。嘘つき村と正直村の応用か?
志賀先生
なるほど、考えたな。
ヒメ
正直村と嘘つき村?
セイヤ
典型的な理論クイズだよ。
それを応用させてもらった。
志賀先生
さて、それじゃあ、くじ引きを再開しようか。
志賀先生
セイヤ達も俺をうまい具合にやり込めた気になっているかもしれんが、もうお前達に抽選権はないんだよ。
志賀先生
お前達にはなにもできない。
志賀先生
さぁ、再開しよう。
志賀先生
最後の1周。
せいぜい足掻いてくれ。
ヨウタ
いや、今の話聞いてただろ?
ヨウタ
抽選箱の中に当たりが入っていないなら、抽選することに意味がねぇだろ。
ヨウタ
ってか、当たりが入ってないとか反則じゃねぇか?
志賀先生
ヨウタ、俺はセイヤの質問に答えただけで、一言も当たりが入っていないなんて言っていないぞ。
志賀先生
セイヤ達が勝手に言ってるだけなんだよ。
志賀先生
それでも引かないというのであれば、抽選権を放棄したと考えさせてもらうが。
ヨウタ
……仕方ねぇ。
マドカ
セイヤ、抽選箱に当たりが入っていないことさえ分かれば、打てる手があるんじゃなかったの?
セイヤ
あぁ、ある。
セイヤ
でも、マドカ。
これだけは言っておくよ。
セイヤ
これは、あくまでも誰かの班を生かすための手段であって、俺達は助からないんだ。
マドカ
え?
マジで?
ヒメ
そんな……。
セイヤ
そして、ごめん。
俺には決められない。
セイヤ
どの班を生かすべきかなんて、そんな大それたこと……。
セイヤ
俺には決められない。
残念ながら、何事もなくハカセ達の班もくじを引き終えてしまう。
セイヤ
もう、救えるのはシズカの班だけか……。
ツヨシ
セイヤ、もうここまで来たら仕方ねぇ。
ツヨシ
このまま全滅するよりかは、誰かが生き残ってくれたほうがいい。
ツヨシ
シズカ達を助けられるなら、助けてやってくれ。
マドカ
……セイヤならもしかしたらって思ったけど、いよいよ駄目みたいね。
マドカ
シズカ達が生き残るのも面白くないけど、このまま志賀の思い通りに全滅するのは、もっと嫌。
ヒメ
なんでそんなに簡単に決められるの?
死ぬんだよ?
ねぇ、私達は死んじゃうんだよ?
セイヤ
みんな、ごめん。
セイヤ
託そう……シズカ達に。